サイアミディン

診療の中での葛藤

糖質制限の考え方は少しずつ世の中に広まりつつありますが、

まだまだ糖質制限を推奨できない医療者が大多数というのが現状だと思います。

そういう状況の中で糖質制限推進派の医師としての立場を取り続けることは、

日々診療の中で自分の中で様々な葛藤と戦い続けることにつながります。

例えば、糖尿病でコントロール不良の患者さんを医師として自分で受け持ったとします。

もしも担当の主治医が「糖質制限が糖尿病の治療として最も合理的」という考えをもっていた場合に、

はたしてどういう葛藤が生まれることになるでしょうか。
全国のほとんどの病院では糖質制限が導入されておりませんので、

まずその状況の中で、どうやって糖質制限を勧めるかという事になります。

私の場合は、多くの場合まず主食を半量にするという従来医療の中でもありえる選択肢を活用して、

糖質が血糖値を上昇させるという理論を説明した上で、患者さんに少しでも糖質を控える事を勧めます。

それで血糖コントロールがついた場合はそれでもよいのですが、

それだけでは十分な血糖コントロールがつかなかった場合には、さらに糖質制限を勧めるべきか否かで迷いが生じます。

もちろん、自分の考えや信念に基づけば、「糖質をさらに控える」という選択を当然勧めるべきなのですが、

実際には、主食を半量にするというのと、主食をゼロにするというのでは大きな壁があるわけです。


まず入院中の食事を管理する栄養管理部は主食をゼロにする事についてまず理解を示す事はありません。

そうすると患者さんと主治医との合意の下で、自主的に主食を食べないようにしてもらうという事を検討する必要が出てきますが、

患者さん側も必ずしも主食を減らす事に理解を示してくれる人ばかりとは限りません。

医師の言う事だから「主食を半分に減らす」というところまでは我慢して了解していたが、主食をゼロにするとは何事だと怒り出す患者さんが出てくる可能性もあります。

さらにはそのハードルをクリアして、仮に患者さんが主食抜きを実践してくれるとなったとしても、

24時間365日自分が主治医としてその患者さんを診療し続けられるとは限らないという落とし穴があります。

例えば、主治医が出張で2-3日留守にするという場合、

その間に何かトラブルがあった場合は、別の代行医の先生が対応する事になるわけですが、

その時に対応する医師は多くの場合、糖質制限を理解していない医師になるので、下手すれば体調不良の原因は「糖質制限をしているせいだ」と責められる展開になりかねません。


このように、たとえ理論的に正しくても、実際に実行するには様々なハードルがあるわけです。

そういういろいろな事を考えたときに、既存の医療体制の中で徹底的な糖質制限を勧めることにはある種の困難さがつきまとう事にどうしてもなってしまいます。

そこで私の中ではいつも葛藤が生まれ、いろいろ考えた結果、これ以上の糖質制限を断念し、やむなくインスリンを用いてしまうという事があったりもします。

しかしインスリンで血糖を下げるという事は同時に危険性をもたらす事でもあるという認識が私の中にはあります。

それは単に低血糖の危険性の事だけではありません。

細胞増殖効果によるがん発生リスクにもなりますし、酸化ストレスを高め認知症など神経変性のリスクとなる可能性もあります。

糖質制限を徹底する選択をとれば、そうした無駄なリスクを全てなくすことができるのに、

それができない環境での選択を現場では迫られ続けるわけです。



もしも、読者の皆さんが糖質制限推進派医師の立場だとしたら、どういう選択をするでしょうか。

この問題を解決するために、医療の枠組み自体を抜本的に変えていく必要性を私は強く感じています。


たがしゅう
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その葛藤よくわかります

たがしゅう先生、ご無沙汰でした。

私の場合はラップ療法を始めたころに、同じような状況になりましたが、一人医長だったために、うまく切り抜けて標準治療へと持って行くことができました。
こういう新しいことは、一人の医師がほぼ全責任を担うような体制でないと、難しいですね。
だから、開業医のほうが、先を行けるのですよね。

このような、葛藤は患者さんにはなかなか理解していただけないかもしれません。
私は自宅にいながら、糖質制限をしていける方のみに、治療法の一つとしてお話しています。

No title

たがしゅう先生
こんにちは

おそらく多くの医師、栄養士さんも糖質制限の効果については理解しているのではないでしょうか。
ただ、どうしてもそれによって起こるいろいろな体の変化を、すべてよい方向と解釈するにはまだ時間が必要なのでしょうか。完全な主食抜きで少しでも体調変化が現れると、それ見たことかといわれてしまします。

20年前までは毎日傷をイソジン消毒していたように。コレステロールの摂取制限が必要と考えられていたように。
だからこそこのようにいろいろな意見を発信しつずけるすることがすばらしいと思います。

ご自愛ください。

糖質制限よりも低インスリン

糖尿病患者の血糖値、食事内容から入ると、そのようなジレンマに陥りますね。

低インスリン療法で行くのだと決めてしまうと、後は簡単です。患者さんの糖質制限の度合いに応じて、HbA1cは低値から高値に分布しますが、糖尿病体質のインスリン抵抗性が、合併症は自動的に防いでくれます。
血糖値が高くても、低インスリン療法であれば、合併症は発症しない様です。
血糖値が高いと、感染症のリスクは上がると予想されますが、そこは患者さんの自己責任ですよという事です。
鳥類は、高血糖でも長寿です。糖尿病体質の高血糖も思われているほど危険ではないように感じています。

Re: その葛藤よくわかります

たかはし 先生

 コメント頂き有難うございます。

> 新しいことは、一人の医師がほぼ全責任を担うような体制でないと、難しいですね。
> だから、開業医のほうが、先を行けるのですよね。


 その通りだと思います。

 組織の一員として働いている場合は、規格外の新しい事を実践する事は決してできません。そんな事はないと思われる人もいるかもしれませんげ、新しいと思っている事も、あくまで既存の枠組みの中での新しい事であり、ブレイクスルーを起こす事は極めて難しい事だと私は感じています。

Re: No title

糖質制限大好き さん

 コメント頂き有難うございます。
 
 糖質制限の理解度には医療者によって大きな差があります。わかっていると言いながら、私に言わせれば全然わかっていないという人も結構いますので、そういう人も合わせれば真の意味で糖質制限を普及させるのはまだまだ長い道のりです。

 ですが部分的にでも糖質制限を理解してくれる人が増えていけば、世の中はきっと変わります。私も私のいる場所で、私のできる事を続けたいと思います。

Re: 糖質制限よりも低インスリン

新井圭輔 先生

 コメントを頂き有難うございます。恐縮です。

 「低インスリン血症をキープしていれば高血糖の害は言われる程ではない」という先生の御意見、非常に参考になります。

 ただここでも総合病院に所属している医師という立場が障壁となります。もしも高血糖を許容している状況を他の医師に指摘されれば、「どうしてこんな高血糖を放置しているんだ」と言われかねません。糖質制限を伝えるだけでも難しいのに、この状況を相手の医師に理解してもらうのは至難の技です。

 病院での医療というのは、制限された環境の中で生まれる葛藤と戦い続ける事だという事を痛感しています。

はじめまして

たがしゅう先生、初めてコメント致します。

たがしゅう先生の人間の生理に対する考え方が、私は大好きです。
今のところ私自身糖尿病とは縁がありませんが、先生のブログを知ってからというもの、糖質制限をするようになり、アレルギーや偏頭痛(激痛で動けないことがしばしば起こっていました)から解放されて快適な日々を過ごしております。

先生の葛藤は、当然起こり得るものだとは思っていますが、少し背負いすぎていないかと心配です。
というのも、この患者さんは糖質制限を実践すれば確実に楽になれる。なんていう意見は、糖質を摂れと勧め続ける大きな機関の尻拭いでしかないような気がしてならないからです。
また、患者さんが糖質摂取を盲信しているのであれば、今後どんなに苦しいことが待ち受けていたとしても、それを受け入れるのはその人自身(や家族)です。

情報を発信さえしていれば、患者さんが後で「ああ、以前先生が言っていたのはこういう事だったのか。」と受け入れられる日が来るかもしれません。

それでも日本全体で「糖質はヤバいから控えるように」と変わるまでは先生の心労が尽きないのでしょうね。

応援しています

少数派としてのお悩み、お察しいたします。

でも、沈みゆく船に残されている人の不安も大きいと思います。

どのタイミングでこの船から脱出しようかと、まわりをキョロキョロ(笑)


ケトン食を続けることで、何らかのお役にたてれば、と思っています。

応援しています。

No title

たがしゅう先生

おっしゃる事、とても理解できます。

世間では糖質=主食という図式が話しを変にしている気がします。そして医師として診療されている先生だからこその葛藤なのでしょうか。

本日の記事を読んで改めて「糖質制限と出会い、先生に後押ししていただけて幸運だった」という感謝の思いが込み上げてきました。

専門家でも何でもない私の場合、気楽に糖質制限をすすめます。「糖質は主食でなく嗜好品」「糖質はタバコと同じで身体に有害で依存性もある」などと言います。

相手に応じて具体例を交えながら話します。教育職である私の場合、教壇で雑談として話す事もあります。

又歯科医の立場から糖質制限と唾液について話す事もあります。

決して押し付けず「嗜好品として時には楽しんで食べるのは問題ない。しかし毎食食べる必要があるものではない」と言っています。

夢の健康法=糖質制限がもっと世間に広がることを願っています。

くんだみえ

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Re: はじめまして

郷士郎 さん

 コメント頂き有難うございます。

 糖質摂取推奨医療機関で、糖質制限推進派医師の立場を取り続けることは確かに辛いです。

 しかし私は不器用な人間す。糖質制限の正当性を理解してしまった以上、たとえどこで働いていようとも、今更無根拠なカロリー制限を勧める事はもはやできないのです。

 それでも背負いこみすぎずに、ストレス解消もしながらできる限りの事を続けていこうと思います。

Re: 応援しています

saiko さん

 コメント頂き有難うございます。
 
 saikoさんの貴重な経験は、「スタチンは不要」などの私の考えを強固に後押ししてくれており、心より感謝している次第です。

 応援して頂いて有難うございます。今後とも宜しくお願い申し上げます。

Re: No title

栗田三江(くんだみえ)さん

 コメント頂き有難うございます。

 他人の価値観を変えようとすると難しいのですよね。

 アドラー心理学の考え方でいけば、他人を変えるのではなく、「自分が変わる」、そうする事で世界が変わるというわけです。

 自分にできるのは自分の価値観を伝え続けること、それを受け入れない人に対しては「去る者は追わず」、そうした伝わる人に着実に伝わっていく事を見守っていくのがよいのかなと思っています。

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

時間はかかります。

難しい問題ですよね。
私が通う病院の糖尿病内科では、最もベテランの先生が糖質制限に理解のある先生だったおかげなのか、主治医をはじめ他の先生方も寛容で私に自由に好きにやらせてくれているのですが、もしそうでなかったらどうなっていたんでしょう。

糖質制限が短期的には有効だとわかっている先生は以前よりは増えてきているのではないかと思うのですが、「長期的なエビデンスが…」なんて言われたりしますよね。

患者としての私にできることは、淡々と糖質制限による血糖コントロール改善効果をブログで発信し続け、主治医にも効果を認めてもらうことだと思っています。


時間がまだまだかかることだと思います。
でも、焦らずに継続していきましょう。

Re: 時間はかかります。

みさこ さん

 コメント頂き有難うございます。

 医療における根深い闇が根深すぎて、正しい事を広めていくのも至難の技です。

 様々な葛藤はありますが、考えすぎて立ち止まっていても仕方がないので、「今できる事を愚直に続けていくのみ」だと私は思っています。

痩せの高血糖

たがしゅう先生

いつもブログ更新ありがとうございます。狭い?日本なのに、糖質制限に理解の無い医者に辟易しながら仕方なく通う患者(私)がいる一方、先生のように患者や医師仲間との苦悩を抱える方がいらっしゃる•••いつもいつも先生のブログを読む度、たがしゅう先生の患者になれたら‼︎と思っています。

さて、今回たがしゅう先生と新井先生のコメントで、気になる内容があり質問させて下さい。私は昔から痩せの大食いながら、BMI18でHbA1c5.5ですが、最近OGTTで30分以降全て200越えが発覚しました。以来糖質制限しているのですが、偶の羽目外しや自分では大丈夫と思った糖質制限食で、あっと驚き200越え3時間なんてことがあります。でも空腹時は80台•••痩せは肥満細胞のインスリンが出ない分、もろ高血糖の害を、知らずして‼︎受けてるんですよね?以来太った方を見ると、あの人は食べ過ぎてもちゃんと身体が高血糖になら無いようインスリンが分泌できてる(勿論過ぎたるは抵抗性...でしょうが)と、理解しているのですが、両先生のコメントを読むと、インスリン分泌不足による高血糖はそんなに?悪いことではないのですか???空腹時も食後もなんと無く高いままという血糖値ダラダラ高値でHbA1cが高い、まぁ老人に有りがち?なタイプはOKで、やはり私のようにHbA1cはセーフでも乱高下があるタイプはダメなんでしょうか?

Re: 痩せの高血糖

Hang in there! さん

 御質問頂き有難うございます。

 やせ体質の方の生理は実は完全に把握しきれていない部分もあるのですが、

 あくまで私の診療での印象ですが、やせていてHbA1cが低い人は必ずしも健康ではなくて、むしろアレルギーや自己免疫疾患など難治性の病態に悩まされている人が多いような気がしています。もちろん私が病院に勤めているからそういう人ばかり多く見ているだけかもしれませんが…。

 おそらくHbA1cでは反映されてこない未解明の高血糖の害というものがあるのではないかと思っています。

 またやせ体質の人はインスリン分泌能低下があるとは言え、それでも高血糖をきたせば基本的にインスリンが分泌されてしまうので太らなくても高血糖は避けておくべきだと私は考えます。

たがしゅう先生

お忙しい中、御回答ありがとうございました。僅かな?望みを持ったりしたのですが、鳥ではないし、高血糖は避けるに越したことは無いんですね。返答の為に先生がお時間割いて下さった事、本当に心より感謝申し上げます。何の力にもなれませんが、先生の御活躍、いつもいつもお祈りしています‼︎
先生のこと、先生のブログ、私大好きです。
\(^o^)/
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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