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糖尿病の多様性と病気の成り立ち

糖尿病は血糖値はHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を血液検査で測定する事で診断される病気です。

しかし血液検査という技術が確立されるずっと以前から糖尿病の存在は認識されていたようです。

というのも漢方の古典、「金匱要略(きんきようりゃく)」の中に「消渇(しょうかつ)」という言葉が出てきます。

もともとは「のどが渇いて、しきりに水を飲んでも尿の出の少ない状態」の事を指したようですが、

後に排尿回数が多くなる病態も含んで、現代医学で言うところの糖尿病での病態を指すと言われるようになりました。

さらにその消渇の中には「上消」「中消」「下消」という「三消」と言う概念が含まれています。

「上消」とは「多尿だが少食で尿は薄い状態」、「中消」は「食べると栄養がすぐに燃えて枯渇するために多食になり尿は黄色になる状態」、

そして「下消」は「排尿に勢いがなく粘稠性で混濁し、進行すると顔色が黒くなり、痩せて耳たぶが脱水になる状態」の事を指します。
これらは糖尿病のさまざまな側面をよく表していると思います。

一方で、西洋医学的に糖尿病の解説を見てみると、

・血糖値が病的に高くなり、尿中にも糖が排泄されるようになり、その結果、尿糖に引っ張られて多尿(浸透圧利尿)、ひいては口渇、多飲をきたす
・血糖値が病的に上昇することで動脈硬化が進行し、神経、眼、腎臓を中心としたさまざまな臓器に循環障害をきたし合併症につながる

というように、糖尿病の病態を一義的に説明しようとしています。糖尿病という病気を把握するためにそれはそれで大事な事ではあるのですが、

しかし糖尿病患者では、そうした基本的な病態生理は共通していても、人によって様々なバリエーションがあります。

マジョリティが肥満傾向となり、長期間罹患していると神経障害、網膜症、腎症をきたすという傾向はあるにしても、

人によってはやせ型の糖尿病となる人、合併症の中で腎症だけが目立つ人、過食傾向になる人もいれば少食傾向になる人もいます。

そうした個人差は遺伝的背景や腸内細菌の違いによって生み出されているのではないかと思われます。

糖尿病の人の食事で「体重を減らしなさい」と指導しているような医師は、やせ型の糖尿病患者に対応する事ができませんし、

薬物療法も多少の薬の使い分けはあれど、その基本的な治療戦略は一律に「血糖値を正常に保つこと」です。

ところが糖質制限で根本的な病態にアプローチすれば肥満型にもやせ型にも両者に対応する事ができ、

さらに東洋医学の考え方があれば三消それぞれに対する経験的処方を駆使して様々な個人差に対応する事もできます。

東洋医学は血液検査を利用せずとも、そうした糖尿病の多様性を事象観察型のスタイルでずっと以前から把握していたとう事になると思います。

面白いのはこの消渇を生じる原因が、東洋医学的にどのように捉えられているかですが、

①風寒暑湿燥火(外感六淫)
②食事不摂生
③肉体的過労
④房事過多
⑤心労欝積(七情鬱結)


①は暑いとか寒いとかの外的刺激の事で、

④の房事とは性行為の事を言い、房事過多とは房事が多すぎて疲れてしまう事です。

また⑤の心労欝積はいわゆる「ストレス」の事です。

糖質制限を勉強していると、「糖尿病の原因は糖質が全て」だと視野が狭小化してしまいがちです。

勿論、糖質過多摂取が近年の糖尿病急増の大きな要因となっている事はおよそ疑いはないことでしょう。

しかし実際にはストレスを受けてもストレスホルモンの作用を介して血糖値は上昇します。それにストレスに対抗するための体力も重要ですし、不適切な性活動で無駄にエネルギーを消費するのがよくない事も理解できます。

結局、糖尿病という括りで患者を見ていれば本質を見逃しかねないという事かもしれません。

生まれつきの先天性疾患や外傷などを除き、ほとんどすべての病気はを除いて、その人の生き方が反映された結果として現れた状態なのではないかと私は思います。

そういう意味では目の前で起こっている事象をつぶさに観察し、体系化して積み重ねてきた東洋医学の歴史は、

実直に病気を理解しようと努力をしてきた先人達の貴重な足跡であるように私には思えます。


そこまで学んだ上で、以前私が紹介した黄帝内経での黄帝と岐伯のやり取りをもう一度見てみます。

黄帝「最近の若者はどうしてこうも弱くなったのであろうか。昔の者は100歳までしっかり生きたのに最近は50歳くらいで病気になっているではないか」

岐伯「それは美酒、美食におぼれ、運動不足のうえに精を消耗しているからなのです。」

・・・なかなか芯をついた岐伯の発言です。

そこから糖尿病に限らず、広く病気を避け、

健康長寿を目指すにはどうしていけばいいかが見えてくると思います。


たがしゅう
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糖尿病と耳鳴り

はじめて投稿させていただきます。
夫は長年の2型糖尿病で、3月中旬より糖質制限を始め、糖質制限推進医に診てもらうことができ、HbA1c12.7→6.8にさがっています。両脚の動脈瘤で歩行困難だったため、普通の総合病院でステント手術を2回受けました。
問題は、ここ2か月近く「耳鳴り」に悩まされ、主治医は「ウィルス性かも」と抗生物質を試しましたが改善なく、その後は指導なし。
ネットで調べると「左耳のみ」「キーン、シーンという複合音」「いつも鳴っている」状態で、突発性難聴にあてはまるようなので、近所の耳鼻科で難聴ではないか診察受けようとしている段階です。
先生の以前のブログで「耳鳴りは糖質制限でもなおりにくい」の記述が、状況を端的に解説してもらっていて印象的です。「糖尿病、あるいは糖質制限で耳鳴りが悪化する」という可能性はないかどうかお聞きしたいのですが。
一緒に暮らしていても耳鳴りは共感できないし、だれも解決方法を教えてくれないし、本人はイライラして辛そうです。藁にもすがる思いです。まとまりませんが、よろしくお願いいたします。

Re: 糖尿病と耳鳴り

あゆまま さん

 御質問頂き有難うございます。

 糖尿病で耳鳴りを生じる事はあります。糖尿病によって耳への血管が動脈硬化を起こしたり、聴覚の神経への神経障害をきたす事が一つの原因であるようです。

 一方、糖質制限はその糖尿病を改善させるので、理論的には耳鳴りを改善させる可能性を持つと思います。しかしながら私の診療経験の中では糖質制限でも耳鳴りは難治性だと感じる事が多いです。

 耳鳴りに関してはまずは耳鼻咽喉科へ相談してみるのが標準的だと思います。補聴器で改善する例もあるようです。

 それでも改善しない場合は脳の興奮を抑える薬の適応を考える必要がありますが、比較的安全に利用できるのが漢方薬なので、漢方医に相談してみるのも一つの方法だと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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