サイアミディン

漢方でも長期連用は厳禁

先日とある試験の勉強をしている時に、

山梔子(さんしし)という生薬を含む漢方薬が「特発性腸間膜静脈硬化症」という病気の原因の一つと言われている、という文言を目にしました。

一般的に漢方薬は西洋薬よりも副作用が少ない薬と認識されています。

ただいくつかの漢方薬では、特定の処方に対する象徴的な副作用が取り上げられるため、

そのイメージが強く残るために、漢方は結局使いにくい薬だという印象を多くの医師に与えているところがあると思います。

具体的には小柴胡湯による間質性肺炎甘草を含む処方による偽アルドステロン症などが挙げられます。

漢方に副作用があるのはその通りですし、注意して使っていかなければならないものだとは思いますが、

一方で漢方薬の副作用は、無理解な大勢の医師達によって過剰にコマーシャルされ過ぎているようにも思えます。

今回の「特発性腸間膜静脈硬化症」に至っては、「特発性」とは原因不明という意味ですので、はたして原因不明の病気の原因を漢方薬の成分だと決めつけてしまってもよいものかどうか、

納得できる内容なのかどうかを自分なりに検証してみることにしました。
まず「特発性腸間膜静脈硬化症(Idiopathic mesenteric phlebosclerosis:IMP)」とはどんな病気なのかと言いますと、

1991年に我が国の医師によって原因不明の狭窄型虚血性大腸炎として初の症例が報告された比較的新しい概念の病気です。

2014年3月の全国調査によれば特発性腸間膜静脈硬化症と確認された症例は222例と、現時点では極めて発生頻度の稀な病気で、日本人を中心にアジア人のみで報告があります。

病気の起こり方はゆっくりとしていて、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満などをきたしますが、症状がない事もあるそうです。

腹部レントゲンでは右側の大腸を中心に線状の石灰化をきたす事が多く、大腸内視鏡を行うと粘膜が暗青色に変色していたり浮腫を示したりします。

そして病理組織をみますと粘膜固有層という比較的表面に近い粘膜部分の血管周囲に膠原繊維(コラーゲンなど)が著明に増生していたり、静脈壁に線維性肥厚を呈していたりしているのです。

この事実から「特発性腸間膜静脈硬化症」と名付けられたわけですが、222例の報告を検証していった結果、

222例中147例(66.2%)に漢方薬の服薬歴があり、さらにその内119例(81.0%)で山梔子を含む漢方薬の服用が確認されました。

具体的には加味逍遙散(かみしょうようさん)が37例(31.1%)、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が36例(30.3%)、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)が14例(11.8%)、茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)が13例(10.9%)が上位を占めていました。

ただ漢方薬は多数の生薬で構成された超多成分系の薬ですので、漢方薬を飲んでいる人どうしで何かの生薬がたまたま重なるという事は山梔子以外でもかなりの頻度で起こりうる事です。

なにゆえ山梔子が注目されているのか、関連資料をさらに読み込んでみました。


山梔子というのは第十六改正日本薬局方の記載によりますと、

アカネ科(Rubiaceae)のクチナシGardenia jasminoides Ellisの果実で、漢方薬以外にも着色料としても使われています。

例えばクチナシ黄色素は「きんとん」の着色に用いられ、クチナシ赤色素やクチナシ青色素は菓子、冷菓、めん類、農産物加工品などに広く使用されています。

そしてクチナシ青色素は、ゲニポシドという配糖体が主成分です。

配糖体は以前にも当ブログで紹介しましたが、糖と糖でないものが結合した化合物で、糖が結合している事により安定し、胃酸に耐性を持つようになります。

しかも配糖体はヒトの消化酵素で分解できないβ-グリコシド結合を持つため胃で消化される事なく、大腸まで到達します。

大腸まで到達すれば腸内細菌由来のβ-グルコシダーゼによって分解され、アグリコンという形で腸管より吸収される事で薬効を発現すると考えられています。

そしてアグリコンは右側結腸より吸収される特徴があるようです。そうなればクチナシの成分が大腸右側に病変の多い特発性腸間膜静脈硬化症を起こす一因となるという仮説もあながち的外れでもないように思えます。


もう一つの疑問は、それならばその漢方をやめたら「特発性腸間膜静脈硬化症」は治るのかという事ですが、

いろいろな症例報告を見る限りでは、改善するわけではないけれどそれ以上の増悪は見られないとする報告が多数派でした。

中に漢方薬を中止して7年間経過観察できた症例報告(三輪亘ら. 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol.57(5).May. 2015)がありましたが、

この症例では漢方中止後、内視鏡での大腸粘膜所見が著明に改善している事が報告されていました。

それと同時に腸間膜静脈と考えられる血管周囲の石灰化像は改善しなかったとも記載がありました。どうやら漢方薬中止で改善する部分とそうでない部分があるようです。

ここまでの考察を踏まえますと、確かに山梔子が特発性腸間膜静脈硬化症の一因になっているという説は確かにもっともらしいように思えます。

ただし、特発性腸間膜静脈硬化症の全てが漢方薬を飲んでいるわけではないという事から原因の全てとは言えません。

一方で、山梔子を含む漢方薬を内服していて特発性腸間膜静脈硬化症を発症した人のほとんどが、10年以上の長期内服歴があるということがわかっています。


今回の検証から私が学んだ事をまとめます。

自然に存在する生薬を利用している漢方薬と言えど、

これを長期的に内服する事は身体にとって不自然な状況を与え続ける事になります。

その事は副作用のリスクを高めてしまう事にもつながるので、長期連用は可能な限り避けた方がよいと考えます。

また、こうした特殊な副作用の発現にも糖質の関与がありそうです。

絶対数が少ない病気なので、証明はしにくいかもしれませんが、

糖質の摂取を最小限にしておけば特発性腸間膜静脈硬化症のリスク自体を下げる事ができるかもしれません。

いずれにしても糖質制限を基本におき、

たとえ漢方薬であっても、薬に頼るのはあくまで一時的にと心得ておくべきだと私は思います。


たがしゅう
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No title

たがしゅう先生

こんにちは。
いつも先生の熱い向上心に頭が下がります。
私の漢方薬に対する理解ですが。
視診・脈診・舌診・聴診・触診などを行い、その人の現状を総合的に見た上で不足を補い、余剰を取り除く。
急な症状の場合は作用の強いものを短期間服用し、その後の診断で経過を観察。
その時その時に適した漢方(や鍼灸の施術)を処方する。
というような内容を漫画で読んだことがあります(笑)
プラスで、その症状を取り除くための生活指導が必要だとは思っています。
(でも、相手が必ず動いてくれるような指導は難しいのですが…)

東洋医学の診断を詳しく学んだ人は医師や薬剤師の免許を持っていなかったりすることがあるので、近所の鍼灸院に行っても診断はしてくれますが、漢方薬の処方は行ってもらえないことが殆どですので、ちょっと残念です。

Re: No title

郷士郎 さん

 コメント頂き有難うございます。

 郷士郎さんの漢方に対する理解は私のそれと近いと思います。

 東洋医学の理論体系は学べば学ぶ程凄まじいものがあります。これからも精進していきたいと思います。

たがしゅう先生、こんにちは。
すみません、漢方とは関係のない質問なのですが、先生は癌の一番の原因は糖質だと思われますか?

Re: タイトルなし

ささ さん

御質問頂き有難うございます。

> 先生は癌の一番の原因は糖質だと思われますか?

個人的見解にはなりますが、根源は酸化ストレスだと思っています。そして糖質は酸化ストレスの大きな原因となりうると思います。

癌について

たがしゅう先生、初めまして。

風邪をひくと咳や鼻水が出るのは体が異物を排出しようとしている作用であったり、熱が出るのは異物(菌あるいはウイルス?)を倒そうとしている意味があったり、また、痒みは排出作用を僕達自身に促すためのものであり、痛みは体を休ませようとすることを促す役目があったりと、症状というものは(統べからく、かどうかはさておき)生体が生き延びるため或いは恒常性を保つために生じているものだと、ぼくは思うのですが、それが正しいとして、これを癌の場合に当てはめてみると、癌は、取り過ぎた糖という毒を消費して生体を生き延びさせようとしている作用なのではないか、とは考えられないでしょうか。
癌が通常の細胞と比べて多くの糖をエネルギーとすること、酸素が使える状況下でさえ嫌気的解糖による代謝をすること(ワールブルク効果でしたっけ?)などを鑑みると、糖をとりすぎると体の一部が癌化して糖を消費することで体全体の恒常性をなんとか保とうとしているのでは、思います。
素人の妄想じみた考えですが、どう思われますか。

Re: 癌について

マルセル さん

 コメント及び御質問を頂き有難うございます。

> 癌は、取り過ぎた糖という毒を消費して生体を生き延びさせようとしている作用なのではないか、とは考えられないでしょうか。

 実はその点は私も考えていました。

 癌が極端に糖を消費するシステムを持つのは、そうでもしなければ糖が処理しきれないからという解釈もできると思います。

 そういった考え方は医学界の中では極めて異端ですので、慎重に検証していく必要があると思いますが、仮にもしそれが正しいとするならば今行われているがん医療は、抗がん剤にしても手術にしても放射線にしても、ことごとく方向性が間違っているという事になってしまいます。今後熟考すべきテーマだと思います。

回答いただきありがとうございます。
「酸化ストレス」何度も先生が仰られていることですよね。

マルセルさんの癌についてのコメント、私もそんな気がします。
癌細胞は、悪者ではなく、糖を食べてくれるスーパー細胞なのかもしれませんね。
しかし、自分が実際に医者に「癌です」と言われれば、間違いなく動揺しそうです…

減量のために始めた糖質制限ですが、今は、「私はすでに癌細胞を持っていて、その細胞に活躍して頂かないで済むように糖質制限を日々粛々と続けよう」という考えになってきています。

Re: タイトルなし

ささ さん

 コメント頂き有難うございます。

> 今は、「私はすでに癌細胞を持っていて、その細胞に活躍して頂かないで済むように糖質制限を日々粛々と続けよう」という考えになってきています。

 賛成です。
 
 がんは小さいうちに対処すべし、という考えに基づけば、がんが目に見えないくらい小さい時から対処しておくのが一番です。そんな場面にもってこいなのが糖質制限と思います。

 2015年3月5日(木)の本ブログ記事
 「もしも見えないがんを見つけられたらどうするか」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-594.html
 も御参照下さい。

 病気はたくさんあるように見えて根源は共通しているように私には思えます。それは細菌やウイルスが原因とされる感染症でさえそう考えられるところがあります。糖質制限はがんに限らず万病予防に役立てていきたいです。

糖とがん

糖質とがんの関係は直接的ではないと考えております。
【高インスリン血症はがん細胞を増殖させる】
http://www.1ginzaclinic.com/metfomin/metformin-1.html

江部先生も同じ考えのようです。
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-632.html

郡山の新井圭介先生はインスリンは「猛毒」だと言ってます。
やはり犯人はインスリンってことかなぁ~。
糖質制限でインスリンを出させないようにするのが一番ですね。

癌について

たがしゅう先生、

お返事頂きどうもありがとうございます。
仰る通りこの考え方は医学界の中では異端中の異端だろうと思います。たがしゅう先生の立場ではなかなか口にしにくいことと推察します。
もっとも、少なくとも思考実験としては興味深いですね。
これからも、常識などに囚われない、真実の智を愛する文章を読ませて頂き学んでいきたいと思います。

Re: 糖とがん

Yamamot_ma さん

 コメント頂き有難うございます。

 御指摘のように高血糖と高インスリン血症はいずれも発がんリスクになるので、糖質の発がんへの関与は間接的ですね。

 インスリンという観点からは糖質だけではなくタンパク質の過剰摂取にも留意する必要があると思います。

漢方と副作用

そうそう、本当はこのコメントをしようと思っていましたが、がんの話になったので・・・・・
私は漢方については全く基礎知識もなく、えらそうなこと言えません。

先日読んだ本の中でこんな内容の記述がありました。
中国 漢の時代、「神農本草経」というのがあったそうです。365種類の植物・動物・鉱物が薬として集録されていて、人体に対しての薬効の強さに応じて3種類に分類されてたそうです。
1.下薬・病気を治す力は強いがしばしば副作用を伴う毒性のある生薬をいいます。
2.中薬・間違った使用をしたり長期に多くを服用すれば副作用がでるが、適切な量と期間なら薬効が期待できる。
3.上薬・養命薬(生命を養う目的の薬)で、無毒で長期服用が可能で体調を良くし元気になれて不老長寿の作用がある。
ふふふ、あの薬草は上薬に分類されておりました。
西洋医学での薬は殆ど「下薬」の部類かと思われますね。

また、この本の中でたがしゅう先生の仰る超多成分システムの解説も記されておりました。
漢方での分類で、君薬(中心となる生薬)・臣薬(重要な働きをする生薬)・佐薬(臣薬程重要ではないが、君薬の働きを助ける生薬)・使薬(君臣佐薬の補助的な役割を持つもの)
それぞれが特有の働きを示しながら、組み合わされることによって相乗効果を発揮する。
以上のことを今風に言うと「アントラージュ効果」というそうです。

Re: 漢方と副作用

Yamamot_ma さん

 コメント頂き有難うございます。

 御紹介の「神農本草経」は漢方を学んでいる時に頻出する有名な古典ですね。
 上薬(上品)、中薬(中品)、下薬(下品)の概念は私も多いに参考にしており、それぞれ「食事療法」「漢方療法」「西洋薬療法」が対応しているように私には思えます。副作用を最小限に抑える治療を目指すなら、西洋薬の使用自体を最小限にする必要があると考えています。

 アントラージュ効果とは薄学にして知りませんでした。また勉強してみます。本当に有難うございます。

 
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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