サイアミディン

偉大な決意を無駄にせず昇華させる

糖質制限を知り、日々の臨床に取り入れて約4年の歳月が流れました。

その間に糖質制限の理論の正当性を確かめつつも、実際に患者さんに伝える時にうまくいかない現実があること、

またたとえ糖質制限を実践していても、解決しきれない問題がある事を診療経験を通じて学んでいく事ができました。

一方で糖質制限実践者の人口も徐々に増えてきています。

全国各地の糖質制限実践者と交流したり、交流せずとも様々な糖質制限関連活動を見聞きする機会も増えてきました。

そういう流れの中で、中に手放しで糖質制限を礼賛し、「とにかく糖質制限は良い!」という感じで無批判で広げようとする動きを見たりする事があります。

私は糖質制限の理論は確かに隙がなく素晴らしいものだと思いますが、

その理論を臨床に応用するとなると、また別の問題が生じるという事、そしてその乗り越えるべき問題と真摯に向き合い打開策を考えていく姿勢が必要になってきます。

つまり自己批判の精神、そのために自分で考える力が糖質制限実践者においても必要だと考える次第です。
反面、「糖質制限を信じている」というような無批判に盲信するような姿勢ではよくないと思います。


例えば、糖質制限ではがんの成長を遅らせる効果は期待できますが、

一度大きくなりきったがんを完全に消失にまでもっていくのは難しいと考えています。

また高血糖の記憶もそうです。これまでに蓄積された高血糖による負の遺産が大きければ、糖質制限で病態を改善しきれない事も起こりえます。

私が直面している糖質制限を続けても体重が標準体重まで下がりきらないという問題も、いわばこれまでの負の遺産が大きかった事を反映する現象です。

そうした問題と直面し続けていくことで、私は糖質制限をさらなる優れた治療法へ昇華させていく必要性を強く感じるわけです。


長期的なエビデンスがないから、糖質制限には手を出さない方が無難というスタンスの医師も患者も多いと思いますが、

誰かがやらねば永遠にエビデンスなどというものは構築される事はありません。

糖質制限実践者は自分で考える力を持って、それぞれが自分の経験から学び何が起こっているかを考え、自己責任でこの食事療法に取り組んでいるのが現状ではないかと思います。

その一つ一つに価値があり、その結果得られた答えを積み重ねていく事で新たなエビデンスは構築され、世の中がいつかひっくり返る事を信じています。

しかし物事というのは理論通りうまくいかない事もあるものです。

糖質制限をやっているのに体調が悪くなったとか、逆に病気が悪くなったとか、

場合によっては糖質制限中に亡くなってしまうという事もあるかもしれませんし、それは自分にとっても例外ではありません。

しかし少なくとも私は自己責任で糖質制限を続けていく人生を選んでいるし、その事でいかなる不利益を被ろうともその事を他の誰かのせいにするつもりは全くありません。

患者さんに対しても、医師として最善と思われる食事療法を勧めるだけであって、「医者が言うから」ではなく、最終的には患者さん自身に実践するかどうかを決めて頂くように促しています。

そうした決意の下に糖質制限に取り組んで、何らかの不利益を被った患者さんに対して、

どうして糖質制限を行っていたにも関わらずそうした事態を生じたのか」という事を全力で考えるようにしています。

勿論「糖質制限の実践が不十分だった」という可能性もあるかもしれませんが、

それにしても「なぜ糖質制限が十分に実践できないのか」「どうすれば糖質制限が実践できるようになるのか」と考えるようにして、

さらには「糖質制限をより良い治療に昇華させていくためにはどうすればよいのか」という風に自己批判的に考えを巡らせていくのです。

そうしていく事で、エビデンスがない中、糖質制限の理論を学んで未開拓の世界を進む決意をした人達の偉大な経験を、

無駄にせずに将来のよりよい医療へつなげていく事ができるようになると思います。



ONE PIECEという海賊のマンガが私は好きでよく読んでいるのですが、

このマンガは本当に優れていて、現代社会の本質を突くような鋭いメッセージが込められている事が多々あるのです。

というのも作品の中に出てくる大海賊"白ひげ"が海賊王ゴールド・ロジャーに関して述べたのセリフで次のようなものがあります。



(以下、引用)

白ひげ 「ロジャーの意志を継ぐ者達がいる様に、いずれエースの意志を継ぐ者も現れる…

"血縁"を絶てどあいつらの炎が消えることはねェ……そうやって遠い昔から脈々と受け継がれてきた………!!」


(後略、引用ここまで)



大事な事は血縁者でなくても受け継がれていく
というメッセージです。

私が東洋医学の貴重な経験をないがしろにせず、今に活かそうとしているのもその大きな流れの一つです。

そして私は全国の糖質制限実践者達が直面した負の結果を真摯に受け止めて、改善するためにはどうすればいいかを考え続けます。

それがエビデンスのない未開拓領域に挑んだ人達の偉大な決意に応える事につながると思うからです。

だから私は、こうして糖質制限について考えた事をブログの形に残していく事は意味がある事だと思っています。

そしてたとえ私が今何らかの理由で亡くなったとしても、

血縁とは限らない他の誰かがきっと引き継いでさらに昇華させていってくれる事でしょう。

コペルニクスの地動説も、アドラー心理学も、良いものはそうやって脈々と受け継がれてきました。

良いものはきっといつか伝わります、たとえどんなに時間がかかろうとも。


たがしゅう
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No title

「どうして糖質制限を行っていたにも関わらずそうした事態を生じたのか」

 ですが、私が思うに、糖質制限で調子が良くなって、無理をしてしまう、お酒もおいしくて、二日酔いもしないから、呑み過ぎてしまう、ということもあるのではないでしょうか。
 特に何か疾患のある人が無い人と同じようになさっては、それは危険なことだと思います。
 どうも日本の糖質制限界は飲酒に寛容すぎるように思われますが。
 ケトン体がどんなに健康効果があるものであっても、動物実験で、マウスや犬を酔わせてケトン体の効果が同じようにみられるかどうかといったものはまだないと思います。

No title

こんばんは。

>長期的なエビデンスがないから、糖質制限には手を出さない方が無難

糖質制限の長期的実施の安全性については、反対する人がよく言う話なんですが、私はこう思います。
「糖質無制限」の長期的実施の危険性については既に証明されている、と。

まぁこれは、少し無茶な気もしますが、少なくとも糖質制限を長期実行した場合のエビデンスが取れて統計的に二つの母集団を比較して、初めて糖質制限、糖質無制限のメリット、デメリットが相対的に比較できるようになる、とは言えると思います。

Re: No title

ルバーブ さん

 コメント頂き有難うございます。

 確かに糖質制限実践者は飲酒に際し寛容な人が多い印象があります。
 糖質処理の必要性が下がり、肝機能に余裕ができる事でアルコールに強くなることでお酒が好きな人はついついその増えた予備力い甘んじてしまう側面があるのかもしれません。

 汎動物学を勉強していると、獣医学は医学よりも数十年先に進んでいるような事も言われますので、動物でアルコールとケトン体について検証した研究も探せばもしかしたらあるかもしれません。もしも情報が手に入れば是非検証してみたいですね。

Re: No title

たにぐち さん

 コメント頂き有難うございます。

> 「糖質無制限」の長期的実施の危険性については既に証明されている、と。

 私もそう思います。
 もっと言えば、糖質制限の長期安全性の保証など本当にできるのかとも思います。

 様々な統計学の技術的限界を考えますと、自分が生きている間に統計でそんな保証ができるような気がいたしません。

 それならば理論を踏まえ、現状よりも良いと考えられる治療を自分の頭で模索して実践するのみです。

 2015年5月13日(火)の本ブログ記事
 「そもそも長期安全性とは」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-271.html
 も御参照下さい。

バナナが駄目なんですか!?

糖質制限をやりたくない人達の中には、
「実際に糖質制限をやってみたけど痩せなかった。」「ちゃんと糖質制限をしたけど不具合があった」などという形式の言い訳をする人がいますよ。

話してみると糖質制限の知識がイマイチなんですけどね。

Re: バナナが駄目なんですか!?

ふぁっつおー さん

 コメント頂き有難うございます。

 確かに単純に糖質制限を「やってるつもり」で、実際には全然できていないという人も結構いらっしゃいますね。

 ダメなら何がダメだったのかを考えて軌道修正するのが筋と思いますが、自分で考える力のない人はそこで終わってしまうのかもしれません。

ONEPICE

たがしゅう先生

私もワンピースは大好きです。
一時期は机の上をフィギアが占領していました(苦笑

糖質制限は、Dの意思ならぬ…何の意思とするのが良いのでしょうか。
私の中では故桐山氏の意思が引き継がれております。

糖質制限界において故桐山氏の功績は偉大なものです。
それに対し報道では、やはり危険なのではないかとの目線からのものが少なくなかったです。
注目すべきは、あれだけ糖質制限で健康体を取り戻しても、過去の負の遺産は消せされないということではないでしょうか?

それと動脈硬化ですが、私は進行中のもの(プラーク状態)は糖質制限で治癒できると思っています。
負の遺産とはそれ以上に進行し石灰化してしまったものと思いますが如何なものでしょうか?

一過性脳虚血発作

たがしゅう先生、いつもブログを楽しみに
読ませて頂いております。
私は、55歳の男性です。
糖質制限は、去年の2月からはじめて丸1年になりました。
はじめる前は、HbA1Cが、6.8ありましたが、
現在は、5.8~6.0ぐらいの数値です。
体重は、8キロダウンで80キロになり変化がなくなりました。
(身長178センチ)

先日の2月3日に、
突然、一過性脳虚血発作になり、1週間入院しました。
一通りの検査をして頂いた結果、原因不明で、
今は、プラビックス75を朝食後1錠飲んでいます。
タバコは23年間吸い続け3年前に禁煙しています。
お酒は、毎日アルコール換算で日本酒2合ぐらいを飲んでいました。
血圧は、毎朝家で計ると、上が135までで下が95までですが、
入院中は、上が130-150 下が90-105ぐらいありました。
(以前より、看護師さんに計っていただくと、いつも高めです)
血糖は、去年の1月の健康診断で初めて血糖が高くなっていたので、
糖質制限食にして薬は飲んでいません。

このような状態で、
3食の糖質制限食を続けていますが、いかがでしょうか?
何か、再発防止で気をつけることや、しておくべきことがあれば
お教え下さい。

よろしくお願いします。

Re: ONEPICE

福助 さん

コメント頂き有難うございます。

私も桐山先生の訃報は大変ショックでした。
しかし桐山先生の御意志は忘れない人がいる限り、これから先もずっと生き続けます。

一方で桐山先生が身を賭して我々に投げかけた現実は、糖質制限だけでは完全ではないこと、改善の必要性がある事を我々に投げかけています。「運が悪かった」で終わらせるのではなく、同じ事を起こさないようにするためにどうすればよいかを考えなければならないと強く感じています。その答えを見つける事がきっと桐山先生の御意志にも沿う形になるのではないかと思います。

血縁でなくとも大事な意志は引き継げる、というのが私の心に響く部分です。この出来事を私は絶対に無駄にはしません。

> 動脈硬化ですが、私は進行中のもの(プラーク状態)は糖質制限で治癒できると思っています。
> 負の遺産とはそれ以上に進行し石灰化してしまったものと思いますが如何なものでしょうか?


生体反応には可逆的反応と不可逆的な反応とがあります。
進行して不可逆化したものに関しては糖質制限だけでは難しいと思いますが、それが石灰化状態を示すのかどうかはよく分かりません。

一見不可逆的と思われるものでも糖質制限を知ればそうでもない事がある事がわかります。
また糖質制限でダメでも、ケトン食や絶食療法にはそれ以上の可能性がある事を私は感じています。

Re: 一過性脳虚血発作

正 さん

御質問頂き有難うございます。

糖質制限食は酸化ストレスを減らし、動脈硬化の進行を抑制するので一過性脳虚血発作の抑制にも有効と思います。

後はこれまでの負の遺産とこれからの糖質制限の精度との兼ね合いになると思います。一番自分の事がわかるのは自分自身なので、引き続き様々な媒体で糖質制限を学びながら試行錯誤して行かれるとよいと思います。

No title

お久しぶりです。お元気そうで何よりです。

良いことはきっといつか伝わります、たとえどんなに時間がかかろうとも。

良い響きですね。それにひとつ付け加えて、

正しいこともきっといつか伝わります、たとえどんなに時間がかかろうとも。

たがしゅう先生はじめ、糖質制限を提唱されて来た皆さんのそんな思いが世界中に広がればいいなと思いました。

たがしゅう先生

先日はありがとうございました

次回の通院まで、症状が酷い時だけ市販の漢方薬を飲んで、様子をみたいと思います

Re: No title

よっちゃん さん

 コメント頂き有難うございます。

 「努力はいつか報われる」という言葉もありますね。

 一方で努力は必ずしも報われないと知人に否定された事もあります。それは確かにそうかもしれませんが、長い目でみればやっぱり「努力はいつか報われる」と思います。

 たとえ私の人生の間で報われずとも、私の意志を継いだ誰かの役に立ったなら、私の心はそれでも報われます。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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