サイアミディン

機能性ディスペプシアと糖質制限

医学用語の中に,「原発性」「特発性」「本態性」「一次性」とかいう言葉があります.

実はこれらは全て同じ意味で,「原因がわかっていない」ということを意味します.

このように医学用語にはやたらとわかりにくい表現が多いので,医者としてはこの難解な医学用語をいかに噛み砕いて患者さんにわかりやすく説明できるかどうかということも重要なスキルだと思っています.

さて,今回はこの「原因不明」という事から学べることについて考えてみたいと思います.

我々神経内科の病気の中で原因不明の代表格は先日も話題にした「神経変性疾患」ですが,

ケトン食を行うことでさまざまな神経変性疾患に幅広く効果が実証されてきているという研究報告があります(Stafstrom CE, Rho JM. The ketogenic diet as a treatment paradigm for diverse neurological disorders. Front Pharmacol. 2012;3:59. Epub 2012 Apr 9.).

この事実を逆に考えれば,ケトン食が神経変性という現象に共通する病因に対して何らかの改善効果をもたらすという可能性が浮上します.そしてその共通する病因が,酸化ストレスではないかと私が考えたのは先日の記事で紹介しました.

今回のテーマは「機能性ディスペプシア」です.

実はこの病気も原因不明でかつ患者数が増加傾向にあるため,最近注目されてきました.
まず機能性ディスペプシアの定義ですが,

「上部消化管に消化性潰瘍や癌などの器質的疾患が認められないにもかかわらず,胃もたれや心窩部痛などのつらい症状があらわれる機能性疾患」

とあります.

またこの病気のメカニズムはいまだに不明な点が多いのですが,病態としては「胃・十二指腸運動機能異常」「内臓知覚過敏などの機能異常」「生活習慣」「胃酸過多」「ストレス」などが考えられています.

なんだかわかったようなわからないような感じですよね.

また,似たような病気に「胃食道逆流症(GERD)」「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」があります.

そして,GERDの中で胃カメラで見て実際に食道のところに炎症を起こしてしまっている状況を「逆流性食道炎」と言います.

一方,逆流性食道炎は糖質制限をすることで即座に改善することが報告されています.

これは炭水化物を消化して糖として吸収できる分解するのに時間がかかるため,長時間胃の中に留まり胃酸を出し続けることが関係していると考えられています.

NERDとか機能性ディスペプシアはGERDのような症状を出しているけど,胃カメラで異常がないというわけなので,言ってみれば「軽症の逆流性食道炎」と位置付けることができると思います.

そうすると当然「糖質制限が機能性ディスペプシアに対しても有効」である可能性があると思います.

そして面白いのはここからです.先日機能性ディスペプシアに対する新薬が出たということで製薬会社の説明会を聞いて参りました.

その新薬はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤といいまして,作用機序は「アセチルコリン」という神経伝達物質を増やすことです.

認知症の記事の時にも紹介しましたが,脳内でアセチルコリンが下がると認知機能が低下します.それゆえ,(脳内で作用する)アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は認知症の進行を予防する薬としても使われています.

そしてアセチルコリンのもう一つの役割は「副交感神経の働きを伝える物質である」ということです.

副交感神経というのは,「リラックス,体を休める,鎮静性」の神経で,交感神経と併せて自律神経と呼ばれます.また交感神経と副交感神経は互いにシーソーの関係となっています.すなわち副交感神経が高まっている時は交感神経が弱まります.

機能性ディスペプシアの新薬は,「副交感神経終末から遊離されるアセチルコリンの分解を抑制することで,結果的にアセチルコリンの量を増加させることで消化管運動機能を改善する」という仕組みとなっています.

逆に考えれば消化管の調子が悪い状態は,副交感神経の働きが悪く,交感神経の働きが高まってしまっている状態だとも言えます.

そして機能性ディスペプシアにも糖質制限が有効であるということは…,

糖質の摂取が酸化ストレスを通じて,人体のブラックボックスを介して,人によっては交感神経の興奮を引き起こしているのではないかと思うのです.

こういうところでも恒常性(ホメオスターシス)を乱してしまっています.

まさに糖質の害は七変化ですね.


たがしゅう
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No title

1日遅れで恐縮ですが「薬に頼る国民性」を興味深く拝読させていただきました。県内のある老人の家に行政の係りの方が訪れたところ室内に5万円分の薬剤が散らかっていたと過日報道されていました。このような老人患者は想像の域を超えた数値でありましょう。
医薬分業が浸透し、今や片田舎のクリニックも無床の医院も門前薬局を敷地内か隣接地に抱えいやが上にも医師は薬を処方しなければならない状態です。その薬局も薬剤師を数人は抱えておりその人件費は多額のものでありましょう。かつ、バックマージンとやらが横行していると巷聞。昔は薬包紙に調剤されたものが今は棚から拾い出し?で調剤技術料、薬学管理料、薬剤料、特定保健なんとかやら、これでは医療費も膨大になるのは必定、患者に薬についての説明をされた医師に出会ったことがありません。本当に患者の苦しさに手助けしようという気配を感じたことがありません。患者も薬はリスクがあることは百も承知しておりますが。初見參で駄コメご容赦ください。

Re: No title

AF冠者 さん

 コメント頂き有難うございます。

 薬の問題も根深いですね。今薬をやめられると困る人はたくさんいるのでしょうが、患者さんの健康が第一です。

 それに薬を飲む側の立場から考えると、少なくとも私の場合は、しょっちゅう飲み忘れてしまいますし、それを一生続けるなんていうのは至難の技です。

> 県内のある老人の家に行政の係りの方が訪れたところ室内に5万円分の薬剤が散らかっていたと過日報道されていました。このような老人患者は想像の域を超えた数値でありましょう。

 起こるべくして起こったことだと思います。御指摘の通り、これは氷山の一角だと私も思います。

 それでも大多数の人が薬を飲み続ける理由には、半ば洗脳されてしまっている根深い国民性の問題が横たわっていると私は思うのです。

No title

 先生、こんにちは。毎日のブログ更新ありがとうございます。
 今回またご意見賜りたくお願いします。
 
 <Grain Brain>の著者が米テレビショーに出演したのがYtubeで見れます。
http://www.doctoroz.com/episode/do-carbs-cause-alzheimers?video_id=2753168671001
 
 このPart 2の3分40秒のあたりで、糖質を減らすと、脳は自ら治すことができると発言しています。これが気になって本(まだ全部読んでいない)を調べたら、ケトン体は肝臓で生成されるだけでなく、brain can also produce ketones in special cells called astrocytes.とあります。

 このastrocytes.ですが、検索すると最近色々と脳の病気と深く関わっていることがわかって来ているとか。例えば
http://www.medicalnewstoday.com/articles/264007.php

 それで糖質制限で脳の病気が改善されるのは脳がケトン体を利用することだけではなく、このアストロサイトでケトン体が作られることも関わっていて、それが著者の言う、<脳が自ら治す>という意味と受け取って良いでしょうか。

 糖質を制限するだけで、もうかなり老化が進んでいる私の脳が自ら治っていく、なんと素晴らしいことでしょう。そのことを思うだけでこれからも糖質制限を続ける意欲、だけでなく生きる意欲まで湧いてきます。

Re: No title

ルバーブ さん

 貴重な情報、また御質問頂き有難うございます。

>ケトン体は肝臓で生成されるだけでなく、brain can also produce ketones in special cells called astrocytes.とあります。

 アストロサイト(脳の中で神経細胞以外を構成する細胞の一つ)がケトン体を産生しているという事は恥ずかしながら存じ上げませんでした。

 あくまで私の考えですが、ケトン体は脳血液関門を通過するので、アストロサイトのケトン体産生が決め手になって脳が自ら治す、という程インパクトのある事象ではないかもしれません。

 ただ、ケトン体の産生が多ければ多いほど脳に対して良い効果を示すということはありうるので、良いことであるには違いないと想います。

冬季うつ病

たがしゅう先生

こんにちは。

いつも貴重な情報を提供して頂き、感謝しています。

私事ですが、毎年この時期から冬にかけて

やたらと鬱っぽくなって、炭水化物がほしくなります。

俗にいう冬季うつ病ですが、この症状が出た場合、糖質制限は有効になるでしょうか?

症状がよくなるか、あるいは悪化するのかご意見を頂けると幸いです。

Re: 冬季うつ病

健康が一番 さん

 御質問頂き有難うございます.
 
> 私事ですが、毎年この時期から冬にかけて
> やたらと鬱っぽくなって、炭水化物がほしくなります。
> 俗にいう冬季うつ病ですが、この症状が出た場合、糖質制限は有効になるでしょうか?


 冬季うつ病のはっきりとした原因はよくわかっていませんが,私は糖質制限は有効だと考えます.

 なぜなら秋~冬にかけての豊富に実る果物の摂りすぎがその一因となっている可能性を考えているからです.果物も摂りすぎれば血糖が上がり,次なる炭水化物や甘いものへの欲求を作ります.

 あくまで仮説ではありますが,果物も含めて糖質制限,一度やってみる価値はあると思います.ご参考までに.

 

自律神経失調症

たがしゅう先生
私は起立生調節障害です。でも、自分としては自律神経失調症の方がしっくりきます。
典型的な朝起きが苦手とか、車酔いとか、立ちくらみは子どもの時からありました。それに、過敏性大腸症、その後、典型的な片頭痛を起こし、忙しかったある日、喉のつかえ、背中の痛みがでて、いろいろ調べてみたら、機能性ディスペプシアが一番それっぽかったです。
10年くらいほおっておいて、その後胃カメラと大腸ファイバーをしていただき、器質的異常はなく、自分としては、診断確定したつもりです。お察しの通り、私は医者嫌いで、薬嫌いです。
全部根っこは一緒だと思っています。
糖質制限をして、すっかり良くなったと言いたいところですが、
やっぱりストレスがかかると、症状が出ます。
ただ、以前よりは回復が早くなったきがします。
自分の中では、全部繋がっているのに、病気が一つ一つ分かれて説明されるのが納得いかない気がします。
こんなものは薬を飲んだって治るわけはないと思うのです。
生活を整え、糖質制限を続け、適度な運動を続ける。
どうしようもない時だけ、ちょっとお薬の力を借りる、しかないとおもっています。でもあんまり効きませんけど。
すみません。話がおかしくなったのですが、つまり、
副交感神経を活性化させるだけで本当によくなるんでしょうか?
交感神経だって十分おかしいのに。
先生はどのようにお考えですか?

Re: 自律神経失調症

にこ さん

 コメントと御質問を頂き有難うございます.

 思うに自律神経の観点からみて健康な状態というのは,交感神経と副交感神経のシーソーが波風立たずにうまくバランスがとれている状態だと思います.

 にこさんはもしかしたら自律神経のシーソーバランスを崩しやすい体質をお持ちなのかもしれません.

 糖質摂取で交感神経が高まるという仮説が正しいとすれば,解決させるための根本療法は糖質制限であって,副交感神経を高めることはあくまで対症療法にすぎません.

 そして交感神経を興奮させる要因は「闘争と逃走」,すなわちストレスも交感神経を興奮させる十分な要因です.

 糖質制限でよくなりきらない症状も,末永く糖質制限を続けていくことでセロトニンの合成能が高まり,きっとストレスに強い体質が作られていくと思います.私は今それを実感しています.

> 自分の中では、全部繋がっているのに、病気が一つ一つ分かれて説明されるのが納得いかない気がします。
> こんなものは薬を飲んだって治るわけはないと思うのです。


 全く同感です.体は全てつながっています.

 行き過ぎた専門分化が批判される所以です.ある一つの臓器にいくら詳しくても病気の本態がみえるわけはないと私は思います.

冬季うつ症

健康が一番さんへ、横から失礼します。
糖質制限は冬季うつ症を消します。
わたしも日ごとに日照時間が短くなるこの時期、わけもなく寂しくてやるせなくてうつ病のような症状に長年悩まされていました。
なにか原因がわかるのではないか・・・と探していて見つけたのが「うつは食べ物が原因だった!(溝口徹著)」です。
著者の分子栄養学については正直「?」がいっぱいですが、この本を読んで糖質が悪そうだと思い控えるようにしたところ、その年(2011年)の秋は症状が出ませんでした。
同じころ夏井先生のサイトで糖質制限が話題になり、実践した方からの報告が続々とあがり、これは間違いなく正しい方法だと確信しました。
やはり、自分で実践して体感するのが一番だと思います。
そう思って友人に勧めるのですが・・・「ご飯食べないなんて考えられない」ひと多数。残念です。

Re: 冬季うつ症

かんな さん

 実体験を交えたコメントを頂き誠に有難うございます.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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