サイアミディン

植物の不要物が動物の必要物となる

先日漢方の勉強会に参加して来ました。

一般的には漢方薬を処方はすれど、本格的には漢方を勉強していないもしくは漢方に興味がない医師の方が多数派だと思いますが、

漢方の勉強会というのは参加してみるとわかりますが、とても面白いんです。

何がそんなに面白いのかといいますと、その理由は大きく2点あると私は思います。

一つは漢方の講演会ではたいていの講師の先生が、どんな症状であっても相談すれば何らかの打開策を提案してくれるということ、

もう一つは漢方以外の様々な雑学を教えてもらえるという事です。

漢方を使いこなし、そして人に説明できるようになるには多大な努力を要する作業です。

言ってみればただひたすら効くという経験を積み重ねた漢方を、まだ誰も考えたことのない独自の方法で人に納得させるように説明できる所まで昇華させる必要があるわけですから、

漢方の古典を読むだけでは事足りず、科学的な視点や関係しそうな様々な事柄について幅広く知識を集める必要がありますので、

漢方で人にしゃべられる域まで到達した先生は概して博学かつ診療経験豊富です。
どんな質問にも答える事ができるというのは本当にすごい事で、西洋医学ベースの例えば製薬会社主催の新薬に関する講演会ではこうは行きません。

講演会の話題も新薬に沿った内容になる事が多いのである程度仕方がありませんが、

例えば「こういう症状で今悩んでいる患者がいるがその新薬が有効な可能性はあるか」などと質問をしたとしても、

いわゆるエビデンスを基本に語られるので、エビデンスがある場合はいいですが、なければ「そういうエビデンスはまだありません。今後の検討課題とします」などという返事となってしまいます。

しかし漢方の講演会の場合は、例えばテーマが「がんと漢方」であったとしても、

がんと全然関係ないような質問、例えば「唾液が出すぎて困っている患者さんがいます。症状を改善させる何か良い方法はないでしょうか?」と尋ねたとしても、「エビデンスがありません」とは決して言いません。

西洋医学の場合は治療法のない病気はごまんとありますが、漢方は病気に対してではなく症状(状態)に対してくすりを出すので、何かしらの手の打ちようがあります。ですから講演されるような漢方医の先生は質問に対し、必ず何らかの選択肢を提示してくれます。

かといって漢方がエビデンスをないがしろにしているわけではなく、漢方の世界でもエビデンスは近年積極的に取り入れられています。

漢方医の先生はエビデンスという考え方にとらわれ過ぎず、数ある説明手段の一つとしてエビデンスを利用されるので、非常に多角的な視点で我々に納得のいく打開策を提示してくれるわけです。

だから漢方の講演会は面白いのだと思いますし、逆に言えばエビデンス重視の考え方がいかに見地が狭いかという事も伺い知る事もできます。

そんな中、先日出席した漢方の講演会では、漢方と直接関係ない所で私の心にぐっとくる内容がありましたので、皆さんとシェアしたいと思います。


それは配糖体についての話です。

配糖体というのは漢方の薬効を理解するために「アルカロイド」と並んでキーワードとなる言葉です。

配糖体とは糖と糖以外の物質でできたもの物質の総称ので、漢方薬の中にはこの配糖体が含まれているものがあります。

配糖体の中で薬効成分があるのは実は糖以外の部分でして、これはアグリコンと呼ばれています。

配糖体そのものが身体の中に入っても、糖がくっついたままだと薬効を発揮しないのですが、

身体の中で糖が外れてアグリコンだけの状態になった時に初めて薬効が現れ、配糖体としての真価を発揮するわけです。

この配糖体の糖を外しアグリコンの薬効を得るために重要な役割を担っているのが腸内細菌、特に資化菌(しかきん)と呼ばれる種類の細菌群です。

資化とは、「ある物質を栄養源として利用して増殖する」という意味で、資化菌は自身の持つグルコシダーゼやグルクロニダーゼなどの酵素によって配糖体から糖を外し、その糖を利用して増殖します。

こうして、資化菌にとっては糖が手に入りますし、菌が住む宿主にとってはアグリコンの薬効を受ける事ができるという双方にとってよくも悪くも影響が加わる状況が生じます。

アグリコンの作用が生体にとって有利に働けば良い薬という事になりますし、逆に不利に働けば薬の副作用という話になります。

さてそんな配糖体ですが、漢方薬を始め植物に多く含まれていますが、そもそもどうやって配糖体というものが作られたのでしょうか。先日の漢方講演会ではこの事についての話がありました。

動物は身体の中で作られた生理活性物質、あるいは外から取りこんだ生理活性物質が使用された後は代謝され、最終的に尿や便などになって外部へ排泄されます。

一方で植物の中でも生理活性物質は生まれ、自身の生命維持や成長に用いられます。ところが動物と違って植物の場合は動けないので尿を出す事も便を出す事もできません。

そんな動けない植物が生理活性物質を排泄する代わりに選んだ方法が、「糖を結合させて生理活性物質を不活化させる」という方法であり、そうしてできたのが配糖体だという事を教わりました。

そう言われてみれば動物の身体の中でも機能のあるタンパク質に糖が結合する糖化や糖鎖修飾が起こる事によって、

もともとのタンパク質が持っていた機能が低下したり、失われたりするという側面があったと思います。植物は糖のそうした性質を自身の中で生まれた物質の処理に利用していたわけです。

なるほど、だから配糖体は植物に、また植物の多くを原材料とする漢方薬の中に多く含まれるわけですし、

配糖体が薬効を呈したり、呈さなかったりするのは腸内細菌の個人差、ひいては資化菌の多寡によって左右されるからだと考えれば、漢方の効きに個人差が出る理由も合点がいきます。

では資化菌を増やせば良いではないかと思われるかもしれませんが、腸内細菌はそう簡単に変えられないというのが私の考え方です。

また資化菌というのは特定の菌ではなく配糖体から糖を外す事ができる菌群の総称です。

それに配糖体の種類によって対応できる資化菌は異なりますので、ある資化菌を補充したとしても配糖体の種類によっては全然糖を外せなかったりもしてしまう可能性があります。

しかも腸内細菌の世界は複雑怪奇で、資化菌の種類は一部しかわかっておらず、全容が解明されたわけではないようです。

一方で脳腸相関という考え方があり、簡単に言えば腸内環境は精神状態を反映し、精神状態は腸内環境を反映するという話です。

それを踏まえれば、例えば精神的に興奮した人に抑肝散というアプローチは、その精神状態だと判定する事が実は特定の腸内細菌群を推定する事に役立っており、その腸内細菌群の中には抑肝散の中の配糖体を分解できる資化菌が含まれていて、だからそういう精神状態の人には抑肝散が効くという図式を経験的に導き出していたのかもしれない、とも思えます。

そんな事いっても腸内細菌に個人差があってそれが測れない以上、結局は当てにならないではないかと、

100%の再現性を重視する科学的思考の方々には思われてしまいそうですが、

私は再現性が100%でなくても十分価値があると思います。70%でも80%でも確率が上がれば上等ですし、少なくとも容易に「エビデンスはありません」「治療法はありません」などと引導を渡す西洋医学のスタンスよりははるかにましです。

それにこの配糖体の考え方は、別の事にも応用ができます。

具体的には私にとって長年の謎であった「なぜマウスやラットでは高炭水化物食より高脂肪食の方で糖尿病になりやすいのか」という疑問に新たな気づきを与えてくれたのですが、

長くなるのでそれに関してはまた別の機会に語らせて頂きたいと思います。


たがしゅう
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早く聞きたいです

たがしゅうさん、こんにちは。

>具体的には私にとって長年の謎であった「なぜマウスやラットは高炭水化物食
>より高脂肪食の方で糖尿病になりやすいのか」という疑問に新たな気づきを与
>えてくれたのですが、

へー、そうだったのですか?知りませんでした。
それが現在の糖尿病の標準治療につながっているのでしょうか?
いずれにしても、新たな気付きについて早く知りたいです。

Re: 早く聞きたいです

あきにゃん さん

コメント頂き有難うございます。

動物の本来の食性と違うものを食べたら代謝が乱れるであろうという事は何となくは分かっていたのですが、
生化学的にはどうなってそういう結果になるのかがよくわからなかったのです。

あくまで私の仮説にはなりますが、折をみてまた記事にまとめようと思います。

基本的な質問で申し訳ありません

たがしゅうせんせい
こんばんは

すごく基本的な質問なんですが、
漢方とはなんですか?
生薬を配合して服用することですか?

なるべく医者にはかからないようにしようと思っているのですが、
漢方は、医者や薬局にいって漢方薬を貰うしかないんでしょうか?

漢方的には、病気になる前に出来ること、常日頃から心がけることってありますか?

Re: 基本的な質問で申し訳ありません

ふぁっつおー さん

 御質問頂き有難うございます。

> 漢方とはなんですか?
> 生薬を配合して服用することですか?


 漢方というのは中国発祥の植物や動物、鉱物の一部などの自然生薬を病気の治療に応用した医学を日本の土壌で発展させてきた方法の総称です。江戸時代に入ってきたオランダ医学「蘭方(らんぽう)」と区別してそう呼ばれています。
 また漢方薬は複数の生薬を組み合わせた薬の事で、西洋薬のように合成されたものではなく基本的には天然に存在したままの状態のものをそのままあるいは少しだけ加工して利用する所に大きな特徴があります。そういう意味で「食事に近い薬」だと私はよく説明しています。

> なるべく医者にはかからないようにしようと思っているのですが、
> 漢方は、医者や薬局にいって漢方薬を貰うしかないんでしょうか?
> 漢方的には、病気になる前に出来ること、常日頃から心がけることってありますか?


 漢方には「未病を治す」という概念がありますが、漢方薬と言えど薬は薬です。病気になる前に薬を飲むのは私は反対です。
 たとえ漢方薬と言えど、基本的には病気になってから飲むのが薬だと私は考えます。ただし、ごく軽い病気の時に漢方薬を飲むというのはアリだと思いますし、それが本当の「未病を治す」だと私は思います。

 漢方薬を使いこなすにはそれなりの腕が要るので、薬局で買うのは信頼できる所でない限りは基本おすすめしません。熟練の漢方医の下で処方してもらうのが一番良いと思います。

 なるべく医者にかからないようにしたいなら、やっぱり糖質制限を基本にした食事療法でしょうね。

有難うございました

たがしゅう先生
有難うございました。

簡単に取り入れることができて効果があるものでしたら、なんでも取り入れたいと思います。

科学者ではない私にとっては、とりあえずやってみて効果があるかどうか試してみるしかないのですが、
最終的に何を取り入れるかは自分の勝手ですので、エビデンスはどうでもいいです。
他人を治療するのではないので気が楽ですね。

逆に西洋医学のお医者様でも、いまいち根拠がないことを信じているところがあるように思います。

「医療・健康」の分野は正に諸説あってなかなか答えが見えません。
そもそも「病気が治るとは?」「健康とは?」の定義がバラバラなので仕方ないかもしれませんね。

No title

たがしゅうさん

当たり前の話ですが目から鱗でした。腸を動かすことも筋肉ナシではできません。クシャミや咳で異物をはらいのけることもできませんね。

再現性が100%は医療の現場ではどの道ムリでしょう。死体は解剖できても生きてる人を解剖出来ません。つまり失敗の原因はわかっても成功の原因はわかりません。N=1を積み上げていくしかないのだと思います。

ただ生物学や考古学からの類推で我々にとって健康に良い食べ物はおおよそわかってきたと思います。

Re: No title

SLEEP さん

 コメント頂き有難うございます。

 動物学も面白いですが、植物まで広げた生物学として俯瞰で眺めると見えてくるものもあると思います。引き続き様々な視点から糖質制限を捉えていきたいです。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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