サイアミディン

伝わらない人には伝わらないメッセージ

先日、「甘くない砂糖の話」という映画を見てきました。

もともと低糖質気味の食生活を送っていた30代のオーストラリア人の映画監督、デイモン・ガモー氏が、

とある事から低脂肪などのいわゆるヘルシーフード呼ばれる食品に糖質がものすごくたくさん含まれているという事実を知り、

それではということで、1日にティースプーン40杯分の砂糖相当の糖質が含まれるヘルシーフードを60日分食べ続けて、

身体がどう変わるかを監督が身をもって実験し、各種専門家への身体検査依頼やインタビューを行いつつ検証したドキュメンタリー映画でした。

いわゆる糖質過剰の生活によってただ体重が増えるだけではなく、顔に吹き出物が出たり、気分的に落ち込みやる気が出なくなったり、

もともと続けていた運動も負担に感じるようになり、それでも糖質入りの食品を食べるとまた一時的に元気になるといった内容が赤裸々に描かれていました。

糖質制限に精通する人にとっては何も目新しい内容があるわけではありませんでしたが、

砂糖という形をとらずとも、ブドウ糖や果糖などと形を変えて糖質がかくも身近で恐ろしい存在になってしまっているかをシリアスに、時にコミカルに描かれているという点で、

糖質制限を知らない人にとってはわかりやすくためになる映画であったと思います。
ただ、映画を見終わった後、たまたま私の後部の座席に居合わせた若い女性二人組のこんな会話が私の耳に聞こえてきました。

「砂糖怖かったね~。でも日本は和食の文化で砂糖あんまり使わないからよかったよね~。」

なるほどそう受け止めてしまうのか、と私は思いました。

この映画では監督が実験に用いた食材を逐一「これはティースプーンの砂糖○杯分」と表現されてあったので、

映画を見終わった後の感想として「砂糖って怖いね」という印象になってしまうのも無理もありません。

しかしこの映画で表現されていたのは「甘くない砂糖の話」というタイトルが表すように砂糖という形を摂っていないにも関わらず、砂糖と同様の健康被害が現れているという事、

そしてそれが低脂肪ヨーグルト、シリアル、野菜ジュースなどと言ったヘルシーと呼ばれる食べ物の中に身近に溶け込んでいるという所に問題提起があったはずです。

砂糖の問題だと捉えてしまえば、上述の女性達のように「和食にはそんなに砂糖は使われない」と安心してしまうかもしれませんが、

実際には毎日3食白米食べる事でも1日にティースプーン40杯分の砂糖摂取に相当するという事実を多くの人は知りません。

せっかくの良い映画なのに、同じ映画を見ても人によっては正しくメッセージが伝わらず、自分の事と捉えるか他人事と捉えるかはその人次第で変わってくるのだなと思いました。


それでも一般の人が勘違いしてしまうのはある程度仕方がない部分があると思いますが、

医療の専門家においては、そうした間違いをする事は許されないと思います。

実はこの映画のプロモーション活動には管理栄養士の幕内秀夫氏が参加されており、いろいろな所でコメントされています。

幕内氏は「世にも恐ろしい『糖質制限食ダイエット』」という本を書かれ、その論理的整合性のなさについては過去ブログでも指摘した事があります。

その幕内氏と監督のガモー氏が次の本で対談をされていたので購入して読んでみました。



週刊金曜日 2016年 3/18号 [雑誌] 雑誌

(以下、p34-35より引用)

【食べるほど欲しくなる】

監督 昨年、WHO(世界保健機関)が発表したガイドラインでは砂糖の1日の推奨摂取量をティースプーン6杯分(25グラムほど)としました。

 オーストラリアの平均摂取量は1日ティースプーン40杯分。日本も20杯分ほどになるそうです。

 食品の中に含まれている砂糖の量を消費者は知りませんから、1日ティースプーン20杯、30杯分ぐらいは簡単に摂取できてしまう。

 政府が食品業界に訴えて、ラベルに砂糖含有量の表示を義務づけるなど、消費者に情報を伝える責任を担うべきです。

幕内 砂糖は「摂り過ぎる」食品なんですね。ドラッグというのは、吸えば吸うほど、もっと吸いたくなりますよね。砂糖も同じ。食べれば食べるほど、もっと食べたくなる作用がある。

 それに、たとえば、サツマイモをふかして食べたら、半分か一つで満足しますね。でも、これがお菓子の芋ようかんになったら"別腹"になってしまう。そこには砂糖がたくさん含まれています。

監督 そういう作用があるとすれば、食品業界が何らかの対策を取ることは非常に考えにくいですね。

 砂糖は食品業界にとっては、魔法のような存在です。安くて保存料としての作用もある。そして依存性が高い。

 とすれば、食品業界が、自らの製品から砂糖を抜くことはまず考えられません。消費者側が正しい情報を持つことが必要です。

幕内 日本では「糖質制限ダイエット」が流行っています。砂糖だけではなく、穀類・芋類・果糖類もいっさい摂らないことを推奨しています。

監督 日本の伝統的な食生活が変化し、突然、糖質を摂り過ぎることになれば、身体にとっての変化も大きく、肥満になりやすい。

 糖質の低いダイエットは方向性はいいと思いますが、ある程度の炭水化物、脂質は摂らなければならないと思います。極端な選択をとらないことが大事です。

幕内 糖質制限ダイエットを推奨する人は、肉を主食にすることが自然だと言います。

 人間が農業を営むようになったのは約1万年前。だから穀類・芋類を主食にするようになったのはたった1万年だったという主張です。

 それ以前は狩猟採集時代なんだから、肉を主食にしていたと。非常に極端で、私は危険だと主張してきました。

 最近、糖質制限ダイエットを推奨されていた著名な方が心筋梗塞で亡くなられました。もちろんダイエットとの因果関係は証明できませんが、まったく影響がなかった、とも言えないのではないでしょうか

 日本も現代食では、糖質、なかでも砂糖や異性化糖の摂取過多になっていると思います。

 しかし、それとすべての食物に自然に含まれている糖質をすべて制限することとは別の話です。

監督 確かに、一口に糖質と言っても内容はさまざまです。

 私は、果糖が一番悪影響を及ぼすのではないかと思っています

 映画の中で実際に私の身体に起こった変化なのですが、果糖が過剰に摂取されると肝臓で脂肪に変化します。すると脂肪肝になり、肝臓が危険に晒されるのです。

 全体的に糖質の摂取量を下げるというのは、とてもわかりやすいメッセージだと思います。

 ただ、だからと言って肉を主食にしたら、問題がないかと言えばそうではありません。環境汚染のことを考えれば、大気汚染の約50%が食肉業界が原因だとする数字もあります

 「食」について、環境の問題も含めて総合的に見ていく必要があるのではないでしょうか。

幕内 おっしゃる通り、肉を主食にした場合、環境問題とか、抗生物質の問題、また世界の飢餓の問題もあります。日本では、「食」の問題を多角的に視る視点が弱いんですね。

(後略。引用、ここまで)



栄養の専門家であるはずの幕内氏も、砂糖ではない形で糖質の害を実体験したはずのガモー監督も、

糖質ではなく、なぜか砂糖の問題に焦点を合わせて議論を展開しています。これは典型的なミスディレクションです。

幕内氏の主張は相変わらず「砂糖はダメだけど食品の中に含まれる糖質はよい」というもので、それを幕内氏は著書の中で「単純糖質はダメ、複合糖質は良い」と独自の表現をされています。

しかしちょっと考えてみればわかりますが、今回ガモー監督は幕内氏が言うところの複合糖質を食べる事によって、しかもヘルシーだと銘打っている食品だけを食べ続けて健康を害してしまったわけです。

自身の理論が映画の中で否定されたというのに、その映画のプロモーションをしている場合ではないのではないかと思うのは私だけでしょうか。

また糖質制限ダイエットの推奨者が亡くなった件では、因果関係は証明できないとしながらも、糖質制限の影響があったのではないかと暗に示唆する見解を示しておられます。

これはあくまでも幕内氏の個人的見解であり、論拠薄弱な憶測です。憶測を織り交ぜるのは幕内氏の発言によく見られるパターンです。

専門家であれば根拠を明示し議論を展開していくべきであり、およそ科学的な態度とは思えません。

一方のガモー監督は、糖質制限に一定の理解は示しつつも、「極端はよくない」という意見を述べています。

しかし、映画のパンフレットによれば、ガモー監督のもともとの食生活は炭水化物24%、脂肪50%、タンパク質26%となかなかの糖質制限食です。

具体的には卵、ベーコン、ほうれん草、アボカド、ブルーベリー、チーズ、マグロ、鶏肉、魚、ケール、牛肉、バター、ココナッツオイル、アーモンド、ハーブティー、マカダミアナッツなどで、果物はともかく穀類や芋類は制限されている食事内容です。

極端というのは比較対象があっての概念です。おそらくガモー監督は伝統的な日本食のイメージが頭の中にあって、それと比較して穀類や芋類・果物類を制限する食事が極端だと映ってしまったのでしょう。

ガモー監督は極端だと評価する糖質制限食を自分で知らず知らずのうちに実践している事になります。

つまり理屈があってよくないと言っているのではなく、要はイメージの問題だと思います。

何となく極端なものはよくないというイメージがあるから「よくない」と言っているだけです。だからこそ糖質制限の方向性は理解できるのに、「ある程度の炭水化物、脂質は摂らなければならない」理由を語る事ができないという矛盾を生じてしまうわけです。

それに脂肪肝になった原因についても「果糖が悪影響を及ぼした」という見解を述べていますが、これも本人の主観でしかありません。なぜならば実際には果糖でなくても糖質による血糖値の上昇によって同じ現象は引き起こされるからです。

このように、ある現象を見た時にそれをどう受け止めるかは受け手側の知識や経験、それによって形成されるイメージによって大きく左右されると私は思います。


最後に、肉を主食にする事が環境汚染につながるという問題提起についてです。

環境汚染につながるのは何も食肉に限った話ではありません。例えば小麦やとうもろこしの農地拡大は環境に影響を与えていないでしょうか。

農薬使用の問題はどうでしょう。保存料や着色料の問題は?大量に増えている食品廃棄物の問題は?

肉の問題に意識を向けさせてあたかもそれ以外の食品には問題がないかのように仕向ける、これも一種のミスディレクションだと思います。

ただ仮に人類皆糖質制限食になったと仮定すれば、今の畜産状況では全人類をまかなえないという問題は確かにあるとは思います。

ここで大事になってくるのは、糖質制限をすると空腹感をコントロールしやすくなるという事実、そこから派生して生まれる1日3食ははたして本当に正しいのかという疑問

そして私が行きついた少食をベースにおくべきという考えです。仮に全人類が1日1食を基本におくようになれば、単純計算でも今の全食糧の3分の1の量で事足りる事になります。

長く生きる事を求める以上、他の生物を食べるという行為はどうしても必要になってきます。

肉を食べる食生活を否定するのではなく、どうすれば自然と共存する形でその食生活を維持できるのかを考える方がよほど建設的だと私は考える次第です。



今回私はこの映画を通じて、

賢明な人には伝わるメッセージがあるのと同時に、

たとえどれだけ素晴らしいメッセージであったとしても、

観客、栄養の専門家、あまつさえ実際に撮影した監督でさえも、

受け手によっては伝わらないこともあるのだと感じました。


たがしゅう
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自分を信じる

私の中では糖質制限がホボ答えに近い存在で、迷いはないのですが、
世間的には広まってきているようで、反面まだまだ広まってないような感じです。

また、何年たっても、否定する人はいるだろうし、
そもそも何事においても完全に正しいと証明することって出来ないんじゃないかと思えてきました。


ところで・・・
今、お金を増やす方法はないかと色々勉強をしているのですけど・・・。
お金は非常にわかりやすいですね。

方法は色々あってリスクもありますが、
結果が分かりやすいです。
とにかく1円でも多く増やせば良いわけです。

「糖質制限が正しいのなら、私のお金も増えるはずだ」と考えました。
今のところマイナス8万円ですが、1億円ぐらいに増えると嬉しいです。



Re: 自分を信じる

ふぁっつおー さん

 コメント頂き有難うございます。

> また、何年たっても、否定する人はいるだろうし、
> そもそも何事においても完全に正しいと証明することって出来ないんじゃないかと思えてきました。


 「2:6:2」の法則で言う所の、後ろの2割は最後まで変わる事を拒否するでしょうね。
 しかしたとえ2割が変わらずとも、前の8割が変わった時にパラダイムシフト完成と言ってよいと思います。

 お金に関しては個人的には必要最小限で十分だと考えて危ない橋は渡らない主義です。
 なぜならばお金が多ければ多いほど幸せとは限らないと思いますし、逆に新たな不幸が訪れる事もありうると思うからです。
 ただ強いて言えば、「たとえ給料が上がってもむやみやたらに生活水準を変えない」というのがお金が貯まるコツだと思っています。

たがしゅう先生、こんにちは。

先日、サプリメントのテレビCMの冒頭で、「ご飯お茶碗一杯には角砂糖○○個分の糖質が含まれています」という情報が流れてきて、普段テレビを見ない私は、職場の昼休みにたまたまそれを目にし、今やテレビCMでこんなことまで言うようになったのか、糖質制限はここまで広まってきているのか、と驚いたのですが、次の瞬間、「そこで、食後に、糖質の吸収を抑えるこのサプリメントを摂りましょう」と続いたので、さらに驚きました。

糖質が体によくなく、お米には角砂糖○○個分もの糖質が含まれているから、ではお米をやめよう、とはならずに、お米を食べた上で糖質の吸収を抑えるサプリメントを飲もうとなるところに、先生が後ろの女の子たちのリアクションに驚かれたのと同様、私も驚かされました。

こういったことに触れると、他者に伝えることの原理的な不可能性を改めて意識せずにはいられません。

メッセージの真実性や論理的正しさに関わらず、それがどう伝わるかは完全に相手側に委ねられているので送り手としてはどうしようもなく、その上でどういう方法を取れば相手になるべく曲解されずに伝わるかを考えないといけないように思います。
先生が仰るように、「ある現象を見た時にそれをどう受け止めるかは受け手側の知識や経験、それによって形成されるイメージによって大きく左右される」ので、相手によって伝え方を変えた方がいいのでしょう。

私も、糖質制限の良さを身近な人たちになかなかうまく伝えられず歯がゆい思いをしてますが、相手の状況や性格を考えて伝え方を工夫してみたいと思います。

Re: タイトルなし

マルセル さん

 コメント頂き有難うございます。

> 他者に伝えることの原理的な不可能性を改めて意識せずにはいられません。
> メッセージの真実性や論理的正しさに関わらず、それがどう伝わるかは完全に相手側に委ねられているので送り手としてはどうしようもなく、その上でどういう方法を取れば相手になるべく曲解されずに伝わるかを考えないといけないように思います。
> 相手によって伝え方を変えた方がいいのでしょう。


 伝え方の工夫で解決される事も多少はありますが、本質的には克服し難いなかなか難しい問題だと思います。
 しかしたとえ相手が変わらなくとも自分は変わる事はできます。変わらない世の中を嘆くのではなく、それをどう受け止めてどう行動するかが大切な事だと思います。

 2015年1月1日(木)の本ブログ記事
 「私が変われば世界も変わる」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-530.html
 も御参照下さい。

和食と砂糖

たがしゅう先生

伝わらないメッセージ。現在私も特に仕事でそれを痛感しています。
うまく言えませんが、糖質制限を始めて自分自身の理解力も変わってきたように思います。というよりも、夏井先生のサイトを見るようになり、そこから繋がりたがしゅう先生や他の方の考え方なども聞かせていただくうちに、自分で考える力がついてきたように感じます。
もしかしたら、私も、それ以前でしたら、その映画を見て同じように、砂糖をとらなければ大丈夫と受け取っていたかもしれません。
ただ、和食が砂糖をあまり使わないというのは???です。
和食、たくさんお砂糖使いますよね^^;
お寿司もおせちも、これでもかというくらいお砂糖を使いますし、和菓子も洋菓子よりも砂糖をかなりたくさん入れないと甘味がしません。煮炊き物・すき焼き、酢の物などなど、お砂糖を使うお料理はとても多いです。
みりんもよく使いますしね!
きっと、お料理を自分でされる方でも、和食はヘルシーという考え方が抜けないのと同様に、和食は健康的なお料理だから砂糖もそんなに使わないという考えが自分の中にも定着していて、お料理をする際も、実はたくさんお砂糖を使っていても無意識で習慣で使う為、たくさん使っているとは感じないのかな!
糖質制限をしているとお砂糖には敏感になるので、使っているのがラカントなどであっても、頭の中で甘味料これくらい使ってますと意識して作るので、和食にどれくらいお砂糖をたくさん使うかは嫌でも分かります^^;
良い脳トレになります(^^)

Re: 和食と砂糖

かず さん

 コメント頂き有難うございます。

> 和食が砂糖をあまり使わないというのは???です。
> 和食、たくさんお砂糖使いますよね^^;
> きっと、お料理を自分でされる方でも、和食はヘルシーという考え方が抜けないのと同様に、和食は健康的なお料理だから砂糖もそんなに使わないという考えが自分の中にも定着していて、お料理をする際も、実はたくさんお砂糖を使っていても無意識で習慣で使う為、たくさん使っているとは感じないのかな


 御指摘の通りだと思います。

 和食には砂糖はたっぷりと使われていますし、炭水化物もしっかりとあります。けれども「和食はヘルシー」というイメージが先行しているため、和食に糖分が使われている状況を受け止められないのだと思います。

 ちなみに、「野菜はヘルシー」という考えにも同様のものを強固に感じています。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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