サイアミディン

役に立たない事をしないために

古書と言えば、先日NHKの「100分de名著」の中で、

歴史に名を残す大剣豪、宮本武蔵が記した書物『五輪書(ごりんのしょ)』についての特集がありました。




剣術指南書のイメージがある五輪書ですが、実は人が生きていく上での奥深い知恵が散りばめられた名著でもあるのです。

その完成度は高く、翻訳され海外ではビジネス書として紹介されたり、プロスポーツ選手などにも愛読者が多いそうです。

五輪書は「地の巻」「水の巻」「火の巻」「風の巻」「空の巻」の五巻から成るのですが、

その中の武士の道の基礎を固める巻としてまとめられた「地の巻」に興味深い事が書かれていました。
それは「地の巻」の最後、兵法の道を学ぶ上での心がけをまとめられた次の9箇条です。

(以下、引用)

第一に、よこしまなき事を思ふ所、
(邪ではない事を思う所)

第二に、道の鍛錬する所、
(道を鍛錬する所)

第三に、諸芸にさはる所、
(広く諸芸にも触れる所)

第四に、諸職(しき)の道を知る事、
(諸々の職業の道を知ること)

第五に、物毎(ものごと)の損徳(そんとく)をわきまゆる事、
(物ごとの損得をわきまえること)

第六に、諸事目利(めきき)を仕覚(しおぼゆ)る事、
(諸事の真価を見抜くこと)

第七に、目に見えぬ所をさとつてしる事、
(目に見えないところをさとって知ること)

第八に、わづかなる事にも気を付る事、
(わずかな事にも気をつけること)

第九に、役にたゝぬ事をせざる事
役に立たないことをしないこと

(引用、ここまで)



これはなかなかよくできた9箇条だと思います。

順に読み解いていくのに、二つずつをセットにすると理解しやすくなります。

例えば第一と第二では「ずるいことをせずに鍛錬せよ」「物事の道を究めるのに楽に到達できる極意のようなものがあるわけではない」という事を言っています。

また第三と第四では「一つの道だけではなく、様々な分野に目を向けよ」という事を言っています。

さらに第五と第六ではその上で「自分にとって大切な事は何か」「本物は何なのかを見抜け」という事を言っています。

そして第七と第八では「繊細なところにも忘れずに目を向けよ」という事を言っています。

以上を受けて最後に第九条として「役に立たない事をしないように」と言っているわけです。

「役に立たないこととは何か」がわかるようになるためには、第一から第八条までのステップできちんと鍛錬を積まないといけません。

そういう意味で非常によくできていると思いますし、兵法に限らず様々な人生の場面で応用できる9箇条であるように思えます。


例えば、私は医師ですから、この9箇条を医道に置き換えて、

さらには糖質制限の視点を組み入れて考え直してみます。

すると第一と第二で述べる「ずるいことをしない」という事は、「間違いは間違いだときちんと認めること」とも読み変えることができます。

すなわち、カロリー制限の論理的正当性のなさを認め、糖質制限の観点で新たに基礎から応用まで理論を構築し直していく必要があるという事だと思います。

よくカロリー制限と糖質制限を並列で理解しようとしている医療者がいますが、これは大きな過ちだと私は考えます。

カロリー制限と糖質制限の考え方はほとんど真逆で、本質的に共存できない理論です。

糖質制限実践者の間ではよく知られている事ですが、カロリー制限と糖質制限を同時に行えばエネルギー不足に陥りトラブルを生じることがあります。

だから「糖質制限を認めること」=「カロリー制限が間違いであったと認めること」であり、その間違いを認めずに糖質制限を理解しようとする事は私に言わせれば「ずるいこと」です。

次に第三と第四の「様々な分野に目を向けよ」という事に関しても、

例えば糖質制限を指導していて、それだけでは解決できない症状にも多々遭遇します。

そうした場合に糖質制限だけにこだわり続けるのではなく、他に良い方法がないか様々な視点から探す必要があります。

場合によっては西洋医学だけにこだわらず、東洋医学や種々の非薬物療法、ストレスマネジメントなど糖質制限以外の健康を維持するための様々な手段について学んでいく必要性について述べていると思います。

それから第五と第六の「本物は何なのか」に関しては、健康を維持するための原則について考えるわけですが、

それを考えた結果、私の現時点での考えとしては「恒常性の維持」「必要以上に代謝を乱さない」「ケトン代謝の有効利用」という辺りに本質があると思ってます。

この本質が理解できればいろいろな事に応用が効きます。例えば糖質制限で解決できない問題はケトン食なら解決できるかもしれない、

ケトン食で解決できない問題は断食で解決できるかもしれない、という道筋が見えてくるわけです。

そして第七と第八での「繊細なところに目を向ける」では、目に見えない所、言い換えれば科学で説明できない所を忘れずに把握するという事だと思います。

それはいわゆるエビデンスの限界を知るという事でもありますし、

先日紹介した未病など検査で検出されない異常の存在をきちんと認識するという事につながっていきます。

それができればいわゆる不定愁訴で対応できないから「精神的なものですね」などと医師が逃げ文句を言う事はなくなると思います。


最後に「役に立たないこと」とは何かを考えます。

これまでの考察から健康の上で役に立つことは「ケトン代謝をベースに恒常性を維持すること」です。

という事は逆に言えば、役に立たないことはその恒常性を乱す事になりますので、

糖質摂取は最たる「役に立たないこと」という事になると思います。

それ以外にも自然に備わったシステムを急峻にブロックする西洋薬の類は多くが「役に立たないこと」になりえますし、

自然に備わったシステムであっても過剰に働きすぎてオーバーヒートしたような状態になってしまえば、それもまた「役に立たないこと」になります。

「役に立たないことをしない」とは、医学の大原則、「First, Do No Harm(まず、害をなすことなかれ)」にも通じる教えのようにも思えますが、

それだけにとどまらず第一~第八条の原則を元に理解を深めていけば、

私にまだ見えていない「役に立たないこと」は他にもたくさんあるような気がします。

糖質制限に応用理論を構築していく上でさらなる高みを目指す者にとって、

この宮本武蔵が編み出したこの考えは大変参考になるものだと感じました。


たがしゅう
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プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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