サイアミディン

食事療法に近い薬物療法

私は本来医療が目指すべき方向は、

薬を用いずに健康的な状態を維持できる状況に持っていく事だと思っています。

しかし現代医療は薬絶対主義であり、非薬物療法に対する評価が全体的に低いこともあって、

今のままでは薬を用いない状況に持っていくのは到底できない状況です。

そんな中糖質制限は、こうした状況に風穴を開ける打開策となりえる食事療法です。

きちんと実践すればかなりの病気を寛解状態に持っていく事ができる革新的なアプローチとなりえるのですが、

実際に診療の場で糖質制限指導をしていると、常識の壁など様々な問題が立ちはだかり、実践してくれる人は多く見積もっても2割程度です。

そうすると、残り8割の人には糖質制限以外の方法で病状を安定化させなければならなくなります。
こうした場合に通常の現代医療で標準的に処方される薬を処方せざるを得ない状況にも追い込まれるわけですが、

私はそうした人達への次善の策として、漢方を使ってみることを患者さんに提案しています。

なぜならば漢方薬は食事療法に近い薬物療法だからです。

漢方薬は生薬と呼ばれる植物や動物、鉱物などの天然に存在する薬効成分を含む物質を複数組み合わせて薬としたものですが、

生薬の中には人参や生姜(しょうが)など、私達が普通に食事として食べているものも含まれています。

「風邪を引いた時に卵酒を飲む」という民間療法的な対処方法がありますが、いわばその延長線上に漢方治療はあると私は思います。

一方で漢方薬には確固たる薬理作用がある事が西洋医学的な薬効成分解析によって徐々に解明されつつあります。

食欲を改善する六君子湯(りっくんしとう)におけるグレリン、インフルエンザの時などに用いる麻黄湯(まおうとう)のエフェドリンなどがその例ですね。

では、グレリンやエフェドリンを人体に投与すれば、もっと無駄なく強力に症状を改善させるのかと言えば、そうはなりません。エフェドリンなどは単に血圧を上げる効果しかなく、風邪を治す効果はありません。

薬効がある事は間違いありませんが、それだけで語れない作用をもたらすところが漢方薬の奥深いところなのです。

また漢方薬は一方向性ではなく、条件によって作用方向が変わる多方向性を持つ薬です。

例えば、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という漢方薬は、ある人には食欲を高める薬として働き、また別の人には食欲を抑える薬として働きます。

あるいは、更年期症候群などで見られる冷えのぼせのような手足が冷えて、顔がほてるという症状に対しては、

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの漢方薬が、顔は冷やし、手足は温めるという形で同一個体内でも多方向に働かせる事もできます。西洋薬ではこのような薬の効かせ方はできません。

なぜ西洋薬が多方向性に効かないかと言えば、単一成分に抽出してしまっているからです。

漢方を勉強するとわかりますが、構成生薬の数が少なくなればなるほど、言い換えれば単一成分に近い漢方薬になればなるほど、多方向性がなくなり漢方薬でも一方向性に近い薬になります。

こむら返りに用いる芍薬甘草湯がそのよい例です。芍薬甘草湯の構成生薬は芍薬と甘草の2つで単一に近いシンプルな形ですが、基本的に筋痙攣を抑えるという一方向性の作用しか持ちません。

このシンプルさを究極的に高めたものが現在頻用されている西洋薬の本質だと私が考えています。

一方で糖質制限にも多方向性があります。肥満の人には減量させ、やせの人は体重を増加させることができます。

高血圧の人の血圧は下げて、また低血圧の人の血圧は上げることができます。なぜでしょうか。

それは糖質制限が薬効を持っているからではなく、酸化ストレスを減らしもともと身体に備わっている恒常性を維持するためのシステムが働きやすい状況に持っていっているからです。

もっと平たく言えば、「身体が勝手に治っているのを、治りやすくなるように環境を整えている」のだと思います。

漢方薬が多方向性を示す事実を俯瞰でみていても、おそらく漢方薬は生薬の薬効+自然治癒力賦活の働きがあるのではないかと私は考える次第です。


しかし薬効がある以上、漢方薬でも副作用も起こりえます。

そもそも生薬だって人間の病気を治すために都合よく存在しているわけではありません。もとを正せば植物が作る毒です。

そうなのですが、その使い方を工夫することで、逆に病気をよくする方法にうまく持って行ったのが漢方の医学であり、先人達が経験的に導き出した知恵の集積なのです。

そもそも人間の体も複雑な超多成分系です。

複雑多成分な対象に単一成分で制御を試みようと考えた事自体が愚かなことだったのかもしれません。

一方で複雑性を維持したまま薬を応用している漢方薬はその点でまだましなアプローチ法です。

けれども一番は薬に頼らず、糖質制限ベースで病状がコントロールできること、

その大原則は崩さずに診療にあたっています。


たがしゅう
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プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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