サイアミディン

何を優先して治すべきか

先日の夏井先生外来見学でもう一つ印象的な話がありました。

夏井先生はもともと形成外科医で手の外科を専門にされていたのですが、

その昔、夏井先生の師匠に当たる先生から手の骨折の治療の際に「手のレントゲン写真写りは気にしないように」と指導を受けられたそうです。

なぜならばレントゲン写真を撮る事で、レントゲン写真を良くする方へ医者の意識が偏ってしまうからです。

それの何が悪いのか、と思われるかもしれませんが、「手が治るというのはそういう事じゃない」と夏井先生のお師匠さんは言います。

例えばレントゲン写真で手の骨の歪みを発見したら、それを矯正するためにギプス固定をしようという事になるかもしれません。

骨の歪みを矯正してその状態で安定させるためには、しばらくその状態をギプス固定で数週間キープしなければならなくなります。

そうすると、その間手は満足に使う事ができません。場合によってはギプスを外す頃には手の関節が拘縮し、手が動かしにくくなる可能性があります。

手とは使えてなんぼであって、いくら見た目の傷が治り写真映りがいくら良くなったとしても、機能的に問題が残ればそれは手が治ったとは言えない、というのです。
逆に言えば、いくら骨が歪んでいようと、機能的に問題ないレベルであればさして気にする必要はないという事です。

このお話は、「病気を治療する時に何を一番優先すべきなのか」という事を教えてくれているようにも思えます。

また検査絶対主義の内科疾患治療にも通じる所があります。


糖質制限に関する様々な相談を受けていてもよく思うのですが、

多くの方は血液検査の所見に自分の印象が引っ張られてしまっていると思います。

非常によく聞くのは「糖質制限をしてコレステロールが上がったのですが大丈夫でしょうか?」という相談です。

あるいは血液検査でなくとも、やせ型の人が糖質制限をして「体重が減ってしまったのでやっぱり糖質は少しは必要なのではないでしょうか」という話もよく聞きます。

私はそういう方に体調が悪いかどうかを尋ねるのですが、そういう方は決まって「体調は悪くない」と答えられるのです。

これは手の傷は治り、以前と同様に手が使えているにも関わらず、レントゲン写真での骨のズレに不安を抱いているのと同じような状況ではないでしょうか。

そもそも血液検査という技術が生まれていなければ、あるいは体重を測るという概念がなければ、こうした人達が自分の食事に疑問を抱く事もなかったのでしょうけれど、

まさに検査をすることによって逆に不安をかき立てられている状況になってしまっています。

不安がかき立てられれば、その精神的ストレスでストレスホルモンを介して血糖値が上昇します。

持続性の血糖上昇は酸化ストレスを生みます。その結果、その不安が続くことで本当に体調不良につながっていく悪循環が生まれます。

私が糖質制限と同様に、ストレスマネジメントの重要性を重視しているのはこの辺りに基づいています。

同様の事は医療を提供する側にも当てはまります。

無症状の患者に血液検査を実施し、たまたまCRPが上昇しているのがわかり抗生物質を処方する医師はその悪循環にはまる典型です。

本当に診るべきはCRPの値ではなく、「患者さんが困っているかどうか」がまず先です。そのために行うべきは検査よりも問診・診察であるはずです。

もっと言えば、CRPが高くても、身体を修復する方向に働いている状況であれば、

症状が強くない限りはむやみにNSAIDsやステロイドなどの抗炎症薬を使わずに、そのまま身体に任せておけばよいのです。

この考え方は正しい風邪の治療をするために必要な事を教えてくれていると思います。


「検査をすれば安心」とよく言いますが、はたして本当にそうなのでしょうか。

本質はその逆になってしまってはいないか、それぞれよくよく考えてもらいたいと私は思っていまます。


たがしゅう
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コウノメソッド

 コウノメソッドでは、認知症の治療は、85%は画像診断無しで可能で、後の15%は頭部CTで十分であるとされています。

 昨今の認知症医学は高価な脳血流検査をやたら実施し、その結果から認知症の種類の診断をやり治療するというパターンが非常に多いです。そして脳血流検査を定期的に実施し、検査結果をよくするための治療をやろうとする医師が多いようです。

 それでいて、認知症の周辺症状を抑えて介護者の負担を軽減するという考えが今一つ欠けているわけです。コウノメソッドでは、まず「介護者の負担を軽減」するのが第一とされています。

 夏井先生の考えと河野先生の考えに共通点を見いだすことができました。

Re: コウノメソッド

精神科医師A 先生
 
 コメント頂き有難うございます。

> 夏井先生の考えと河野先生の考えに共通点を見いだすことができました。

 本当にその通りですね。
 良い医療には科を超えて、立場を超えて共通する原理があるのだと思います。

No title

自分は十年前、まさにこれをやられて右手首に障害を残す寸前でした。知り合いの柔道整復医さんに相談してギブスを切ってもらって良かったです。そのときはあのへぼ医者め潰れろと思ったものですが・・・

見栄えの良い数字、写真、スローガン・・・考えてみれば私の勤務先でも大手を振って罷り通ってます。大企業病、事なかれ主義が日本をダメにしてますね。

Re: No title

SLEEP さん

 コメント頂き有難うございます。

> 見栄えの良い数字、写真、スローガン・・・考えてみれば私の勤務先でも大手を振って罷り通ってます。

 なるほど、医療以外の領域でも同様の現象はあるのかもしれませんね。

No title

たがしゅう先生

今回のテーマ歯科領域でも同様の問題があると感じています。
虫歯は自然治癒しない、進行してからだと治療が大変だから早期治療を、そして親不知は存在自体が無駄なので早く抜歯を・・(「常識」やカタチにこだわりすぎています)という概念です

痛みも無いのに歯牙を削ったり、神経を抜くような事をすると歯は脆くなり益々歯科との縁が切れなくなります。ですから、私は不用不急の歯科治療は無意味だと思います。

歯科の考え方として患者本位でなく歯科医の独断で進める治療が当然のようになっています。冷静に考えて、「今、その治療は必要ないでしょう」という事にまで「常識」を盾に手を出す歯科医が多いのは残念な事です

くんだみえ

Re: No title

栗田三江(くんだみえ)さん

 コメント頂き有難うございます。

 医師の自己満足で終わり、患者の気持ちが置き去りの医療はよくありませんね。
 私も偉そうな事を言っていますが、よくよく振り返ればできていない事もあります。自戒の念を込めたいと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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