サイアミディン

他の薬と一緒に飲んでもいいですか?

私は高齢者医療に従事する機会が多い医師です。

地域によっても事情は様々かもしれませんが、私が診療する地域では、

一人の患者さんが複数の病院やクリニックを受診しているという経緯がかなり多く見受けられます。

高血圧や糖尿病は○○内科、膝や腰の痛みは△△整形外科、花粉症は□□耳鼻科といったパターンです。

医療が専門分化した影響もさることながら、患者さんの方も専門医に診てもらった方が安心という風に考えがちですから、

こうしたパターンに流れる傾向には歯止めが利きません。その結果起こる事はそれぞれの西洋薬での対症薬が足し算式に増えていく事です。

それで健康の方向へ向かっていくのなら何も言わないのですが、実際には私は逆のイメージを持っています。
一方向性にシャープな効果をもたらす西洋薬を重ねていけば、増えれば増える程に副作用は複雑で医師が把握できる範囲を優に超える事になっていきます。いわゆる多剤内服(ポリファーマシー)問題です。

本来であれば専門に縛られず、食事療法や漢方療法を駆使して総合診療医的視点から薬の使用を最小限に絞ってくれるかかりつけ医がいるのが望ましいですが、

医師のスタイルも、患者さんの観念もここまで強固に固定していると軌道修正は非常に困難です。

そういう状況の中、私が日常診療でやむなく対症薬を処方する場合、非常に高頻度に患者さんから尋ねられる言葉として次のようなものがあります。

「よその病院で飲んでいる薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?」

一つや二つ薬を飲んでいる人ならまだいいのですが、これを十も二十も薬を飲んでいる人がそう尋ねるのです。

食事指導をして薬を減らそうという方針には反対するのに、やむなく薬を処方した時には必ずと言っていいほどこれを確認されます。

私の正直な回答を言ってしまえば、「大丈夫ではない」です。複雑な相互作用が予期せぬ副作用をもたらす事もありうるので、そこまでして薬が欲しいのならそのリスクは理解してもらいたいと思っています。

しかし、ここまで薬に慣れ親しんでいる人にその事を理解してもらうのは実に困難を極めます。

なぜならばこうした患者さん達はおそらく、まるで免罪符を得たいがために医師へこの質問を尋ねているからです。「ちゃんと先生に確認して処方してもらったのだからこの薬を飲んでも安心だ」と言わんばかりに。

それなのに私から期待外れの答えが返ってくるから当惑されてしまうのです。

多くの医師はこういう状況の時に、教科書的な二つの薬どうしの相互作用がなければ「飲んでも大丈夫です」と答えていると思いますが、

問題は3つ以上に薬が増えた場合の複雑化した未知の相互作用です。

そこまで把握して安全性を伝えることはほぼ不可能ですし、もしそれなのに「大丈夫」と伝えたとしたらそれは嘘になります。

「大丈夫」と言ってもダメ、「大丈夫ではない」と言ってもダメ、

はたしてどう答えるのが正解なのでしょうか。


正論を正攻法で伝えようとしても伝わらない場面ってあると思います。

多剤内服の問題は根深いですが、薬で治してくれと思っている人に薬の害を理解してもらう事はなかなかできません。

何か別の方法を考えなければならない必要性を強く感じます。


たがしゅう
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悲しいような

こんにちは。
想像なんですが、高齢者の皆さんは、時代的に、食べ物も薬もない戦中戦後を生きて来られたのだと思います。お腹いっぱい食べられなかった、薬が無いせいで人が亡くなったような時代ですよね。
そんな幼児体験をしていれば、食事に制限がかかったり、薬を飲めないのは不幸だと思うのも無理もないとも思えます。
戦争の悲惨さを伝えるような、悲しい話に感じました。



Re: 悲しいような

エリス さん

コメント頂き有難うございます。

確かに、高度経済成長期に入り、国民皆保険が成立して、戦前戦後の間もない時期に比べて薬が圧倒的に手に入りやすくなったわけですから、その恩恵をありがたがる気持ちは理解できます。その視点は持っておく意味はあると思います。

ところがそのありがたいはずであった薬の恩恵は、必ずしも善なものではなく実はまやかしの恩恵であったかもしれないということを、私達は今の医療現場を振り返り、そろそろ見直すべきではないかと私は思うのです。

No title

たがしゅう先生、こんばんは。
先日は初めましてのメッセージに、ご丁寧にお返事を下さり有難うございました。

私も以前から同じ様に思っていました。この様な患者を診察する医師は、さぞ大変な事だろうと思います。
ですが、世の医師の多くは、たがしゅう先生とは全く異なり、ほとんど意に介さないんだろうと思っています。
軽はずみに薬を処方する医師、薬を処方されたら、また、服用している事で安心してしまう患者、双方に問題が有ると思います。

>【「大丈夫」と言ってもダメ、「大丈夫ではない」言ってもダメ、はたしてどう答えるのが正解なのでしょうか。】
本当に難しい問題ですね…。

たがしゅう先生がいつも言われている様に、患者は、自分の身体や病気など、自分の状況を自分で考え、選択していくべきだと思います。
そして、そろそろ薬の害も理解すべきです。
そういう患者が一人でも増える事を願ってやみません。
乱文、長文を失礼致しました。

Re: No title

nori さん

 コメント頂き有難うございます。

 本当に薬絶対主義に基づく根深い問題です。医師も患者も大きく変わらなければならないと思います。

たがしゅう先生
お返事頂き有難うございます。

何だかえらそうな事言ってしまい失礼しました。

幼い頃からずっと思っていた事だったので、つい熱くなってしまいました(;´д`)
大変失礼しました。
また宜しくお願いします。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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