サイアミディン

オートファジー阻害剤に未来はない

ノーベル賞の受賞で一躍話題になった「オートファジー」をめぐっては、

これを利用した創薬研究が様々な分野で進められているようです。

例えば、一部のがん細胞がオートファジーが亢進している事が示されているため、

オートファジー阻害作用のある薬をがんの治療に応用しようという臨床試験が行われているというニュースを目にしました。

しかし私はこれは明らかに方向性を誤っていると私は考えます。

オートファジーとがんの関係を示した文献がインターネットでも閲覧可能ですので、

まずは今わかっている事実を確認する事から始めましょう。
オートファジーと疾患
2014年6月12日
蔭山 俊・小松雅明
(新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子生物学)
領域融合レビュー, 3, e006 (2014) DOI: 10.7875/leading.author.3.e006


(以下、「4.オートファジーとがん」より一部引用)

いちじるしく増殖をくり返すがん細胞は十分な血管新生がともなわず,

低酸素あるいは低グルコースといった代謝ストレスのもとでの生存を余儀なくされている.

また,がん細胞はその増殖を維持するため,アミノ酸,糖質,脂肪酸などをより多く必要とする,すなわち,がん細胞は代謝の要求性がきわめて高い状態にある.

オートファジーは腫瘍の形成を抑制する一方,いったん腫瘍化してしまった細胞においては栄養源を供給することにより代謝の要求性をみたしその増殖に貢献している

とくに,約90%にRas遺伝子の変異の認められる膵がんや活性型Rasにより形質転換したがん細胞などでは,オートファジーが恒常的に亢進した“オートファジー依存”の状態になっている.

(引用、ここまで)



これを読むと、オートファジーは普段はがんを抑えるのに働いているのに、

一旦がんができてしまうとオートファジーががんを大きくするのに一役買ってしまっているというのです。

ある生体防御的に働いている因子が増えていき、一定の段階までは有益性をもたらすけれど、増えすぎると有害性をもたらすというものは他にもあります。

例えば尿酸です。尿酸は生体における強力な抗酸化物質として知られていますが、

増えすぎてその尿酸を正しく処理できなくなれば、尿酸が組織で結晶化し痛風と呼ばれる関節炎をきたす事はよく知られています。

世間では尿酸が上がると尿酸を下げる薬を使って対応されることが多いと思います。確かにそうすればこれから新たに結晶化する尿酸の量を確実に減らす事ができ痛風発作を起こりにくくする事ができるかもしれません。

オートファジー阻害剤もまさにこの発想でがん治療として応用されているのだと思いますが、はたしてこの治療方針は正しいでしょうか。

ここでオートファジーがそもそも細胞に基本的に備わった生命維持のための飢餓応答システムだという事を思い出して下さい。

オートファジーを阻害すれば、当然正常細胞におけるその基本的な働きをも阻害する事になりますので、

確かにがんは小さくなるかもしれないけれど、その他大勢の正常細胞に対しては生存に不利な状況に追い込まれることになります。

ここにオートファジー阻害剤の未来を暗示する一つの薬があります。

血液がん治療薬として用いられているプロテアソーム阻害剤です。

プロテアソームとはオートファジーのように基本的にすべての細胞に備わったたんぱく質分解装置なのですが、

オートファジーが広範に様々なタンパク質を分解再利用するのに対し、プロテアソームはユビキチンというたんぱく質で目印がつけられた標的だけを分解するという選択性があります。

でも血液がん細胞で増加している異常なタンパク質を抑えるという目的で用いるという点で、開発中のオートファジー阻害剤と基本方針は一致しています。

ところがこのプロテアソーム阻害剤、副作用が多い事でも知られています。

具体的には白血球や好中球、血小板などの血球減少はほぼ必発で、食欲不振、下痢、便秘などの消化器症状は半数以上、それ以外にも発熱、体重減少、倦怠感あるいは高血糖、炎症反応上昇、電解質異常などの検査値異常も約3~4割の人で出現します。

プロテアソームは正常細胞におけるタンパク分解をも担っていますのでその帰結もさもありなんです。

オートファジー阻害剤をがん治療に用いようとすれば、きっと同じような事が起こると思います。また「それでも難治性がんを小さくするのであればある程度やむを得ない犠牲だ」という解釈に持っていかれることさえ懸念しています。


この間違いは原因と結果をはき違えている事に端を発しているのではないかと私は思います。

がん細胞でオートファジーが亢進しているのはがん細胞の原因ではなく、あくまで結果です。

がん細胞がそもそも正常細胞から派生してできたものであり、正常細胞の延長線上にがん細胞があるという事を忘れてはならないと私は思います。

もともとは生存を維持するのに有利なオートファジーという働きが、何らかの原因でがん細胞が増殖せざるを得ない代謝環境に置かれてしまったと、

その結果、がん細胞の増殖に合わせてもともと備わっていたオートファジーという働きも結果的に一緒に過剰駆動してしまっているという状況ではないかと思うのです。

そうなると、抑えるべきは過剰駆動してしまったオートファジーではなく、そのがん細胞が増殖せざるを得なくなった代謝要因の方なのではないでしょうか。

具体的にはがんが生まれやすくなる過剰な酸化ストレスを抑えたり、がんを育てやすくするブドウ糖代謝(嫌気性代謝)を使わないようにする事が治療戦略になります。これすなわち糖質制限ですね。

そうすればがん細胞は増殖する必要がなくなり、過剰なオートファジーも自ずと治まってくるというものです。

尿酸の治療についても同様の事が言えます。尿酸がそこまで増えざるを得なくなった原因の方に目を向けないと根本的な問題解決にはならないと私は思います。


それではオートファジー活性化剤の方に未来はあるのでしょうか。

私はそれにもNoを突き付けます。人為的にオートファジーを強引に活性化させれば、おそらく不自然な事象が出現すると思うからです。

今オートファジーが活性化すべきなのか抑制すべきなのか、

活性化すべきとしたらどの程度活性化すべきなのか、一律に上げた方がいいのか、変動させた方がいいのか、

そんな複雑な事は自分の身体に任せておくのが一番だと私は思います。

そのために有効な方法は、これしかありません


たがしゅう
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

Re:オートファジー阻害剤に未来はない

そもそも XXX阻害剤というものすべてに疑問を感じています.

α-グルコシダーゼ阻害剤の1種であるアカルボースは,小腸上皮細胞でのみ機能し,かつ体内には吸収されませんが,それ以外のすべての阻害剤は,体内に吸収され,生体本来に備わっている生化学機能を無条件に妨害するものです.

例えば糖尿病薬のDPP-4阻害剤は,たしかにインクレチンがDPP-4によって分解されるのを妨害してインクレチンの半減期を長くし,結果としてインスリン分泌を活性化しますが,それは糖尿病という観点だけからみれば,『望ましい』でしょう. しかし,DPP-4は,体内各組織に広く存在しています.免疫細胞の表皮にも存在しているということは,それが人体にとって必要だからそうなっているのだと思います. これを薬物で停止させてしまったら,免疫機構のバランスを根底から崩してしまわないでしょうか? DPP-4阻害薬は,たかだか10年程度の歴史しかありません. 精密な平衡で成り立っている人体のメタボリズムを,ただ特定の数値指標が良くなるからという浅はかな知恵で乱してしまっては,後世 大変なしっぺ返しを食らうような気がします.

Re: Re:オートファジー阻害剤に未来はない

しらねのぞるば さん

コメント頂き有難うございます。

> そもそも XXX阻害剤というものすべてに疑問を感じています.
> 精密な平衡で成り立っている人体のメタボリズムを,ただ特定の数値指標が良くなるからという浅はかな知恵で乱してしまっては,後世 大変なしっぺ返しを食らうような気がします.


全くもって同意見です。
その真実が見えた時、私は現在主流の西洋医学ベースの医療を抜本的に見直す必要性を強く感じました。
今までいかに浅はかな発想で複雑な生命現象に向き合ってきたかという事を反省し、その上でなすべき事を一から構築し直さなければならないと思っています。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: 生意気を申します

平社員 さん

コメント頂き有難うございます。

おっしゃる事は一理あると思いますが、ここはあくまで私見を述べる場です。
勿論一見無駄だと思える研究が役に立つ事も確かにあるわけですが、最初から負け試合だと見通せる研究に時間を費やすくらいなら、別の発想に時間をかける方が有意義だと私は考えます。
そんな私の意見は取るに足らないとオートファジー阻害剤の研究に望みをかけるのも自由です。私がどう言ったところできっと世界中でそのような研究はなされる事でしょう。

それに私は糖質制限だけでがんを治せるとまでは思っていません。ですが、最低限行っておかなければならない基本条件だとは考えています。病状によっては糖質制限+αのことをしないとがんがコントロールできないということもあると思います。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: No title

平社員 さん

 コメント頂き有難うございます。
 
 御指摘頂いたことは理解できます。

 一方で仮説を公開する事にも意味はあります。たとえ「思う」という記事でも決して無意味ではありません。その仮説が他者の目に触れることによって、自分が考えもよらない分野で新たな発展性をもたらすかもしれないからです。
 また医学論文などの確かなデータを提示する事は相当の労力を要する行為だという事を御理解頂きたく存じます。あるいは難しいからといってそれを諦めているわけではございません。しかるべき準備が整えばデータを公開する気持ちはございます。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの訪問者数
FC2アフィリエイト
メールフォーム
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR