サイアミディン

妊娠糖尿病は胎児を守っている

普段は血糖値正常なのに、妊娠を契機に糖尿病状態となる「妊娠糖尿病」と呼ばれる病気があります。

私は以前からこの病気の存在を不思議に感じていました。というのも血糖値の上昇は一時的には有益なパフォーマンスをもたらしえますが、

妊娠糖尿病だと何の対策も打たなければ妊娠の期間中結構な高血糖状態に晒されることになってしまうと思います。

妊娠自体は生物の存続のために極めて重要かつ不可欠なイベントであるはずにも関わらず、それを契機になぜ生存に不利な状況に追い込まれてしまうのでしょうか。

それまでは「ものすごく体力を消耗する強力なライフイベントだからストレスがかかって血糖値が上がってしまうのだろう」とくらいに考えておりましたが、

先日世界に向け発表された千葉県の産婦人科医、宗田哲男先生英語論文を読んで、別の視点に気が付かされました。
というのもこの論文には耐糖能異常や妊娠糖尿病がない満期の正常妊娠女性60名での母体血、胎盤血、臍帯血、新生児の平均の血中ケトン体のうちの3-ヒドロキシ酪酸(3-OHBA)の平均値が記されています。

3-OHBA
母体血平均       285.4μmol/L
胎盤平均         2235.0μmol/L
臍帯血           779.2μmol/L
新生児(生後4日目)  240.4μmol/L


母親の血液が胎盤に集まり、そこから臍帯血を通って赤ちゃんに栄養が送られるという流れで考えれば、

これは「胎盤で大量に作られたケトン体がいかに新生児で利用されているか」という事を伺い知る事ができるデータであります。

ただここで疑問に思うのは、「それならば母体血のケトン体値が最も高くなければ話が合わないのではないか?」ということです。

ここで母体血のケトン体値が胎盤血のケトン体値よりも低い事について私はある仮説を考えつきました。

それは「胎児に最大限のケトン体を送るために母親が犠牲になっている」のではないかという事です。

人体においては糖質代謝とケトン体代謝の大きな二つのエンジンがありますが、

これが普段の状態であれば食べ物や環境に左右されながらも動的均衡を保ってハンドリングされています。

しかし妊娠というイベントが起これば、ケトン体代謝は胎盤という赤ちゃんの栄養中枢に最大限に集中させる必要性が出てきます。

人体のある局所組織で急激にケトン代謝を高める反応が起これば、それ以外の組織ではケトン代謝を使いにくい状況、すなわち糖質代謝主体になりやすい状況が生まれます。ここではその局所組織が胎盤であり、それ以外の組織というのが母体だということです。

それゆえ妊娠前であれば上手に処理できていた程度の糖質量でも、妊娠後には母体では糖質代謝が回りやすいために妊娠糖尿病という状態が生まれてしまうのではないでしょうか。


あくまで私の仮説ですが、そう考えるとつじつまが合うような気がしますし、

そう考えれば母親の胎児に対する根源的な愛の形に感動しますし、妊娠糖尿病に愛着さえ覚感じます。

そしてそう考えれば妊娠糖尿病の人に糖質60%を食べさせるという従来医学の食事指導は、

せっかく赤ちゃんへのダメージを最小限にするために母体が頑張っているというのに、その苦しい状況に追い打ちをかけるような行為であり、最低の治療方針と思わざるを得ません。

母子ともに健康な妊娠出産を遂行するためには、

ケトン体代謝をいかに守るかという事が鍵であるように私は思います。


たがしゅう
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ちょっと難しい・・・

たがしゅうさん、こんにちは。

今回のテーマは大変興味深いですが、

>それゆえ妊娠前であれば上手に処理できていた>程度の糖質量でも、妊娠後には母体では糖質代>謝が回りやすいために妊娠糖尿病という状態が>生まれてしまうのではないでしょうか。

この部分が素人の私にはよくわかりません。
糖代謝が回ると耐糖能が落ちるということですよね。普通に考えれば、糖代謝が回れば、糖を処理する能力が上がるような気がするのですが・・・

それまでの部分については、私も同意見です。

Re: ちょっと難しい・・・

あきにゃん さん

 コメント頂き有難うございます。

> 糖代謝が回ると耐糖能が落ちるということですよね。普通に考えれば、糖代謝が回れば、糖を処理する能力が上がるような気がするのですが・・・

 私の表現方法が適切でなかったようです。
 糖代謝が回るとは「糖代謝に負担がかかる」という事です。耐糖能が低下すると同義と捉えて頂いて構いません。

同意します。

胎盤は、母体側と胎児側があります。母体側に脂質を供給し,胎盤がケトン体産生して、胎児に供給するのではないでしょうか?
母体の仕事は、脂質を胎盤に供給すること。
したがって、妊娠糖尿病といわれる状態を呈するのではないでしょうか?
高血糖&高インスリンが脂質供給には必要なので。

Re: 同意します。

新井圭輔 先生

コメント頂き有難うございます。

母体では脂質を合成するために相対的高血糖・高インスリン状態となり、最大限のケトン体を胎盤へ供給し、そして臍帯以降の胎児でケトン体が最大限消費されていくという流れですね。そう考えると妊婦の中で起こっている現象がさらによく理解できるように思います。

高インスリン?

たがしゅう先生

別なことを考えておりました。
妊娠糖尿病=低インスリンor抵抗性=母体の犠牲(実際の数値は不明ですが)
高インスリンではケトン体産生が不利かと思います。

Re: 高インスリン?

Yamamoto_ma さん

 コメント頂き有難うございます。

> 妊娠糖尿病=低インスリンor抵抗性=母体の犠牲(実際の数値は不明ですが)
> 高インスリンではケトン体産生が不利かと思います。


 これはどうなのでしょうね。

 確かに高インスリンではケトン体産生に不利ですが、母体と胎盤以降で代謝を変えている可能性があります。
 つまり母体では高インスリンにして脂質蓄積に専念して、胎盤以降で低インスリン環境を作ってその脂質を分解しケトン体産生させるという流れですね。もっとも本来ならそれは高インスリンではなく正インスリンというか、必要最小限のインスリンでなされるべき工程だと思いますが。
 
 妊娠糖尿病だと診断され薬などの治療介入を受けていない妊婦さんのインスリン値がある程度集まれば、その辺の見通しが立つかもしれませんね。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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