サイアミディン

可逆的変化と不可逆的変化

人間の体に起こる反応には「可逆的(元に戻る)」なものと「不可逆的(元には戻らない)」なものがあります.

私の基本的な診療スタイルですが,

可逆的な現象に対しては基本的には人体の持つ治癒能を活かしつつ,薬の使用は一時的かつ必要最小限を目指します(様々な事情でそれが困難な場合は多々ありますが).

一方,不可逆的な現象に対してはやむなく薬の連用を許容しますが,それでもできるだけ副作用を最小限にすることを意識します.

例えば私の守備範囲である認知症について言えば,

軽度認知障害(認知症の一歩手前の状態)は可逆的な状態,認知症は不可逆的な状態(神経細胞が一部機能していない状態)と言えます.

可逆的な軽度認知障害に対しては,まず糖質制限の実践を勧めますが,

不可逆的な認知症に対しては,糖質制限に加えて認知症コウノメソッドも参考に必要最小限の薬のサポートを加える,ということになります.
もう一つ脳に関して言えば,「虚血(血流が不足している)」という可逆的な変化と,「梗塞(血流が完全に途絶えている)」という不可逆的な変化があります.

梗塞という不可逆的な変化が脳に起こってしまうのが「脳梗塞」です.

脳の神経細胞は一旦梗塞によって死滅してしまうと二度と生き返らないというのが定説です.

従って脳梗塞は,基本的に後遺症が残る病気です.

そして後遺症を少なくするためにリハビリを行いますが,これは神経細胞が生き返っているわけではなく,生き残った神経細胞が神経ネットワークを広げることで後遺症を少なくしていると考えられています.

それゆえ脳梗塞は一度起こすとその後遺症と一生付き合っていかなければならないという厳しい病気です.

また再発予防のために基本的には皆,血液をサラサラにする薬を飲み続けなければならなくなります.

しかも非常に患者数の多い病気で,介護負担を増やす大きな要因にもなっています.

その脳梗塞の予防に糖質制限が有効であるという考えを私は持っています.

脳梗塞を起こしやすくする「危険因子」というものがあり,高血圧,脂質異常(中性脂肪,コレステロールバランスの異常),糖尿病,喫煙,過度の飲酒などがそれに当たりますが,

糖質制限がその多くの危険因子を改善に導くということもありますし,

動脈硬化の原因となる酸化ストレスリスクを下げることにもつながるからです.

逆に今のところ糖質制限を行うことで起こりうるデメリットは論拠の薄弱な長期安全の不透明性と,食費と社会生活上どのように折り合いをつけるか,ということくらいです.

脳梗塞で不可逆的な後遺症を残すことに比べたら,よほどよいと思います.

私は立場上,脳梗塞の患者さんを多数診ていますが,

ほとんど,いや全ての患者さんは「糖質制限」という選択肢を知らされずに,病気を起こしてしまった人です.

糖質制限の選択肢を知っていたら予防のために実行していたという人もいたかもしれません.

不可逆的な変化は起こしてしまってからでは遅いのです.

病気を不可逆的な変化ではなく,可逆的変化までにとどめてもらえるように,

私は与えられる情報をできる限り患者さんに伝えていきたいと思います.



なお,実は「脳の神経細胞が一旦死んだら生き返らない」という考え自体も今大きく見直されつつあります.

以下の本をご紹介します.



著者の先生は「分子整合栄養医学」という糖質制限に通ずる理論に精通された先生です.

うつの原因は不明で,セロトニン不足はうつのわずかな部分を説明しているに過ぎないという考えを表明しておられています.

他にも,うつと運動の関連,ランナーズハイと神経伝達物質の関連,活性酸素と神経変性疾患の関連の話にも言及しておられ,

私にとってかなり勉強になる読みやすい本でした.

ここでも常識を疑う姿勢が求められます.


たがしゅう
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

不幸中の幸い

たがしゅう先生、こんにちは。
私は去年のゴールデンウイーク後に脳梗塞を起こしました。その時に撮ったCTで脳の一部に出血らしいものがありました。これがきっかけで心臓の血管が詰まっていることがわかり、普通の人の心臓が20%しか機能していないということがわかりバイパス手術して現在に至ります。

脳梗塞を起こさなかったら心臓の異変に気がつかずに今頃天に召されていた可能性が高いです。

脳梗塞で脳細胞の該当する部分は今でも欠損していると思われますが自分で後遺症が自覚できず(ないということはないと思います)まあそれだったら後遺症は気にしないように血糖値をコントロールしようということで現在に至ります。

たがしゅう先生のブログを拝見すると引き算で病気の原因を確認してこれにたいしてアプローチするというスタンスですが患者としてもわかりやすいですね。

Re: 不幸中の幸い

クロワッサン さん

 いつもコメントを頂き有難うございます。

 脳梗塞は基本的に不可逆的変化ですが、病巣が小さければ本人の努力で後遺症がほぼわからないレベルまで回復される患者さんも多々お見受けします。

 また「一病息災」という言葉がありますが、病気をされた事を一つのきっかけに健康について考え直されるクロワッサンさんの姿勢は素晴らしいと思います。

No title

たがしゅう先生
いつもブログ拝見しています。
真摯に日々医療に携わって患者に寄り添っておられる様子にこんなお医者さんもおられるのだなと嬉しいです。

関係ないメール失礼します。
私の父のことでお尋ねしたいのですが、父79歳今年の2月にALSと診断されました。
手の機能全廃、足の機能も一人で歩くのは難しく車椅子のお世話になってます。
嚥下に関してはまだ大丈夫です。
呼吸の数値は50をきりました。
今まだ体力があるうちに、気管切開、胃ろうをどうするか選択をせまられています。父はどちらも選択しないつもりです。
ALSの場合は器官切開、胃ろうは医療行為で延命治療ではないと考えるのでしょうか?
選択しない場合、どういう状況を経て死にいたるのでしょうか?
父にとりどちらの道を選んでも苦しいですね。
私は簡単に生きてて欲しいとは言えません。
器官切開、胃ろうのメリット、デメリットを教えていただけないでしょうか?
よろしくお願いします。

Re: No title

ミニパン さん

 コメント・御質問を頂き有難うございます。

 またお父様の病状、お察し申し上げます。

> ALSの場合は気管切開、胃ろうは医療行為で延命治療ではないと考えるのでしょうか?
> 選択しない場合、どういう状況を経て死にいたるのでしょうか?
> 気管切開、胃ろうのメリット、デメリットを教えていただけないでしょうか?


 『気管切開、胃ろうが延命行為か否か』

 これは人の死をどう考えるかという、その人の価値観によるところが大きいです。

 とにかく命があれば生きていると考える人、口から食べて意志疎通ができなければ生きていると言えないと考える人、人によって考え方は違います。

 気管切開、胃ろうのメリットは体が不自由になっても生命を維持できること、デメリットは意識はあってもやがて体のすべての筋肉が動かなくなり意思表示ができない状態(閉じ込め状態=TLS:total locked-in state)になっても生命を維持され続けるということ。

 それらは表裏一体です。きっと正解はないと思います。

 残念ながら、所詮は他人で一介の医師である私がミニパンさんの求める答えを差し上げることはできませんが、

 この事を考える上で参考になる、一つのドキュメント動画があります。

 とあるALS患者さんが人生をかけて作りあげられた非常に価値のある動画です。

 もしよろしければご覧になって、改めて考えてみて下さい。


 「生きることを選んで」
 ttp://www.minkyo.or.jp/01/2012/06/post_13.html(※先頭にhを入れて下さい)

 ttp://toracyan53.blog60.fc2.com/blog-entry-3147.html(※先頭にhを入れて下さい)

No title

たがしゅう先生
早速お返事ありがとうございます。
死生観により答えは変わってきますね。
お奨めのドキュメント動画をみてみます。
ありがとうございました。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

下肢静脈瘤について

たがしゅう先生いつも読ませていただきありがとうございます。今回のタイトルに当てはまるかも…と勘違いの質問かもしれませんがコメントさせていただきます。
「下肢静脈瘤」は「 可逆的変化と不可逆的変化」のどちらに当てはまるのでしょうか。「 可逆的変化」ならば治療法は手術以外に糖質制限も可能性はありそうでしょうか。
先生の専門分野とは違う質問で申し訳ありません。よろしくお願いします。

Re: 下肢静脈瘤について

shin1 さん

 御質問頂き有難うございます。

> 「下肢静脈瘤」は「 可逆的変化と不可逆的変化」のどちらに当てはまるのでしょうか。「 可逆的変化」ならば治療法は手術以外に糖質制限も可能性はありそうでしょうか。

 下肢静脈瘤は基本的には「不可逆的変化」だと思います。

 多くは肥満や長時間の立ち仕事などがあって、足から心臓へ血液が返っていく流れが妨げられて、「静脈弁」という関所が壊れてしまうことが原因です。

 ただし血栓ができて流れが滞っていて血栓が溶ければまた流れが良くなるといった、原因自体が可逆的な場合はその限りではないと思います。

 糖質制限は減量という意味で治療というよりは予防に役立つと思います。

No title

たがしゅうさん

下肢静脈瘤で思い出しましたが、職場でも学校でも昼食の後机に突っ伏して寝ている人は多いですよね。これなんかどう考えても血管や関節に物凄い負担ですよね。
糖質制限を始めてから休憩時間は眠くならないのでストレッチなんかをやってますが、いわゆる健康寿命を考えたらトータル凄い差になるかもしれません。ちなみに今38ですが人生で一番体が柔らかいという・・・職場でこんなこと話したら宗教かぶれ扱いですが。

たがしゅう先生ありがとうございます。下肢静脈瘤は基本的には不可逆的変化なのですね。糖質制限は予防効果はありそうなんですね。静脈弁が壊れてしまう、知りませんでした。壊れた皮膚が再生するみたいにはいかないのですね。健康そのものに見える方がいつの間にか発症されたのを見かけると気の毒でならないです。体質、遺伝的な原因もあるのでしょうか。丁寧に大切に付き合っているだけではどうにもならなそうなことが身体には多くありそうで、難しいですね。
お忙しいなお返事をいただきましてありがとうございました。

Re: No title

SLEEP さん

 いつもコメントを頂き有難うございます。

> 下肢静脈瘤で思い出しましたが、職場でも学校でも昼食の後机に突っ伏して寝ている人は多いですよね。これなんかどう考えても血管や関節に物凄い負担ですよね。糖質制限を始めてから休憩時間は眠くならないのでストレッチなんかをやってますが、いわゆる健康寿命を考えたらトータル凄い差になるかもしれません。

 そうですね。

 一つ一つはささいな差であっても、チリも積もれば山になるではないですが、やがて大きな違いになると私も思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの訪問者数
FC2アフィリエイト
メールフォーム
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR