サイアミディン

ストレスマネジメントをどう伝えるか

私が糖質制限を始めてそろそろ5年の月日が流れようとしていますが、

この間に私は様々な患者さんに糖質制限指導を行い、臨床経験を積んできました。

その結果、糖質制限にはこれまでのどの治療より大きな臨床効果があり、しかも副作用と呼べるような事象が圧倒的に少ない事を実感してきました。

一方で、様々な慣習や文化、常識の壁が立ちはだかり、糖質制限を始めるスタート地点にすら立てない人達とも数多く出会ってきました。むしろそういう人の方が圧倒的多数でした。

そんな中、明らかに糖質制限を実践できているにも関わらず全く症状が良くならないという人にも少数ですが出会いました。

そういう方々に共通していると思うのは、「心の在り方に問題を抱えている」ということです。
心身一如」という言葉の重みを私は糖質制限を通じて痛いほどに感じています。

糖質制限で高血糖の害を排除しても、糖質への中毒性が取れても、血流が改善しても、ケトン体による抗炎症効果、鎮痛効果が得られたとしても、

心の在り方に問題がある人にとっては、それでも何一つ症状は改善しませんでした。

言い換えれば、自分の心の在り方の落とし所を間違えると、糖質制限による改善効果をすべて相殺してしまうほどの悪影響を与えうるという事です。

その事は、逆に糖質制限を関係なしで難病を克服したり糖質制限関係なしで長生きを成し遂げていたりする人達の心の在り方が素晴らしい事を考えればよく理解できると思います。

糖質制限は健康に向けての第一歩として非常に重要であることは間違いありませんが、

それと同じくらい大事な事が「ストレスマネジメント」だと私は考えています。


この「ストレスマネジメント」、非常に重要ではあるものの、難点は人に教えるのが極めて難しいということです。

糖質制限の栄養指導であればある意味簡単です。相手の食事内容を確認し、問題点を指摘し、改善のための具体的な解決策を提示すればいいわけですし、

意識的にせよ無意識的にせよ、糖質過多になっている人がほとんどですから、相手の如何に関わらず糖質を減らし、その代わり脂質・タンパク質をしっかり摂るように、と指導しておけば大間違いにはなりません。

ところがストレスマネジメントを人に教えるとなるとこうは単純にはいきません。

なぜならば、人が抱えているストレスはそれぞれに異なり、年齢も性別も立場も環境もすべてがオリジナルケースであって、

全員に当てはまる万能的なストレスマネジメント方法を提示するのが難しいからです。

総論的な内容なら全員に同じように語れても、より具体的な方法という話になればどうやっても個別で考えていく必要が出てきます。

しかしこれができなければストレスマネジメント不足のせいで、糖質制限の効果を減弱させてしまっている人達を救う事はできないのです。私の中では大きな課題の一つでもあります。


例えば、ストレスマネジメントがうまくできていない人は血圧の数値を気にします。

血圧の値を気にすれば気にするほどその人にとってのストレスになります。糖質制限をされている人の中でも、「糖質制限をしていても血圧が高いのですが、降圧剤を飲んだ方がいいでしょうか?」という質問はよく受けます。

身体がストレスを感じれば、コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンの働きを介して血圧が上昇するように働きかけます。

これはもともとは動物が猛獣に襲われそうな場合に、戦うにしても逃げるにしても存分に身体能力を発揮できるように身体が活性化してくれている反応が由来です。

ですからこの血圧上昇反応を怖がるのではなく、「窮地に血圧を上げてくれてどうもありがとう」と、まずは自分の身体に感謝してみるのです。

感謝して心を落ち着かせていけば、少なくとも自分由来のストレスホルモンの分泌は抑えられ、結果的に血圧は余分な上昇分がなくなり落ち着くところに落ち着いていくはずです。

ところがそう説明したとしても、言われた本人が心底それを納得していなければ意味がないのです。

例えば「そうは言っても血圧が上がるのは怖い。身内に脳卒中で倒れた人もいる。やっぱり血圧の薬を飲んでいないと不安でしようがない」と思われてしまえば、ストレスマネジメント失敗です。

そうしてストレスを感じ続けていけば、些細な緊張場面でも血圧が上昇する反応が容易に起こるようになっていき、

それが繰り返されればいわゆる交感神経過緊張状態、リラックスしようとしても興奮が冷めやらず、血圧が上がりっぱなし、その事はやがて肩こり耳鳴り本態性振戦などの難治性病態へと身体をこじらせていくのだと思います。

ストレスマネジメントの重要性は、ストレス関連身体疾患の多さからもうかがい知ることができると思います。

これをいかにして伝えていくかという事を考えていく事に大きな価値があると思います。


たがしゅう
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とりあえず何か変えてみる

たがしゅうさん、こんにちは。

ストレスが健康に与える影響は大きいですね。
先日、NHKでも「キラーストレス」なる特集をしていました。ストレスが命をも奪いかねないということだと思います。

心の持ちようは確かに重要な視点だと思いますが、多くの人にとって自分の考え方を変えることが容易でないことも事実だと思います。だからこそ、自分を変えないで状況を変えられる「薬」に頼ってしまうのではないでしょうか。

考え方を簡単に変えられないのであれば、とりあえずストレッサーになっていると考えられる要素を一つづつ取り除いていってはどうでしょうか?

確かに現代社会はストレスに満ちていて、ストレスを避けることは無理だと考えがちですが、糖質制限にトライできる方なら、出来ないことはないと思います。

とりあえず何か変えてみて、結果を感じることができれば、心の持ち方を変えてみる勇気も出てくるかも知れませんね。

不安の原因はもしかしたら別のところにあるかも

たがしゅう先生、こんにちは。

血圧やコレステロールのことで不安を訴える人には、大櫛陽一先生の一連の御著書が、不安解消に役立つんではないでしょうか。
『コレステロール・血圧・血糖値 下げるな危険!薬があなたの体をダメにする』『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい』『コレステロールと中性脂肪で薬は飲むな』などです。
多少血圧が上がろうとも、それがまったく大丈夫な理由や、製薬会社と癒着した『高血圧マフィア』などについて、書いてあります。

しかし、高齢者の場合、血圧の不安を訴えているようでも、実際は、それ以外の、口には出しにくい、複数の生活不安や家族への不満などが背景にある場合もあるかもしれませんね。

それはそれとして、人生には、物理的に避けようのないストレスもある、と思います。
たとえば、借金取りに追われている場合、DVを受けている場合、また、経営が思わしくなくなった会社を、どうにかして一人で建て直さなければならない場合や、家族の介護を一人で引き受けている場合などです。

私は、亡夫のケアで、介護ストレスを、いやというほど味わいました。
医療機械を使っていたので、ヘルパーさんは頼めません。
そして、夜も、うとうとしたかと思うと、夫の血中酸素濃度が下がったことを示すアラームでたたき起こされる。
意識障害や下血で、救急車を呼ばなければならない時もある。
ストレスから解放されて、自分を立て直すひまがありません。
自分のために体にいいものを調達して食べているひまも、ありません。
たとえば、病人を担ぎ込んだ先の病院の売店では、菓子パンくらいしか売っていないし。

こういう時、ストレス・マネージメントというのは、絵に描いた餅でしかないでしょう。
どうにかしなければと思っていても、まるで余裕がないからです。
こういう時に、ガタガタと体が悪くなるのですよね。

でも、もちろん、先生がおっしゃっているのは、そういうことではなくて、平常時から不安のタネを手放そうとしない人たちのことでしょう。
それは、一種の依存症かもしれない。
つまり、本当の問題は、自覚されない、別のところにあるのかもしれません。
そういった人たちの不安を、当人にかわって取り除いてあげることは、できませんよね。
ストレス・マネージメント、なかなか難しいものだな、と思います。

Re: とりあえず何か変えてみる

あきにゃん さん

 コメント頂き有難うございます。

> ストレスが命をも奪いかねないということだと思います。
> ストレスを避けることは無理だと考えがちですが、糖質制限にトライできる方なら、出来ないことはないと思います。


 そう思われるのもよくわかるのですが、頑なな方というのはいるもので、それとこれとは別だったりするのです。
 というよりも正確に言えばそういう人は、糖質制限の方も自らが納得しているのではなく、医師に言われているから仕方なくやっている、という心持ちだったりします。そういう考えでいる限り決してうまく行きません。

 ストレスマネジメントは誰かに教わるのでは限界があり、結局自分で体得するより他にないようにも私には思えてくるのです。

Re: 不安の原因はもしかしたら別のところにあるかも

みか さん

 コメント頂き有難うございます。

> 人生には、物理的に避けようのないストレスもある、と思います。
> たとえば、借金取りに追われている場合、DVを受けている場合、また、経営が思わしくなくなった会社を、どうにかして一人で建て直さなければならない場合や、家族の介護を一人で引き受けている場合などです。
> こういう時、ストレス・マネージメントというのは、絵に描いた餅でしかないでしょう。


 確かに現実的に厳しい状況はあると思います。
 しかしいかなる厳しい場合であっても、ストレスマネジメントが全く無力とまではなりません。
 私が参考にするストレスマネジメント法の一つであるアドラー心理学では、「たとえどんな状況にあっても、自分の考え方次第で一人の例外もなく幸せになる事ができる。ただし幸せになるには勇気がいる。」と述べられています。

 私はまだその真髄を極めるに至っておりませんが、大切なことは「現実世界を自分がどう捉えるか」だという事は理解しているつもりです。

No title

たがしゅう先生

私自身の問題として非常に関心があります。糖質制限をしていても経過の長い慢性歯性上顎洞炎は改善しません。不眠症もしかりです。

しかし糖質制限を継続する事で日常生活における精神的ストレスに強くなった事を実感しています。ゆえにストレスが原因で自身の身体を病む可能性は低いと感じているのです。

後鼻漏があっても、早朝めが覚めて眠れなくても、それを受け入れる強さが備わりました。もちろんクスリとは無縁です。

糖質を断ってはじめてわかったのです。糖質が精神にいかに悪影響を及ぼしていたかと言う事を・・・

先生がおっしゃる、糖質制限をしても症状が改善しないというヒトは長年の糖質摂取のツケのようなものであって、このような場合も糖質制限を継続することで答えが見えてくる可能性がありませんか?

(私の場合も精神的に強くなったと感じたのか1年経過してからです)

くんだみえ

Re: No title

栗田三江(くんだみえ)さん

 コメント頂き有難うございます。

 糖質制限が精神面に好影響を与える事は確かですし、
 御指摘のように長く続ける事で改善効果が高まる部分もあると思います。

 しかしそれだけでは不完全だという事も認識しておくべきだと私は思います。
 例えばストレスマネジメントが不十分ならストレスホルモンを通じて血糖値が上昇します。
 血糖値が上昇すればケトン体の利用効率が下がります。ストレスを受け続ければ折角の糖質制限の効果も半減します。

 つまり糖質制限はストレスマネジメントのための必要条件であっても、必要十分条件ではないという事です。
 必要十分条件にするためには、糖質制限と無関係の部分でのストレスマネジメントの方策を学ぶことがとても大事だと私は考えています。

No title

たがしゅう先生

私が無意識に封印していた部分なのかもしれません。公私にわたって通常では考えられない強い精神的ストレスを受ける時があります。しかし「私は糖質制限している。ストレスに強い」と暗示にかけ、本当に見るべき事象に目をそむけている部分がありました。

>>必要十分条件にするためには、糖質制限と無関係の部分でのストレスマネジメントの方策を学ぶことがとても大事だと私は考えています

と先生がおっしゃる事、いつも感じています。吉本新喜劇を見て大笑いする事はささやかなストレス解消法です。それ以外にも無意識にしているはずですが・・

被害的にならない、という意味でしょうか

たがしゅう先生がおっしゃっているのは、おかれている状況如何に拘わらず、被害的にならない、あるいは、悲観的にならない、というふうに言い換えてもいいでしょうか。
それなら、よくわかります。
つまり、どんな状況でも、考えようによってはチャンスであり、ギフトでもある、ということですよね。

実は、私も、アドラーは、日本であまり知られていない時期に、学んでいました。
リフレーミングの練習も、ずいぶんしました。

でも、それでもノイローゼになるほど追い詰められて疲れ果てたような時に、私がたとえ話としていつも思い出すのは、旧約聖書のヨブ記です。
ヨブという人の信仰心を試すために、神が彼にひどい皮膚病を起こさせたのだけれども、それでも、ヨブは、全身をかきむしりながらも、神を賛美し続けた、という話です。

私は、この話を、どんな時でも、前向きな信念を捨てない、そして自分を見捨てない、ということをたとえた話だと思っています。
(神イコール真我の投影と解釈することもできますものね。)

私は、特定の宗教に興味はないけれど、こういう、ちょっとプリミティブなたとえ話は、愛らしいものだと感じているのです。

そして、この話を思い出すと、自分が激しい痛みや痒みや疲れにみまわれて、一瞬たりとも眠れず、何も考えられず、脂汗をかいたり悲鳴を上げているような最中でも(そんなことが長期間続いたこともたびたびあったのです。激しいアトピーやら脊柱管狭窄症やらで)、どこか楽天的になれるのですよね。
小さなお守りみたいなものです。

話を戻すと、糖質制限している方というのは、みずから糖質制限することができるだけの物理的な余裕はあるわけですよね。
(激痛にみまわれて動けないとか、金銭的に無理だとか、そういう状態ではないわけですよね。)

でも、先生が前にもお書きになっていたうように、自分の選択としてやっているのか、それども、やれと言われたからやっているかの違い、ということはあるのかもしれませんね。
そして、やれと言われたからやっている、という人は、おそらく、糖質制限について、自分で納得するところまでは、みずから勉強していないのかもしれないですね。

そして、そういう人は、もともと、自分が人生を変えられる力を持っているということを、信じてさえいないのかもしれないですね。

ということは、そこで必要になるのは、一口でいえば、エンパワーメント、ということでしょうか。
自分にも状況を変える『力』があるんだ、と信じられれば、状況を変える糸口を自分で探すでしょうし、糖質制限する理由を、ひとのせいにはしないでしょうから。

だって、少なくとも糖質制限というチャンスに出会ったわけです。
このチャンスから得られるメリットを最大化してやろう、という気があれば、勉強もするし、自分流の工夫もするはずでしょう。

ただ。
日本では、儒教の影響なのか、権威に対して従順で受け身的な生き方がよしとされてきた面もあり、自分でリスクを取るということに慣れていない人も、少なくないんだろうな、と思います。
そういう患者さんを診るのは、ドクターたちにとっては、無力感を感じさせられることでもあり、また重荷でもあるんだろうな、と想像します。

Re: 被害的にならない、という意味でしょうか

みか さん

 コメント頂き有難うございます。

> おかれている状況如何に拘わらず、被害的にならない、あるいは、悲観的にならない、というふうに言い換えてもいいでしょうか。

 そういう事です。
 地獄でさえ「これ以上の悪い状況はない」というメリットがあります。
 理想論かもしれませんが、地獄を地獄的にみるのは自分の心が決めているという事をまずは自覚する事だと思います。

 旧約聖書のヨブ記の話、大変参考になります。
 私も宗教を信仰しているわけではありませんが、宗教が提示する人生の困難に直面した時のものの考え方には参考になる所があると思います。宗教のつまみ食いは本来よくありませんが、わきまえて理解する分にはいいと思っています。

> 日本では、儒教の影響なのか、権威に対して従順で受け身的な生き方がよしとされてきた面もあり、自分でリスクを取るということに慣れていない人も、少なくないんだろうな、と思います。
> そういう患者さんを診るのは、ドクターたちにとっては、無力感を感じさせられることでもあり、また重荷でもあるんだろうな、と想像します。


 そうなのですが、それさえ相手をコントロールしようとさえ思わなければ、少し気持ちは楽になります。

 2016年11月25日(金)の本ブログ記事
 「相手をコントロールしようと思わない」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-791.html
 も御参照下さい。

はい、結果を手放す、ということですね

先生、おっしゃること、わかります。
結果を手放す、ということですね。
やるだけやったら、その結果については、相手にゆだねる、もしくは、天(宇宙)に、ゆだねる。

そういうことをさんざん勉強させられたのは、私の場合、アルコール依存の治療について、学んだ時でした。
依存症というのは、心理的な側面からいえば、何事も自分の思い通りにしてやろう、という執着心が人一倍強い人が、なるものなんだそうですね。

そういう執着心は、残念ながら、私にもまだおおいにあります。
けれど、年々、あるやり方で答えが出ないのだったら視点を変えればいいじゃないか、とか、アプローチの仕方を変えればいいじゃないか、とか、いっそあっさり手放せばいいじゃないか、というふうに、少しは柔軟に考えられるようになってきたのかな、と感じています。

たぶん、生涯、いろいろなものを手放す訓練をさせれられて、そして最後は、命を手放すのかな、と想像します。

Re: はい、結果を手放す、ということですね

みか さん

 コメント頂き有難うございます。

> 依存症というのは、心理的な側面からいえば、何事も自分の思い通りにしてやろう、という執着心が人一倍強い人が、なるものなんだそうですね。

 そうなのですか、興味深いですね。
 コントロール欲の強い人間が、結果的に依存物質によりコントロールされるというのも皮肉な話です。

 その逆が承認欲求の小さな人間こそが自由になれるという事なのでしょうか。かみしめて理解したい深い話ですね。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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