見えないやせのメカニズム
頂いたご意見から現時点での私が考える「やせ体質の人の糖質制限」のエッセンスをまとめてみます.
・やせ体質の人には「小食タイプ」の人と,食べても食べても太らないいわゆる「やせの大食いタイプ」の人がある.
・「小食タイプ」の人は場合に食べる内容が「タンパク質不足」「脂質不足」になりがち.
→糖質制限しながらこの状況を続けると,体調不良となる可能性がある.
→総カロリー(摂取量)を脂質・タンパク質で増やす必要がある.
・「やせ型体質=インスリン分泌能低下」という公式はどうやら成立する.
→ただし,追加インスリンのみ低いパターンと,基礎インスリンも追加インスリンも両方低いパターンがある.
→前者が「小食タイプ」,後者が「やせの大食いタイプ」に近いか.
「基礎インスリンが低い」=「糖新生亢進」→消費エネルギー増大でさらに太らない.
・やせ体質の人でも糖質をとると血糖値は上がるが,追加インスリンがあまり出ないために太らない.
→その代わり高血糖の害は確実に受けている.
→この状況は健診での空腹時血糖,HbA1cの値では検出できない.
→やせ体質の人は高血糖の害を受けて体調不良になることを回避するために,本能的に食事をたくさん食べることを避けている可能性がある.
私の仮説:長く糖質制限を続けることで,基礎インスリンの作用効率(同化作用)が高まるかもしれない
→末永く糖質制限を続けることで標準体重に近づく,症状が改善していく可能性がある.
糖質制限が広まっていくのはこれからですが,まさに長期的な効果はこれから明らかになっていくと思われます.
例えば,先日ある方から頂いた「やせ体質の人はGLP-1活性が高いのでは」というコメントもその一つです.
GLP-1は新規糖尿病薬としても利用されている消化管ホルモンで,以下のような作用があります.
・ブドウ糖濃度依存性インスリン分泌促進
・ランゲルハンス島β細胞増殖作用
・グルカゴン分泌抑制
・胃排泄能抑制
・中枢性食欲抑制作用
これらの作用によって体重減少効果も認められるホルモンです.
ただ,GLP-1の活性を測ることは日常診療では行っていないので,上記を確かめるのは現実的には確認困難ですが,
おそらくそういうメカニズムは実際にあるのではないかと私は思っています.
なぜなら,血糖,インスリンの仕組みだけで,太らない理由を説明しようとすると若干無理があるからです.
そんな中,もう一つ気になる情報を最近見つけましたので紹介します.
http://www.juntendo.ac.jp/graduate/pdf/news03.pdf
2013年 9月25日
医療・健康
糖尿病発症における亜鉛の役割を解明
~肝臓でのインスリンの過剰な分解が糖尿病のリスクを高める~
本研究成果のポイント
▪ 膵β細胞から分泌される亜鉛が肝臓を通って全身に送られるインスリン量を決める
▪ 亜鉛トランスポーターがインスリン分泌顆粒内の亜鉛濃度をコントロールする
▪ 肝臓でのインスリンの過剰な分解が2型糖尿病の発症リスクを高める可能性がある
概要
順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の藤谷与士夫准教授、綿田裕孝教授らの研究グループは、マウスおよびヒトを用いた研究結果から、インスリンと共に膵β細胞から分泌される亜鉛が、肝臓でのインスリン分解を抑制することで、肝臓を通り抜けて全身に向かうインスリン量を十分に確保する新しい仕組みがあることを発見しました。この作用は、インスリン分泌顆粒内に亜鉛を汲み入れる亜鉛トランスポーター(ZnT8)の機能に依存しています。ヒトでZnT8をコードする遺伝子の一塩基多型により、そのはたらきが低下すると2型糖尿病の発症リスクが高まることはわかっていましたが、今回発見した、“肝臓でのインスリンの分解を亜鉛が抑制する”メカニズムの破たんが、糖尿病発症リスク上昇の原因の一つを説明するものと考えられます。インスリンを体内で効率的に使うことを示したこの研究成果は、糖尿病の治療法開発に役立つと考えられ、新たな糖尿病の発症メカニズムの理解と新薬の開発に道を開く可能性を示しました。なお、この研究は理化学研究所、杏林大学、慶應義塾大学との共同研究で行われました。
「やせ型でインスリン分泌が低下した」人の中には,実際にはインスリンを過剰に分泌しているにもかかわらず,末梢でのインスリン濃度が低下している場合があるそうです。
この研究によれば,亜鉛トランスポーターという亜鉛を取り込む汲み取りポンプの働きが落ちていると実際のインスリン量に比べて分泌能が弱まるということなのですが,
同じことは純粋な亜鉛摂取不足でも同様の事が起こりうるのではないかと思います.
そう思って亜鉛はどういうものに多いかを,人間栄養学の大著,
ヒューマン・ニュートリション 基礎・食事・臨床 第10版
JS Garrow
WPT james
A Ralph 編
日本語版監修 細谷憲政
で調べてみますと,
一般的に亜鉛が多いのは動物性食品で,脂肪組織は筋肉に比べて亜鉛含有量が少ないので,脂肪,油では亜鉛はほとんど補給できないようです.
一方,穀物も亜鉛の主要な供給源なのですが,穀物の中でも亜鉛は外側の層に局在しているのだそうです.
従って精米してしまうと亜鉛は少なくなり,全粒粉(いわゆるふすまパン,ブランパンなど)だと亜鉛は多く含まれる事になります.
ただしその全粒粉には落とし穴があって,
全粒粉の中に含まれる「フィチン酸」という物質が亜鉛の吸収を阻害するので,
全粒粉に亜鉛が多く含まれるからといって,それが体にそのまま入るわけではなく,「フィチン酸」によってそれが邪魔されてしまうというのです.
ただし,そのフィチン酸の妨害を,さらに動物性タンパク質が改善させるということもわかっています.
少しややこしくなりましたが,要するに亜鉛不足にならないためのポイントは,
「動物性蛋白質をきちんととっているかどうか」
というところにあります.
「やせの大食い」タイプの人が炭水化物ばっかり食べていてタンパク質を摂っていないのだとすれば,
もしかしたら,それは動物性タンパク質を積極的に摂ることで改善するかもしれません.
しかし,それでも太らない場合は,上記の研究であった亜鉛トランスポーターが大元で機能低下している可能性もあるということで,
真の「やせの大食い」タイプの人は,「亜鉛トランスポーターの生まれつきの機能異常」という可能性も出てくるのではないかと思いました.
こちらもなかなか容易に測定できない項目なのでやはり確認困難なのですが,
見えないメカニズム,考えてみるといろいろと見えてくるものがありますね.
たがしゅう
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