サイアミディン

ビタミンC合成を失ったその時、何が起こった

約6300万年前にヒトはビタミンCを合成する能力を失ったのか、

それとも必要なくなったからビタミンCを合成しなくなったのか


その疑問について考えるためには、約6300万年前に地球上で何が起こっていたのか、わかっている限りの情報を集める事が必要と考えていますが、

なんとすでにそれについて検討している本を偶然にも見つけてしまいました。

このタイミングでこの本と出会うという事に何か不思議な運命のようなものを感じてしまう自分がいます。




なぜニワトリは毎日卵を産むのか 鳥と人間のうんちく文化学 (〈私の大学〉テキスト版) 単行本 – 2015/12/11
森誠 (著)

(p125-127より引用)

【隕石の衝突で卵からビタミンCが消えた】

卵は完全栄養食品といわれているが、ビタミンCだけは含まれていない。

ビタミンというのは動物が食べ物として摂取しなければならない必須の微量栄養素の総称で、ビタミンとしての共通した化学構造をもっているわけではない。

発見当初、脂溶性のビタミンをA、水溶性のビタミンをBと名付けていたが、その後続々と発見されてA、B、C、D・・・・・・と順番に記号を付けた。

Bの中にもいろいろな化合物があることがわかり、B1、B2、B3、B・・・・・・と記号を付けた。

発見順に記号を付けたが例えばB4はすでに知られているアミノ酸であるアルギニンだったことがわかったりして、今もビタミンという名前で残っているのは九種類である。

(中略)

ビタミンCの化合物としての名前はアスコルビン酸である。

ニワトリをはじめほとんどの動物は腎臓でアスコルビン酸を合成することができる。

そのような動物にとってアスコルビン酸は摂取する必要がないので、ビタミン(≒必須)ではない。

ところが人間の場合、体内でアスコルビン酸を合成するために必要な酵素の遺伝子が、突然変異のために機能しなくなっている。
遺伝子の塩基配列の比較から、このような突然変異は6500万年前におこったことがわかっている。

6500万年前というのはメキシコのユカタン半島に巨大な隕石が衝突し、猛烈な灰が地球を覆い尽くして太陽光が届かなくなり、そのために地球上の生物相が激変し、恐竜が絶滅した時期である。

それまでは夜中にこそこそと生活して昆虫しか食べられなかった霊長類の祖先は、恐竜がいなくなったおかげで昼間も堂々と活動できるようになった

ニワトリは赤・緑・青・紫の四色型色覚で色を感じているが、長年の夜行性を強いられていた霊長類の祖先では、赤と青だけに退化していた。

再び赤青緑の三色型色覚を獲得するのも6500万年前で、緑の葉の間に見え隠れするビタミンCの豊富な赤い実を見つけることができるようになり、

突然変異遺伝子を抱えたままでアスコルビン酸を合成できなくても生きていけるようになったのである。

アスコルビン酸はコラーゲン合成に必要なプロリン水酸化酵素の補酵素である。

アスコルビン酸がないと皮膚、骨、軟骨、腱、等のコラーゲンができない。

ニワトリはアスコルビン酸を合成できるので、卵に含まれていなくても胚は発生できる。

ところがモズやコウライウグイスのようなスズメ目の一部に人間のような突然変異をもっている種がみつかった。

このような鳥類はビタミンCを摂取しなければならず、卵にもビタミンCが含まれていなければ胚発生は起らないことになるが、詳細は未だ不明である

(引用、ここまで)



約6300万年前と6500万年前の差異こそあれ、このくらい昔の話では推定時の誤差は多少あるでしょうから概ね同じ時期の話と考えれば非常に参考になる話です。

ようするにビタミンC合成能を失ったとされる時期に今のところわかっている事実としては、

生態系が激変するような環境変化があった」ということと、「ヒトの祖先の生活が夜行性から昼行性になった」ということのようですね。

この文章は「ヒトにとってビタミンCは生命維持に必須である」という前提で持って書かれています。

しかしその前提だと最後の一文にあるように、ヒトと同様にビタミンCを合成できない一部の鳥達はビタミンCを摂り続けないと生きていけない、という事になります。

しかし私達現代人なら何にビタミンCが入っているかという情報が栄養学の進歩でよく判明しているためビタミンCを摂るために何をどれくらい食べればいいのかを知る事ができますが、

鳥はそんな情報を持てませんので、基本的には本能でビタミンCを摂り続けないといけないという事になります。

これらの鳥の食性を知りませんので明言はまだ避けますが、ビタミンCだけのためにそれが不足しないようになる本能が用意されているとはちょっと無理があるような気がします。


ここで「ビタミンCが不要になったから自ら合成能力を手放した」という前提で同じ文章を解釈してみます。

恐竜が絶滅するような隕石衝突イベントです。人類の祖先を含め他の動物達にとっても危機的な状況だったはずです。

今までこそこそ夜に昆虫を食べていた人類の祖先が、食べようとする昆虫自体も絶滅の危機に瀕していたかもしれません。

そうなると近くにあった野菜や果物をひたすら食べたのかという事になりますが、夏井先生が考察されていたように原種の野菜は今スーパーで並ぶ野菜よりもずっと苦くて不味かったいう事を忘れてはなりません。

原種の果物ならまだ何とか食べられたかもしれませんが、その時代に誰かが栽培しているわけでもないので十分な量は自然にはなかったかもしれません。

それでも生きるために周りにあるものを根こそぎ食べていたかもしれませんが、夜にこそこそ昆虫を食べていた時代に比べれば相対的に絶食の度合いが高い状況だったのではないでしょうか。

この時期、二色型色覚から三色型色覚へ進化したのはそうなのでしょうが、何も青々とした野菜を見るためとは限りません。瀕死の状況から必死に食糧を探すため、恐竜など気にせずなりふり構わず歩きまわった結果、光に適応したというだけかもしれません。

そして絶食期間が長くなればケトン体の産生能が高まり、尿中へケトン体が排泄され、尿が酸性になるために尿酸の排泄が低下し、血液中の尿酸値は上昇します。

この偶然の産物として生まれた高尿酸血症が、ビタミンCに代わる新たな抗酸化物質として身体の中でうまく適応したのではないでしょうか。

生命の危機に瀕する状況では遺伝子が変化するという現象は例えばショウジョウバエなど他の生物でも確認されています。

そんな状況での尿酸という強力な抗酸化物質の出現によって、ビタミンCを合成するのに必要なエネルギーを削減するために自ら合成能力を放棄したという仮説はどうでしょうか。


そうすればコラーゲン合成に関してはビタミンCなしでどうすればいいんだという事になりますが、

ビタミンCはコラーゲン合成反応のあくまで補酵素です。合成の役には立てど、絶対に必須というものではありません。

必須でないのなら、そんなものを一生懸命合成するランニングコストを削減し、より必要なシステムを駆動させた方が効率的と身体が判断すればビタミンC合成能は自ら手放す候補のシステムとして挙がった可能性は十分考えられます。

このようにして激変した環境に適応するために、

生命維持に必要な機能とそうでない機能の優先順位を整理した結果のシステムが、

後世の人類に伝わってきたのかもしれません。


たがしゅう
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たがしゅう先生こんにちは。いつもブログ楽しみにしています。私は糖質制限5年目の2型糖尿病42歳主婦です。糖質制限を始めた頃からほぼ毎日、無糖炭酸水に、かぼす、シークワーサー、レモン等の柑橘類を入れて飲んでいます。糖質制限のお陰かビタミンCのお陰か殆ど風邪を引きません。結局人間にとってはビタミンCは必要なのでしょうか!?
取らなくてもいいけど、取ってもかまわないくらいの物なのでしょうか!?

Re: タイトルなし

あっぴ さん

 御質問頂き有難うございます。

> 結局人間にとってはビタミンCは必要なのでしょうか!?
> 取らなくてもいいけど、取ってもかまわないくらいの物なのでしょうか!?


 それに関してまさに今従来の常識を疑いつつある所です。明日の記事で関連する話題を取り上げたいと思います。

No title

たがしゅう先生こんにちは。ビタミンCに関しては私も思うところがあり、以前夏井先生にこんなメールを送りつけたことがあります。長くなって失礼いたしますが、ご一読くださると幸いです。
前略
「ヒトは本来何を食べる動物なのか?」は私の長年の疑問でした。ビタミンCを生合成できない数少ない動物であることを考えると植物も食べるべきなのでしょう。ちなみにWikipediaによると、ビタミンC生合成のための遺伝子の再獲得はスズメ科の鳥などでは頻繁に行われているようで、それほど難しい問題ではないのか?と思います。
しかし、品種改良のなされていない葉っぱなどを、喜んで口にしている先祖の姿が想像できないのです、特に火を使用するようになる以前には。
ご存知のとおり、植物はアルカロイドを作って食べられないように工夫しています。その中には毒になるものも多くあります。だいたい苦いし。「食べてもらう」ことを目的とした果実は甘いのでごちそうだったでしょうが、ビタミンCは摂りだめのできないものなので、季節性の果実から摂っていたとも思えません。
それに、成人の1日あたり摂取量としての厚生労働省による推奨量は100mgとされていますが、ほんとにそれだけの量のビタミンCを植物から摂取している人が、現在でも世界中でどれだけいるのでしょう?
マサイやイヌイットは近年までほとんど植物を摂取してきませんでした。中国でも野菜を生で食べるようになったのは最近のことです。それでも健康に過ごせているのに、大航海時代の船乗りは壊血病で次々亡くなっていった…
そこで、はっとしました。乳酸発酵でアスコルビン酸は得られることを考えると、腸内細菌で賄って来たのでは? 大航海時代の船乗りが壊血病になったのは、単純極まりない食事(腐ったビスケットと塩漬け肉がほとんどと聞きます)のため、腸内細菌がまともに働けなくなったからではないのか? 野菜など植物を摂取するのは、必要とされるビタミンCの全量をそれから摂るためではなく、腸内細菌の手助けをする目的なのでは?…いかがでしょう。
しかし、ヒトって面白い動物ですよね。片やヴィーガンの様にベジタリアンでも生きていける(問題はあると思いますが)し、マサイやイヌイットの様に動物性のものばかりでも生きていける、炭水化物に寄りかかっていても子孫を残せる(子孫を残せなくなった後は生活習慣病が待っていますが)…
この食の多様性こそが、世界中にヒトをはびこらせた原動力なのでしょうね。

Re: No title

ヘルミ 先生

コメント頂き有難うございます。

貴重な御考察と思います。
腸内細菌ビタミンC合成説、十分考えられますね。
ビタミンK問題の時に私も同じような事を考えた覚えがあります。

2015年1月20日(火)の本ブログ記事
「ビタミンKが母乳に少ない理由」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-549.html
も御参照下さい。

ビタミンCは必須栄養素では

たがしゅう先生、こんばんは。OgTomoと申します。

WikipediaのビタミンCの解説によると、モンゴル遊牧民もマサイ族も乳酸発酵で作られた飲み物からビタミンCを摂っているそうです。
---引用---
牛乳のみならず肉にもビタミンCは含まれていないので、野菜や果物を摂取できないモンゴル遊牧民は、大人のみならず子供を含め馬乳を乳酸発酵させ微量のビタミンCを生成した馬乳酒を大量に飲むことでビタミンCを補っている[17]。アフリカの遊牧民族であるマサイ族も日常的に発酵乳を飲む。
---引用終了---

この解説には脳がビタミンCの最大濃度を有する器官であること、ミトコンドリアがフリーラジカルからゲノムと膜を保護するためにアスコルビン酸を利用することも書かれています。ビタミンCはL-カルニチンの合成にも必要です。赤肉を大量に摂取しないのならカルニチンの生合成は必要でしょう

野草の利用に関してはクレタ人の食生活が参考になります。古来のクレタ流食事術では食べられる雑草(野草)を日常的に摂取しており、現在でもホルタという野草料理があるそうです。(「ナチュラル・ボーン・ヒーローズ」のpp.214-219のあたりに興味深い記述があります。)

多くの狩猟採集民は食べられる植物に関する高度な(経験的)知識をもっていて植物も食べてきたと考えるのが妥当でしょう。そのような知識は植物に含まれる毒を避けるためにも必要です。

腸内の乳酸発酵でできたビタミンCが大腸から体内に吸収されるのならオリゴ糖などから少量のビタミンCを得ることが可能かもしれません。

何れにしてもビタミンCは必須なのでは。(体内における半減期が長いので数週間の絶食では壊血病にはならないそうです。)

Re: ビタミンCは必須栄養素では

OgTomo さん

 コメント頂き有難うございます。

 今回の疑問は「そんなに大切なビタミンCならなぜ約6300万年前に合成能を失ったのか」という事に端を発しています。

 生化学的にビタミンCがいろいろな役割があるという事は私もある程度承知しているつもりです。
 しかしビタミンの存在が知られたのも、欠乏症の存在が知られたのも近代に入ってから、すなわち糖質過剰社会になって以降の話です。
 糖質を摂取すれば栄養素が枯渇する側面がありますので、その状況で人体で合成できない物質となれば「必須栄養素」だと解釈されるのは無理もない話ですが、もしそれが糖質制限でオートファジーが働き、外部から摂取しなくても必要最小限量を保ち再利用できるとなれば話は変わってきます。

 2015年11月23日(月)の本ブログ記事
 「食事をすると栄養が失われるという観点」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-645.html
 も御参照下さい。

 しかし、いずれにしてもこの話が仮説の域を出ないのは重々承知しています。それでも現時点での問題提起はビタミン至上主義を暴走させないリミッターとして意義深いことだと私は考えます。

 2016年12月5日(月)の本ブログ記事
 「人生を変える「物語」と正しく向き合う」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-801.html
 も御参照下さい。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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