サイアミディン

温めることの意義

風邪を引くと寒気を感じる事があると思います。

一方で風邪の時は体温が上がると思います。体温が上がっているのに身体は寒く感じるというのはどういうわけでしょうか。

これについては「セットポイント仮説」という考え方があります。我々の体温の初期セットポイントは37℃に設定されていて、

風邪の時などにはその設定が39℃などに上昇するため、そのセットポイントよりも低い状態を寒いと感じてしまうのだ、という話を医学部の時に習いました。

しかし、よくよく考えてみれば、これはあくまで仮説は仮説。39℃にセットポイントが上がった事など証明できる話なのでしょうか。

ただ、少なくとも私が思うのは、風邪を引いて寒気を感じた時というのは、

私達は「温める」という行為を本能的に欲しているという事です。
寒気を感じたら、誰に教えられるわけでもなく、私達は身体活動を抑えて布団に入って寝込むような防御反応を取る方向に向かっていくと思います。

という事は、風邪の時に「温熱」という刺激は都合がいい、と考えるのが自然です。

ただどこまでも温めて熱い温度の方がよいというわけではなく、熱湯風呂に長く入っていられない事からもわかるように、

適度な温熱刺激が身体に良いという事であり、寒気(悪寒)というのは身体にそうさせるためのトリガーなのだと思います。


「温熱療法」というのは、代替療法の世界で割と広く知れ渡った方法で、がんの治療にも応用されていたりします。

なぜ温熱が効くかといいますと、ある程度の高体温環境下ではさまざまな酵素反応やマクロファージなど血液の貪食細胞の働きが活性化する事がわかっており、いわゆる「代謝がよくなる」事が知られています。

普段は何かと悪いイメージがつきまとう活性酸素も温熱により増加し、この時ばかりは細菌やウイルス排除のための攻撃物質として活躍します。

しかしその状況が長続きすれば活性酸素の良い面より悪い面が目立ってしまう事になります。温熱刺激が続けば細胞にとってはストレスとなり、

酸化ストレスがかかり続ければ蛋白が変性し生体機能が低下していってしまう事になります。

ただここでもう一つ、細胞をストレスから守ってくれるのが「ヒートショックプロテイン(熱ショックタンパク質;Heat Shock Protein:HSP)」という物質です。

ヒートショックプロテインはストレスのせいで正常に機能しない蛋白の働きを修復してくれる働きがあります。

その名前から熱が加わった時だけに発動しそうですが、そうではなく紫外線、放射線、低酸素、重金属、炎症、不安、ウイルス・細菌などの様々なストレスが加わった際に誘導されます。

従って、温熱療法というのは人為的にヒートショックプロテインを誘導し、身体を正常に戻そうとする方法とみる事もできます。

ただしやはりやりすぎは禁物で、人間の身体は42℃以上に体温が高まればタンパク質自体が変性して失活してしまいますので、ここでも適切な温熱刺激が大事だという話になります。


さて、一時的にかつ適切に温めるという行為が大事だという事がわかったところで、

今の世の中で「熱が出る」という状況はどのように捉えられていますでしょうか。

「熱が出る」→「辛い」→「解熱剤を使って楽にすべき」という考えが主流ではないでしょうか。これは医療者、患者双方に言える事です。

また温める事が大事だというのに、西洋医学の中で「温熱剤」と呼べるものがあるかというと、これがなかなかないのです。

せいぜいあるとすれば「プロスタグランジン製剤」くらいです。プロスタグランジンというのは炎症に関わる生理活性物質で、炎症を促進するものと抑制するものとがあります。

たとえばプロスタグランジンE2という物質は炎症を促進する物質なので、飲めば炎症促進的に働いて血流がよくなり結果的に温める事はできます。

他に温める薬として漢方薬の中にはさまざまな種類がありますが、西洋医学の中にはそれ以外に温める薬はなく、むしろ身体を冷やす方へ持っていく薬ばかりなのです。

代表的なものがNSAIDsと略される非ステロイド性消炎鎮痛薬です。これは先ほどのプロスタグランジン製剤の逆の事をしていると思えばわかりやすいと思います。

炎症促進系のプロスタグランジンの産生をブロックするというメカニズムで解熱や鎮痛目的に医療界で頻用されている薬です。

頭痛薬としてロキソニン、解熱薬としてボルタレンを使うなどという光景はおそらく日本中の医療機関で頻繁にみかけますが、この薬が「身体を冷やす薬」だという認識を持っている医療従事者はあまり多くないと思います。

そもそも西洋医学では炎症反応というものを「抑え込むべき悪いもの」として捉えているから、炎症を抑える薬は数あれど炎症を促進させる薬はほとんど用意されていないというのが実情なわけです。

しかし実際には炎症は良い事も悪いこともしています。というよりもヒトがどう捉えるかの解釈の問題だと思います。

ある現象を「悪いもの」などと一義的に捉える姿勢には必ずバイアスがかかるので、

中立的でフラットな解釈を心がけ、よしんば解釈を決めたとしてもまたいつでも変えられるようにフレキシブルに心がける事が大事だと私は思います。


たがしゅう
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プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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