サイアミディン

小さな声を聞く、小さな声を上げる

文庫X(エックス)と呼ばれる本を読みました。

岩手県盛岡市のさわや書店フェザン店の書店員さんの発案で、

タイトルをあえて隠してその代わり「読んで欲しい」という趣旨の直筆の紹介文をブックカバーに書いて売るという斬新な方法で、

そのまま売っていたら興味を持たれなかったであろう客へ興味を持たせる事で一躍話題となった本です。

売りたい気持ちに反してあえてタイトルを隠す、でもかえってそれが興味をそそるという逆転の発想。私もこの紹介文に興味をそそられて買ったクチです。

文庫本にして約500ページと、読み切るのになかなか時間のかかる作品ではありますが、一旦読み始めると内容に引き込まれてどんどん先に読み進めたくなる内容の本でした。紹介文通りでした。

当初、この紹介文のセンスの良さをブログのネタにしようかなと思って読み始めた本でしたが、

それ以上に本編の内容に考えさせられる所が多かったので、本編から私が学んだ事を書くことにしようと思いました。

ただ内容を読んでみればわかりますが、書店員さんが表紙を隠した本当の意図というのがしみじみと伝わってくる本編の内容であり、

この本をたくさんの人に読んでほしいと考えた書店員さんの気持ちを思うと気軽にネタバレしたくない気持ちになってくるのです。
だから記事にするかどうか悩みましたが、それでも私が感じたことだけは伝える価値があると思い、

本編の内容に触れる事を最小限に押さえて感想を書く事にしました。


読後感は「面白かった」というよりも、どちらかと言えば正直言ってもやもやとした想いが残りました。

そして「そこにも同じ構造があったのか」という気持ちにさせられました。そして著者の行動に心より共感を覚えました。

私は孤軍奮闘の糖質制限推進派医師ですが、最初からそういう風になろうと思ってなったわけではありません。

そうすることしかできなかった、その連続の日々で結果的に今があると思っています。

現在だけを切り取って見られたら私は破天荒な人間に思われるかもしれませんが、そうなるべくしてなった合理的な理由があるということ、

この本の著者にもそうした私との共通性を感じます。


共通性を感じたのはそこだけではありません。

組織というものがいかに変え難い存在かということ、組織に所属しないからこそ正しい事を追い求める事ができるということ、

そしてどんなに劣悪だと思われる環境の中にも、希望となる人達が少ない割合で存在するのだということです。

ひとつ著者の、次の文章を紹介させて頂きたいと思います。

本編の直接のネタバレにはならないけれど、著者の想いがとても伝わってくる文章です。

(以下、引用)

報道とは何なのか。

例えば、親が幼い子供を車に残して買い物などに行き、車内で子供が熱中症で亡くなる。

そんな悲しい事故が毎年繰り返される。定型文とも言えるニュースが流れる。

〈××署は保護責任者遺棄致死の疑いで、母親である〇〇を逮捕し、△日送検しました〉

そんな報道を目にして、あなたはどう思うだろう。「馬鹿な親だ」と思うだろうか。

あるいは、「私はそんな愚かなことはしない」と笑うだろうか。

しかし、このニュースの問題点はどこだろう。報じるべきなのは警察による広報文なのだろうか。

事件を担当する警察署の名前や罪状、送検予定なのだろうか。

あなたがスーパーに行くとする。

後部座席ではいつの間にか子供がぐっすりと寝入っている。

起こすのもかわいそうだと思う。エアコンはセットされている。

すぐに戻るからねとそっと車を離れるが、あいにく店は混んでおり、買い物は思ったようなスピードで進まない。

目を覚ました子供はあなたの姿を捜し、泣きながら車内を移動する。

外に出ようとあちこち触り、やがてエアコンのスイッチを切ったり、エンジンキーそのものを廻してしまう。

そして車内温度は春先でも50度を超える・・・・

報じるべきことはこういった事実なのではないか。

(引用、ここまで)



事実を伝えているはずの報道で、

伝えられている事実は十分量の情報なのでしょうか。

ここにおいても情報の非対称性の構造が生まれ、情報の受け手には時として偏ったイメージだけが伝わり、

しかしながら、そうしたイメージが世論と呼ばれるマジョリティを作り、世の中を形作っていくのです。

多勢に無勢、小さな声は大きな声にかきけされてしまうという危険性を、著者はこの本で適確に伝えてくれています。

そして同時に教えているのは、たとえ小さな力であっても、無力ではないという事です。必ず何かできることがあるということです。

私にできることは何だろうか・・・・

その事を改めて考えさせられます。


たがしゅう
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声の大きさに騙されない

私は以前マスコミの仕事をしていました。だから、情報の流す側の実情を知っています。
マスコミが流す情報は膨大な中からのほんの一握りで、しかも流す側の作為的な要素も含まれている事実をこの目で見てきました。しかし受け手は、その情報がすべてで正しく、「その他はこの社会で起こっていない」との錯覚も起こしがちなのです。
例えば、先の車中での子供の置き去り事故も、似たような事故だが「報道されるほど大事に至っていない」事例が、実は数多く起きています。小さな声や声なき声の黙殺は受け手側が対岸の火事状態に陥りやすいのです。
そういう職場でジレンマを抱えながら仕事をした為かもしれません、身体を壊してしまいました 笑
そんな時代、糖質制限のように、小さな声だけど廃れずむしろジワジワと広がり続ける底力がある物。
そんな物が本物の証しかもです。

Re: 声の大きさに騙されない

たいきち さん

 コメント頂き有難うございます。

> 小さな声や声なき声の黙殺は受け手側が対岸の火事状態に陥りやすいのです。
> 小さな声だけど廃れずむしろジワジワと広がり続ける底力がある物。そんな物が本物の証しかもです。


 小さな声は8割の世の中の意見に迎合していないだけで、無価値ではありません。
 その声に耳を傾け、その価値を見出し、その声を発する事ができるようになりたいです。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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