サイアミディン

ヒト本来の眠る姿勢とは

先日フランスに関する記事を紹介した時に、

ブログ読者のアラジンさんから「フランス人はうつ伏せ寝が多いと聞きますが本当でしょうか?」というコメントを頂きました。

残念ながらその質問に答えるための信頼できる情報を私は持っていないのですが、

うつ伏せ寝が健康によいという考え自体には興味を持ちました。医学的に言えば「腹臥位(ふくがい)」と言いますが、

あまり腹臥位の健康効果について言及している医学書がない中、一人この事に言及していたのが、かの有名な聖路加国際病院の日野原重明先生です。



長寿の道しるべ 単行本 – 2013/3/22
日野原 重明 (著)
まずはひとつ内容を引用してみようと思います。

(以下、P26-27より引用)

【胃腸の運動を円滑にするうつぶせ寝】

もうひとつ大切なことは、腹臥位で睡眠をとることです。腹臥位とは、いわゆるうつぶせ寝のこと。

一般の脊椎動物がすべてとっている腹臥位で睡眠をとることにより、

横隔膜を運動させる腹式呼吸が夜間の睡眠中に繰り返され、

胃腸の運動も円滑に行われ、排尿しやすくなります。

まずおへそのあたりに幅広い枕を置き、その上にうつぶせになって寝ます。

頭を支える枕はできれば薄い羽毛のものを二重か三重にたたみ、頭を15%くらい右か左に向かせて耳と側頭部に羽根枕が当たるようにし、おなかは真下に向け、両足は少し曲げて休みます。

この姿勢で横になると、私の場合5分以内に深い睡眠に入ります。

排尿のため夜中に目覚めても、このように伏して両手を少し曲げて上に挙げる位置をとると、実にリラックスして再度熟睡することができます。

たとえ夜更かししても、うつ伏せ寝で8時間睡眠をとると、たっぷり眠った満足感で朝を迎えることができるのです。

(引用、ここまで)



うつぶせ寝

自然の形を重視する私にとって、

脊椎動物の寝方が腹臥位を基本としているという話はかなり説得力を持ちます。

例えば人間に近いオランウータンが寝る画像をざっと調べてもこんな感じです。

オランウータン寝る姿勢

腹臥位というよりも側臥位、横向きに近い寝方かもしれませんね。

確かに仰臥位、いわゆる仰向け姿勢で寝ると舌根が沈下し肥満者を中心に睡眠時無呼吸症候群のリスクとなりますし、

また考えてみれば仰臥位で寝ていたら急所は大変無防備な状態です。目が覚めてぱっと起きるのも、仰臥位より腹臥位からの方が明らかに楽です。

人間を自然界の動物の一部として捉えた時に、仰臥位の寝方はリスクが大きいように思えてきます。


もう一つ、側臥位というので思い出したのは、救急医療で学ぶ「回復体位」です。

回復体位

こんな感じの姿勢で、主に意識障害のある患者さんへ応急処置としてとらせる体位とされています。

なぜこの姿勢が良いのかといいますと、胃の内容物が吐き出しやすいこと、呼吸が楽になることなどが理由として挙げられています。

嘔吐対策はともかく、側臥位が呼吸が楽になり、オランウータンもそんな寝方をしているのであれば、それが本来の眠り方だという考え方により説得力が増します。

抱き枕を抱いたら眠りやすくなるなんていうのも、抱き枕の癒し効果+側臥位の安眠効果によるものかもしれませんね。


しかし横向き気味の腹臥位が動物本来の眠り方だと仮定して、

それならばなぜうつ伏せ寝が乳幼児突然死症候群(Sudden infant death syndrome:SIDS)のリスクなのでしょうか。

「赤ちゃんにとってリスクでだけど、成人にとっては健康」というような年齢によって真逆になる見解には違和感を感じます。

それは糖質制限は認めるけど、こどもの糖質制限には反対だという人達に対して感じる違和感と同様のものです。

そこでうつ伏せ寝はSIDSの原因だという定説を疑い、うつ伏せ寝が単なる結果だと仮定して考えてみます。

乳幼児突然死症候群は定義上1歳未満の子に下す診断とされていますが、疫学的には月齢2か月から6か月程度の乳児における死亡がほとんどだと言われています

その頃と言えば寝返りができない、もしくは寝返りができるかどうかといった段階の時期です。寝返りのできない子がうつ伏せで寝かされ鼻と口が塞がれた状態になる事がSIDSの原因ではないかと言われています。

しかしそれならばうつ伏せ寝で寝かした6か月未満の子はかなりの頻度でSIDSになっていないと理屈に合いません。

実際にはSIDSになった子が全員が全員うつ伏せ寝であったわけではないですし、仰向け寝であってもSIDSと診断されるケースもあるわけです。

またいくら寝返りができない年齢であっても、うつ伏せ寝で鼻と口が塞がれて息苦しさを感じたら、泣きじゃくるとか、顔を横に向けるくらいの抵抗はできそうなものです。


ここで私が一つ考えるのは母乳と人工乳育児の違いです。

米国小児科学会はSIDS予防に母乳で育てる事の方を推奨しています。詳細理由は不明ですが、その方が死亡率が有意に下がる事がわかっているそうです。

一方人工乳(粉ミルク)は、メーカーにもよりますが、母乳を参考に作られているものが多いので、糖質量にそれほど差があるわけではありません。

しかしもし、母乳という構造が糖質のメリットを得つつデメリットを最小とするのに最適化されていて、

人工乳ではその構造が再現できていないために糖質の悪い所が出てしまう事があるのだとすれば、母乳育児がSIDS予防に有効だとする根拠の一つになるかもしれません。

その糖質の悪い所の一つが「病的な睡眠状態を惹起しうる」という事です。

糖質が全てではないというものの、糖質摂取後に強い眠気を生じるという事は多くの糖質制限実践者が実感する所だと思います。

そしてその糖質への感受性が非常に高い子というのが一定の確率で存在します。もしそういう子が母乳という構造を崩した人工乳の糖質の影響を、母乳以上にシャープに受けてしまうのだとすれば、

ちょっとやそっとの刺激では起きる事なく、うつ伏せならうつ伏せのまま鼻と口が塞がれても抵抗できずにそのまま窒息してしまうという事が起こり得るのかもしれません。

この構造を崩すと同じ成分がよりシャープに働いてしまうという話は、西洋薬と漢方薬の関係にも似ています。

例えば昇圧作用のあるエフェドリンを西洋薬として使えば急峻に血圧を上げる薬ですが、

麻黄というエフェドリンが主成分の生薬をその構造のまま使えば、汗をかかせたり、咳を止めたり、痛み止めになったりと他の生薬と組み合わさることで様々な複雑効果をもたらすのです。

これはあくまでも私の仮説に過ぎませんので、真偽の程は定かではありません。

しかし少なくとも自然の形を大事にするというスタンスに教わるべきことは多いと私は考えます。


たがしゅう
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うつ伏せ寝

母親が添い寝していれば、乳児がうつ伏せ寝で死亡することはないと思います。
横向き寝の母親のお乳を吸いながら赤ちゃんが母親に抱きついている姿。
赤ちゃんをうつ伏せ寝でほったらかしにする動物はいるでしょうか?
仰向け寝とうつ伏せ寝のどちらが良いのかは僕にはわかりません。
でも、仰向け寝と枕が基本だとする今の常識が本当に正しいのでしょうか?
僕のような素人の少数意見にちゃんと耳を傾けていただき有難うございます。

Re: うつ伏せ寝

アラジン さん

 コメント頂き有難うございます。

 こちらこそコメントを頂いたおかげで新しい視点で考えを深める事ができました。心より感謝申し上げます。

本来の寝姿

たがしゅう先生、いつも興味深い考察ありがとうございます。
人間本来の寝姿について日々考えていたところで、とてもタイムリーでした。
と言いますのも一年ほど前「自分まくら」という高額な商品を購入し(笑)、それなりに効果があるような気はしていますが、はたして動物のヒトとして大の字で熟睡していていいものかと疑問に感じていました。
洞窟で生活していたころの御先祖様は適当な窪みに身体をあわせて、横向きに丸まって寝ていたのではないかと思うのですがいかがでしょうか?

Re: 本来の寝姿

かんな さん

 コメント頂き有難うございます。

> はたして動物のヒトとして大の字で熟睡していていいものかと疑問に感じていました。
> 洞窟で生活していたころの御先祖様は適当な窪みに身体をあわせて、横向きに丸まって寝ていたのではないかと思うのですがいかがでしょうか?


 私も今回考察してみて、それが正解に近いような印象を持っています。
 野生の自然の中では大の字で寝ているような種が、自然淘汰の中で生き延びられたとは到底思えません。

いろいろな考え

こんにちは。

『人間と動物の病気を一緒にみる』という本のことを、たがしゅう先生も前に引用されていたことがあったかと思いますが、この本では、乳児突然死についても、独自の見解を披露しています。

それは、弱い動物には、ショックを受けると反射的に死んだようになって心停止してしまう症状というのがあるのだけれども(死んだと見せかけて捕食者の牙から逃れるためだが、運が悪ければそのまま死亡する)、人間の乳児の場合にも、それが当てはまるのではないか、ということです。
うつぶせ寝にされていて、まわりが見えない状況で、突然ドアが風で閉まるとか、幼児がドタドタ足踏みするとか、まわりの人間が急に大きな声を出すなど、乳児にとっては恐怖を感じさせられることが起きた場合、そのショックで反射的に心停止してしまうことがあり得るのではないか、と。

まあ、これも仮説ですが。
あり得ないこともないんじゃないか、という気がしてなりません。

一方、動物は、弱いお腹を守るために、丸まって寝るのが普通ですよね。
その点からいえば、たしかに、うつぶせ寝は理に適っているようにも思えます。

また、おくるみの問題というのもあります。
赤ちゃんは、母親の胎内では窮屈な格好をしていたわけですから、そのような姿勢でおくるみできつめにくるんであげると、安心してよく眠る子がけっこういるらしいです。
広い空間の中に放置されるよりも、手足が接することができる壁があったほうが、安心できるらしいのです。

この辺も、いろいろな意見があって、一口ではなんとも言えませんね。

Re: いろいろな考え

みか さん

コメント頂き有難うございます。

汎動物学の本、乳幼児突然死症候群に触れていましたか。是非読み返してみます。
ものすごく興味深い本なのですが、翻訳本特有のクセのある文章と量の膨大さからどうにもまだ読みこなせていないのです。もう少しシンプルにまとまっているとよいのですけどね。

他の情報も大変参考になります。これらの現象が一元的に解釈できないか、また考えてみたいと思います。

赤ちゃんが亡くならないために

こんばんは。
乳児突然死症候群、学生のころ聞いたのは、呼吸(呼吸運動)から止まるから、赤ちゃんが息してないと気づいたらすぐ刺激を与えて起こして泣かせろ、うつぶせ寝にするな、だったです。

先生の記事を読んで、昼食糖質をたくさん食べるとどうにもダルくて眠くてモーローとしていたころがあったのを思い出しました。
大人が仕事中でもこんなだったのですから、赤ちゃんが人工ミルクや糖質離乳食でダルくて眠くてモーローとして、
呼吸運動も忘れるほど深く寝入ってしまう可能性もあるかもしれない。

将来、気をつけてあげたいです。

Re: 赤ちゃんが亡くならないために

エリス さん

 コメント頂き有難うございます。

 あくまで私の仮説に過ぎませんが、やはり考えれば考える程糖質は様々な所に関与しているように思えてくるのです。

先ほど、ちょっと間違ったことを書きました。

たがしゅう先生
先ほどは、ちょっと私、いい加減なことを書いてしまいました。
『人間と動物の病気を一緒にみる』には、乳児がショックを受ける例として、ドアが突然風で閉まる、ということは上げられていましたけど、幼児がドタバタ足音を立てるとか、大人が急に大きな声を出す、といったケースについては、触れられていませんでした。
これらは、私のいい加減な連想から、つい、書いてしまったことです。
大変、失礼いたしました。

ところで、思い出したのですが。
うつぶせ寝をさせる場合、乳児の口と鼻が寝具に埋もれないようにするため、シーツをピンと張らせたアイロン台のような固めのマットレスに寝せる、と、どこかで読んだことがあります。

それと。
動物は、お腹を守るために丸まって寝る、と、先ほど書きましたが、人間に飼われていて、まったく無防備になっている動物は、よく『へそ天』で寝ていますよね。
ということは、人間が仰向けで寝るのも、一つには、就寝中に襲われる、ということがない環境で、安心し切って寝ているからかもしれないですね。

もう一つ、霊長類の中でも人間に近い種はともかくとして、それ以外のたいていの動物と比べると、人間の鼻や口は、顔面からあまり突出していないので、確かに、うつぶせ寝にすると、鼻や口が塞がれがちで、窒息のリスクは高くなりがちではある、と思います。

さて、おくるみ(バンドル)についてですが。
たとえばこんなところに、説明が書かれていました。
http://www.asg-platform.org/maternity-note/life/ikuji1127/
これによると、赤ちゃんは、実は、眠るのが大の苦手だそうです。
眠りにつく時に不安や恐怖を感じたり、あるいは、眠い時に親から見当違いの世話を焼かれたりして、落ち着かなくなるからのようです。
そんな時、おくるみにくるまれると、胎内と似た環境なので、安心するらしいのですが、もう一つ、きつめにくるむことで、モロー反射でビクっとなって目が覚めてしまうのを防ぐ、という効果もあるらしいです。
でも、このモロー反射も、生後4ケ月くらいでなくなるので、その頃にはおくるみを卒業することが多いようです。

Re: 先ほど、ちょっと間違ったことを書きました。

みか さん

 コメント頂き有難うございます。

 うつ伏せ寝、やってみるとわかりますが、顔の置き所に困ります。
 真正面に向くと枕に埋もれて息苦しいので、長くは持ちません。必然的に横を向くしかなくなります。
 鼻や顎が突出している類人猿はより前に向きにくいので、本来の顔の向きは横向きであるという事を教えてくれているようにも思えます。その推察はお腹を守るために丸まって横向きに寝るという話ともリンクします。

 また「へそ天」が安心の象徴というのもわかりますが、飼いならされた動物で観察されるという現象も興味深いです。
 という事は仰向けで寝るということは、極めて人為的な寝方だとみる事ができるからです。

 おくるみに関しては、救急医療で有名な林寛之先生のDVDの小児診療編でも確か紹介されていたように記憶しています。
 泣き止まないこどもを泣き止ませるのに有効な方法であるようですね。

 Dr.林の笑劇的救急問答9 【小児診療編】 /ケアネットDVD 単行本 – 2014/2/17
 林 寛之 (著)
 www.amazon.co.jp/dp/4907232063

SIDS

SIDSに関しては、前にも書いた通り、低酸素状態になっているのに、呼吸が回復しないために起こると考えられています。先生が書かれたような、鼻と口が塞がれたという状態は、窒息であって、SIDSではありません。新生児の中には眠っている時に不規則な呼吸をする子がいて、血液中の酸素飽和度が結構下がりますが、通常自力で回復します。治療は必要ないものですが、眠りが深くなり過ぎれば、回復しないこともあるのではないでしょうか?NICUで呼吸のアラームが鳴ったら、最初にするのは刺激することです。覚醒させれば、息を始めます。母乳育児のお母さんは、ほぼ同室、あるいは添い寝をして、頻回に哺乳するので、睡眠も浅いと考えられます。あるいは母が子どもの異変に気付きやすいのかもしれません。ミルクの子が良く寝るのは、良くいわれることです。一時横向きでもいいと言っていたのが、ダメだとなったのも、動いてうつぶせ寝になってしまうことがあるからという理由です。
眠りが深いということは、捕食されやすいということです。大昔はウトウトとしか眠らない方が、生き延びるチャンスが高かったと考えられます。その分寿命も短くなっていたのかもしれませんが。

Re: SIDS

ニコ 先生

 コメント頂き有難うございます。

 実際はうつ伏せ寝で窒息してしまったけど、窒息と断定しきれないようなケースもSIDSの一部だと私は解釈してしまっておりました。違うのですね。

 しかしそうではなく内因性の呼吸障害でSIDSが起こると考えられているというのなら、うつ伏せ寝がその誘因となるという見解は私はなおの事違和感を感じます。

 睡眠は生命維持にとって重要な役割を果たす生理現象だと思っています。質の良い睡眠が得られる寝方が原因で死亡という結果にまで至るという説には個人的には納得できません。

 なかなか結論の出せない問題かもしれませんが、後日別の角度でもう少しこの問題を考えてみたいと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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