サイアミディン

うつ伏せ寝は良いのか、悪いのか

ここしばらくうつ伏せ寝の事について考えを巡らせています。

極端な人為が入っていない世界であれば、ヒトが心地よいと感じることは生存にとって有利に働いて然るべきだと私は考えています。心地よい刺激であればそれを繰り返したいという気持ちが自然に発生するからです。

しかし、私は独身の身でかつ診療の場で乳幼児を診る機会もないので乳幼児に接する実体験がないため、うつ伏せ寝と乳幼児に関する私の考察は完全に机上の空論だと自覚しております。

なのでここ数日、いろいろな方の乳幼児を育てた経験をうかがって実情を知ろうと試みました。

様々な話を総合したところ、「うつ伏せ寝をさせると赤ちゃんは気持ちよく眠る」というのは親の立場で多くの方が実感される事のようです。

一方で、「首もすわっていない赤ちゃんがうつ伏せ寝で息が苦しいからといって自力で首を横に向けるのは無理」という御意見も頂きました。

うつ伏せ寝は安眠させやすくするのに突然死のリスクになるという矛盾、これをどう説明すればよいのでしょうか。
そんな中、我が師夏井先生から「腹臥位療法」という治療法の存在を教えて頂きました。

腹臥位療法とは、脳卒中やパーキンソン病などの慢性疾患の寝たきりを予防するために神経内科の有働尚子医師が1998年に提唱された治療法だそうです。

寝たきりになりそうな患者さんに腹臥位姿勢、すなわちうつ伏せの姿勢をとらせることで、排痰が楽になったり、褥瘡を予防できたりと寝たきりの時に生じる諸問題を解消させることができるのだということです。

私も同じ神経内科医ですが恥ずかしながら腹臥位療法という確立された方法がある事は存じ上げませんでした。

ただ救急医療の現場で、確かに腹臥位をとらせると排痰がしやすくなるという話は聞いた事がありましたし、実際に少数例ですが試して実感を得たこともありました。

今回、うつ伏せ寝の話と腹臥位療法の話とがリンクして理解が深まったわけです。

夏井先生からのメールには次のような事も書かれていました。

(以下、引用)

「フォーレカテーテルは抜けないけど,オシッコがドロドロしていて困っている」という場合,腹臥位にするとオシッコは重力で下に流れ,膀胱は一時的にカラになります。仰臥位にすると,オシッコは必ず膀胱に残ります。
膀胱に常にオシッコが残っているから,オシッコがドロドロしてくるわけね。
簡単な物理学ですね。

膀胱の出口は膀胱の下前方にあります。だから,立位や腹臥位では膀胱の出口が一番低い位置にきますが,仰臥位だと膀胱の出口が一番高い位置になります。
だから,フォーレカテを入れていても仰臥位だと膀胱内のオシッコは全て出ることはありません。膀胱の出口が一番高い位置にあるからです。

でも,患者の処置(心電図をつけたり,採血したり,CVカテを入れたり,挿管したり・・・)では腹臥位ではやりにくく,どうしても仰臥位の方が(医療者側が)便利。 かくして,寝たきり患者には仙骨部褥瘡が多発するわけね。
これも簡単な物理学。

(引用、ここまで)


つまり膀胱の解剖を考えれば、立位や腹臥位をとっていれば尿がスムーズに流れるような構造、になっているという事がわかります。

逆に言えば仰臥位がいかに不自然な姿勢かという事も伺い知る事ができます。点滴や導尿といった人為的行為を加えるための不自然な姿勢です。自然に人為を加え構造を崩したことで生じた歪みの一つが褥瘡ということです。

そう考えれば、やはり腹臥位は自然に即した姿勢であるという考えがより強固になります。では腹臥位が突然死のリスクとなる乳幼児の問題はどう考えましょう。

これに関してはとある子育て中のお母さんから聞いた意見が少し参考になりました。

首がすわっていない赤ちゃんに母乳を与える時の姿勢は横に丸まるような姿勢で、眠たくなったらそのままの姿勢でそ~っとベッドに寝かすようにするのだそうです。

腹臥位のメリットはあくまでも首、手足の筋肉など身体の運動機能が正常に発揮されてからの時期に成立する話であって、

他の生物から守られなければならない立場にいる赤ちゃんは基本的に親の管理下であるので、

その状況で赤ちゃんがもっとも安心する姿勢はお母さんに抱かれておっぱいを吸っている時の横向き気味の腹臥位なのではないでしょうか。

また、他の生物から襲われそうになっても自分の手足を使って逃げなければならないような場面は、首がすわっていない時期の赤ちゃんにおいては生じにくいと思います。親に抱かれていたり、親の目が常に行き届いているからです。

だから横向き気味腹臥位から身体機能の発達に合わせて、腹臥位を楽な姿勢と位置付けていく成長過程をとることが脊椎動物に共通する特徴なのではないでしょうか。

そう考えれば赤ちゃんがうつ伏せ寝でいかに気持ちよく寝るのだとしても、

その姿勢を首がすわっていない赤ちゃんにとらせることは、まだ時期尚早だという事なのかもしれません。


たがしゅう
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カンガルーケア

元々はアフリカでNICUが足りず、ユニットのなかに入れられない赤ちゃんをお母さんの胸に向かい合うように括り付けたのが始まりだということでした。低体重であっても、低体温にもならず、呼吸状態も安定し、状態が落ち着くのがわかり、あっという間に世界に広がり、日本でも広く行われています。昔読んだ本で、どこかの地域では赤ん坊は1歳半くらいまで、母の胸に括り付けられ、勝手に15分ごとに哺乳し、母は立て膝で寝るということが書いてあったのを覚えています。出典はよくわかりません、すみません。人間の赤ん坊が未熟な状態で生まれてくるのであれば、母の体の近くにずっと置いておくのが、本来の姿なのではないでしょうか。1歳半になれば、ほとんどの子が自分の足で動くことが出来るようになり、お猿さんたちと同じになります。そうすれば1人で眠れる。でも、このやり方では、日常生活は全く成り立ちません。母親の仕事は子育てのみになります。日本じゃあ無理じゃないでしょうか?
カンガルーケアでも事故はあり、死亡例が報告されています。母の胸に抱かれているから、絶対安心という訳ではないのです。
NICUの赤ちゃんたちは呼吸状態を落ち着かせるために、腹臥位にしますが、下のベッドは固く、シーツはぴったり、顔は完全に横です。下向きに顔を埋めている子はいません。呼吸は明らかに楽になります。再呼吸をさせないために、顔の周りには物をタオルなど置かないようにします。血中のCO2濃度が上がることと、SIDSは関係あるのではないかと思っているのですが、指摘した文献を読んだことはありません。

Re: カンガルーケア

ニコ 先生

 コメント頂き有難うございます。
 現場を御存知ならではの貴重な情報、深謝申し上げます。

 カンガルーケアとは、「新生児センター入院中の我が子を、母親が裸の胸に抱っこするという面会の方法」のことですね。
 確かに本来なら母親はこのような形でこどもにつきっきりであることが本来の姿なのでしょうね。しかしいろいろな事をしなければならない現代社会では、御指摘のように事実上困難な事だと思います。

 しかしそうやっていても死亡してしまうのであれば一体どうすればいいというのでしょう。
 人為では如何ともしがたい領域というものがあるのかもしれませんね。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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