サイアミディン

不自然な糖質制限による歪み

尿中に糖を排泄させる作用機序を持つ薬、SGLT2阻害薬が注目を集めています。

また糖質制限実践者の間でも、食事の中でどうしても排除しきれない糖質をも強制的に尿中へ排泄させる事ができ、より質の高い糖質制限状態を維持する事ができるということで高い評価の声をよく聞きます。

確かにSGLT2阻害薬の臨床効果は糖質制限による効果そのものであり、

この薬を普及していく活動の中でケトン体が出ることに難色を示していた業界の専門家達も、その安全性を認めざるを得なくなるほど世の中の風潮が変わってきたという点でこの薬の果たした役割は大きなものがあると思います。

ただ、私はそれでもこの薬の使用については慎重な姿勢を取っています。

なぜならば、SGLT2阻害薬による疑似糖質制限は不自然な糖質制限であるからです。

SGLT2阻害剤における有名な副作用は脱水です。尿糖が増えれば浸透圧差でそれを薄める方向に水分が移動し尿量が増える事に起因します。
従って、SGLT2阻害薬を処方する時には、必ずこまめに水分を摂るように指導します。

通常の糖質制限指導においてはその指導は必ずしも必須ではなく、喉が渇いたら自ずと飲水行動に移るという事で事足ります。

身体の中に浸透圧を一定にするためのナトリウムホメオスターシスを中心とする様々なメカニズムが自律的に働いているからです。

ところが、SGLT2阻害薬による疑似糖質制限ではそのシステムを超えて水分が失われるように代謝が強制駆動させられているので、口渇以上に水分を確保しなければ相対的な脱水状態です。

ただ水分が足りないというだけで済んでいればよいですが、この状況が高じて起こりうる悪い事態の一つが私の専門領域でもある脳梗塞です。

水分が強制的に失われ、もともと動脈硬化などで狭くなっている血管への血流も落ちれば、血流が途絶え組織が壊死する梗塞状態になるという事が実際に起こり得るのです。

そして脳梗塞は不可逆的な組織変化であり、基本的に後遺症が残ります。

Do No Harm」の観点から、患者さんが助言に従えず悪化する分はやむなしだとしても、医師が処方する薬のせいでリカバーできない問題を引き起こす事だけはどうしても避けたい想いが私にはあります。

だから私がSGLT2阻害薬を処方する場面は、基本的に糖質制限をどうしても実践できない人で糖尿病コントロールの悪い人にやむなく出すという状況であり決して多くはありません。

そんな風に考えていたところ、糖尿病関連の医学雑誌に次のような特集が乗っていました。



糖尿病の最新治療 Vol.7 No.4 雑誌 – 2016/8/26
塩原 哲夫 (編集)
「SGLT2阻害薬と皮膚病変」


(以下、p198-199より引用)

(前略)

本剤(SGLT2阻害薬)に関連して出現する皮疹にはどんなものがあるのだろうか。

前述したようにその多くは内服開始1ヶ月以内に生ずるが、それはアレルギー性薬疹だからではない。

その間に、本剤の薬理作用に起因する脱水が生じやすいからなのである。

もともと糖尿病患者では発汗が低下しており、皮膚の乾燥傾向を認めることはよく知られている。しかも、血糖値が高いケースほど皮膚の乾燥傾向は増す。

角層水分量が減少するのは、発汗が少ないだけではなく、糖尿病が重篤化するほど皮膚を覆う皮脂が低下するためでもある。

つまり、本剤の内服を開始する時点で、糖尿病患者では皮膚の乾燥状態があることを理解しておく必要がある。

そこへ本剤が投与されれば、脱水による皮膚の血流量の低下がさらなる発汗低下をもたらす可能性はきわめて高い。

このような脱水による発汗低下により、皮膚の乾燥だけでなく、代償性発汗の亢進を一部の皮膚(手足など)に認めるようになる。

このような代償性発汗の亢進は、しばしば汗管から真皮ないへの汗の漏れをきたし、それは皮膚のチリチリ感として知覚される一方、臨床的には浮腫性紅斑の所見を呈する。

(中略)

SGLT2阻害薬により生じる皮疹の多くは、このような皮膚の乾燥と発汗障害に基づく皮疹であることが多く、これは後から述べる予防策を講じれば発症に至らないで済む可能性が高い。

(後略)

(引用、ここまで)



最後の皮膚障害の予防策については以前私が人体実験に使って創傷治癒遅延効果を確認したヒルドイドの積極的塗布が推奨されていたのでスルーしますが、

要するにSGLT2阻害薬による疑似糖質制限は、糖質制限と違ってこのような皮膚トラブルも起こりうるという事です。

もっと言えば、脱水に伴う有害事象だけではありません。もともと備わった代謝システムをいじった状態を長期間続ける事で想定外の事が起こる事があるという事は過去の薬害の歴史が物語っています。

目先の利益に捉われるのではなく、見えないところにも意識を向けることはとても大切なことだと私は思います。

実はこうした問題はSGLT2阻害薬に限った話ではなく、西洋薬という単一成分抽出型薬剤に共通する根本的な問題だと私は思っています。

どんなに目の付け所がよい代謝の部分を操作できたとしても、自然の構造を急峻に崩す物質を使い続ければ必ずどこかに歪みを生じます。

それに対して糖質制限は不要なものを取り除くという作業ですから、もともとの代謝が整う事はあっても歪みを生じる事はありません。

どちらがトラブルを起こしにくいかは考えるまでもないと思います。


SGLT2阻害薬による疑似糖質制限と糖質制限が似て非なるものだということ、

用いる場合はその不自然さをきちんと認識した上で十分に注意して使うべきだということを、

改めて確認しておく必要があると私は思います。


たがしゅう
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

減らすことに目を向ける

先生の推奨する治療全般に言えることは、断食、糖質制限、セルフマネジメントどれにおいても「減らす」がキーポイントですよね。

糖を減らす、ストレスを減らす。

つまり、人は「糖」と「ストレス」を無意識に取りすぎている事に気づくことが健康の早道なのでしょう。

現代医療の「加えて」治す方策は、すでに頭打ちだという事に何故気づかないのでしょうか?

気付いているけれど、引き返せない、止まることができない何か大きな壁がある。

過去に作り話と一蹴していた陰謀説のようなものが、現に存在しているような気がしてなりません。

Re: 減らすことに目を向ける

だいきち さん

 コメント頂き有難うございます。

> 先生の推奨する治療全般に言えることは、断食、糖質制限、セルフマネジメントどれにおいても「減らす」がキーポイントですよね。
 
 その通りです。私はこれからの医療は「マイナスの医学」を意識すべきだと考えています。

 そのための基本的治療がまず糖質制限です。

 それでも害毒が除去できない場合、
 体の毒を排除するための方法が断食、ファスティング
 心の毒を排除するための方法が瞑想、マインドフルネス 

 をそれぞれ検討すべきだと思います。

 そしてこれらが安全に実践でき、さらに自然の構造を崩さない他の様々な補助療法を加えた、新しい医療の場を創っていきたいと私は考えています。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの訪問者数
FC2アフィリエイト
メールフォーム
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR