サイアミディン

失敗を成功に導くシステムを考える

失敗学に対する勉強を続けていたら、興味深い本と出会いました。



失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織 単行本(ソフトカバー) – 2016/12/23
マシュー・サイド (著), 有枝 春 (翻訳)


失敗を失敗のままにしていると、同じ失敗を何度も繰り返してしまいます。

その失敗を繰り返す体質が医療業界全体にあるのだという鋭い指摘が書かれていました。

(以下、p17-20より引用)

(前略)

失敗と成功には、切っても切れない関係がある。

まずはその関係を理解するために、安全重視にかかわる二大業界、医療業界と航空業界を比較してみよう。

両者の組織文化や心理的背景には大きな違いがある。中でも根本的に異なるのが、失敗に対するアプローチだ。

【なぜ航空業界は奇跡的に安全なのか?】

航空業界のアプローチは傑出している。

航空機にはすべて、ほぼ破砕不可能な「ブラックボックス」がふたつ装備されている。

ひとつは飛行データ(機体の動作に関するデータ)を記録し、もうひとつはコックピット内の音声を録音するものだ。

事故があれば、このブラックボックスが回収され、データ分析によって原因が究明される。

そして、二度と同じ失敗が起こらないように速やかに対策がとられる。

この仕組みによって、航空業界はいまや圧倒的な安全記録を達成している

しかし、1912年当時には、米陸軍パイロットの14人に8人が事故で命を落としていた。2人に1人以上の割合だ。

米陸軍航空学校でも、創立当初の死亡率は約25%に及んでいた。当時は、これが特別な状態ではなかったようだ。

航空産業の黎明期には、巨大な鉄の塊が高速で空を飛ぶということ自体、本質的に危険なことだった。

今日、状況は大きく改善されている。

国際航空運送協会(IATA)によれば、2013年には、3640万機の民間機が30億人の乗客を乗せて世界中の空を飛んだが、そのうち亡くなったのは210人のみだ。

欧米で製造されたジェット機については、事故率はフライト100万回につき0.41回。単純換算すると約240万フライトに1回の割合となる。

(中略)

航空業界においては、新たな課題が毎週のように生じるため、不測の事態はいつでも起こり得るという認識がある。

だからこそ彼らは過去の失敗から学ぶ努力を絶やさない


【航空業界にあって、医療業界にないもの】

しかし、医療業界では状況が大きく異なる

1999年、米国医学研究所は「人は誰でも間違える」と題した画期的な調査レポートを発表した。

その調査によれば、アメリカでは毎年44000~98000人が、回復可能な医療過誤によって死亡しているという。

ハーバード大学のルシアン・リープ教授が行った包括的調査では、さらにその数が増える。アメリカ国内だけで、毎年100万人が医療過誤による健康被害を受け、12万人が死亡しているというのだ。

ショッキングなデータだが、これでもまだ問題の大きさを明らかにするには至っていない。

2013年、『Journal of Patient Safety(患者安全ジャーナル)』に掲載された論文では、回避可能な医療過誤による死亡者数は年間40万人以上にのぼると算出された(医療過誤の内訳は、誤診、投薬ミス、手術中の外傷、手術部位の取り違え、輸血ミス、転倒、火傷、床ずれ、術後合併症など)

この数について、現在世界で最も尊敬を集める医師の1人、ジョンズ・ホプキンス大学医学部のピーター・プロノポスト教授は、2014年夏の米上院公聴会で次のように発言した。

 つまり、ボーイング747が毎日2機、事故を起こしているようなものです。あるいは、2か月に1回『9.11事件』が起こっているのに等しい。回復可能な医療過誤がこれだけの頻度で起こっている事実を黙認することは許されません。

この数値で見ると、「回復可能な医療過誤」は、「心疾患」「がん」に次ぐ、アメリカの三大死因の第3位に浮上する。

しかし、まだ不完全だ。老人ホームでの死亡率のほか、薬局、個人病院(歯科や眼科も含む)など、調査が行き届きにくい死亡事例はこのデータに含まれていない。

(引用、ここまで)



失敗から学ぶことは、成功への架け橋となります。

しかし同じ命に関わるはずの医療業界と航空業界とでは失敗に対するアプローチが全く異なり、

その結果、起こっている現象が両者で全く異なっているという衝撃的なメッセージです。

航空業界は失敗の原因を徹底的に究明して再発防止に活かすというシステムが構築され、経験を経て確固たる安全性を確立しました。

かたや医療業界に関しては、私は内側からもよくわかりますが、失敗の原因を究明するどころかひた隠す隠ぺい体質がはびこっています。

いまや何に対しても同意書を取らないといけなくなってきた動きもその象徴です。失敗の再発を防ぐのではなく、失敗した時に責められない対策を一生懸命練っているのです。

なぜ医療業界は失敗から学ぼうとしないのでしょうか。そこには様々な要因が隠されていると思います。

一つには医師という職業に高い社会的地位が与えられ、その結果多くの医師が高いプライドを持つという事があると私は思います。

例えば自分が常日頃、「先生、先生」と周りから大きな尊敬を集めている医師だとしたらと想像してみて下さい。

その自分が例えば手術のミスで患者さんを死亡させてしまったという時に、「自分のミスで患者を死なせてしまいました。本当に申し訳ございません。」と言えるでしょうか。

たとえ自分にミスの自覚があったとしても、そう正直に言える医師は皆無に近いのではないかと思います。

もしかしたら高いプライドがミスの自覚さえもかき消して、「最善は尽くしましたが、運が悪かったとしか言いようがありません」のような説明をしてしまうかもしれません。

しかしこれがもし経験未熟な研修医であれば、正直に言える医師の割合は増えるかもしれません。

そうプライドの高さや社会的な地位は、医師に容易には謝らない体質を植え付けていると私は思うのです。

そしてその謝らないことが問題が発覚した時にその問題をこじらせ、昨今の医療訴訟件数の増加につながっているようにも思えます。

医療訴訟を防ぐためには訴えられないよう同意書を書かせることではなく、

失敗をした時にきちんと反省し、その上で原因を究明し、再発を起こさないように次へ活かしていくというサイクルを作ることだと思います。

紹介した本では、医療業界で失敗が起こりやすい原因として①複雑性、②資金や人手の不足、③緊急性の高い場面、の3つが挙げられていました。

そしてそれ以上に根が深い問題として、世間の医療に対する厳しい目線が医療の失敗を隠蔽する組織の体質を助長しているという問題も指摘されているように思います。


医療業界は失敗を減らしていくために航空業界から学ぶべきではないでしょうか。

例えば医師の診察室で行われる出来事はほとんどの場合、ほぼ密室での出来事です。

医師がきちんと出来事をカルテに記録していればいいですが、していなければ何が起こっていたか後で検証する事は困難です。

そして失敗が起こりやすい原因の逆を考えれば、失敗を起こしにくくする対策へとつなげる事ができます。

もっと医療の構造をシンプルにし、その時いる人員でマネジメントできる以上の負担の仕事はしないようにし、とっさの判断が必要になる状況に備える、もしくはその状況で一人だけに責任がふりかからないよう周囲のサポート体制を作る、などです。

この本、まだまだ学ぶべきことが多そうなので引き続き読み進めてみたいと思います。


たがしゅう
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失敗を成功に

たがしゅう先生、おはようございます。

様々な分野で、必ず失敗は起きていると思います。そして、その失敗をそのままにせず改善が必要なのは言うまでもないことだと思います。しかし、それができていないことが多いのも事実だと思います。

大切なことは、失敗や考えられる課題を個人にとどめてはいけないということだと思います。何かに取り組んでいる組織の中で、それらをオープン、共有化し、どのように解決するのか考えることが重要と思います。それらが記録され、組織に蓄積されていくこと、そういうシステムが大切ではないでしょうか?

このように感じました。

Re: 失敗を成功に

じょん さん

 コメント頂き有難うございます。

> 大切なことは、失敗や考えられる課題を個人にとどめてはいけないということだと思います。何かに取り組んでいる組織の中で、それらをオープン、共有化し、どのように解決するのか考えることが重要と思います。それらが記録され、組織に蓄積されていくこと、そういうシステムが大切ではないでしょうか?

 同意見です。
 そしてそういうシステムを作るためには風通しのよい職場環境作り、ひいては日頃の人間関係をよくすることが極めて重要と思います。

 いつも小さな失敗でガミガミ起こってくるような先輩に、大きなミスを報告しようという気持ちにはなかなかなりません。
 自分がそんな先輩になってはいけないと思いますし、いつもニコニコえびす顔でいれば様々な出来事がスムーズに運びやすいように思います。口で言うほど簡単なことではないですけどね。

 2016年9月4日(日)の本ブログ記事
 「難病を克服するメンタリティ」 
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-721.html
 も御参照下さい。

失敗の連鎖について、、、。

都内河北 鈴木です。

本ブログ記事の私は日本医療の日本糖尿病学会組織ぐるみの被害者本人です!!

私の江部先生「糖質制限理論」で改善以上、生還した「故意の無知」医療の被害者本人です。

21年重症化(右目失明・脳梗塞発症)するも、江部先生「糖質制限理論」食生活実践で、3ヶ月足らずで後半3年余り増量するインスリン自主離脱でき数値正常化、以降に糖尿病薬全て自主離脱できました。
(上記デ~タはたがしゅう先生にも数年前都内仙川で提示したことがあります。)

糖質制限食生活4年目満了月のMRI検査では能力人望ある院長も驚く脳梗塞頚動脈プラ~ク減少改善もありました!!

上記は全て江部先生理論の効果成果です。
私の生還事実は全て感謝の意味込めデ~タ送付して多数コメントしてあります。

頚動脈プラ~ク減少改善は、江部先生表記事にも「希少な改善症例」だと説明ありました。

ここで私が言いたい事は、日本医療は「故意の無知!!」医療だと言うことです!!

2005年以降欧米先進国医学界、特にアメリカADA、ジョスリンなどが解明した事実を日本医療と糖尿病学会の可能性無い「カロリ~制限食理論」に固執するばかりに私のような被害者が多発しているんです。

江部先生「糖質制限理論」を受容しないどころか
江部先生理論で改善した事を話すと、反省学習するどころか、転院要求など低俗圧力三昧!!
(証明事実は江部先生にお尋ねください。)

当時の後半7年間通院病院は、現在東京都病院協会会長の経営病院です!!

圧力転院後、杉並区主催高円寺保健センタ~「血糖改善教室」に、
上記病院内科部長は既存の理論を自慢げに放言するので参加者全員の前で、
自身の病院での私の「江部先生理論」での自力改善生還デ~タ提示され、
一切反論できず、できる訳が無い、病院ぐるみで「故意の無知」医療を継続している事が証明晒されたのですから!!

上記以外の低俗な医療理念皆無の圧力を証明事実ある上で江部先生ブログには、被害回避・自衛のために警鐘コメントしています。

本記事「失敗繰り返される」のは、
後遺症残した被害者私からすれば
「医療理念無い、権威肩書きだけの既得権益亡者だからです!!」

敬具

Re: 失敗の連鎖について、、、。

都内河北 鈴木 さん

 従来医療の為にお辛い想いをなさった事はお察し申し上げます。
 
 しかし糖質制限を受容できない医師達に向けての攻撃的かつ批判的なコメントを、様々なブログへ乗せ続けるという行為に私は賛同できません。
 直接お会いした時にも申し上げたと思いますが、前を見て建設的な議論をしましょう。変わらないものを嘆き続けても何も変わっていかないので自分の心を変えましょう。何より御自分の中にもその事が大きなストレスとなり、ストレス性疾患の原因となってしまいます。

 2015年1月1日(木)の本ブログ記事
 「私が変われば世界も変わる」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-530.html
 も御参照下さい。

Re: Re: 失敗を成功に

たがしゅう先生、ありがとうございます。

「ニコニコエビス顔」がキーワードですね。
まずは失敗や課題をオープンにできる環境が大切ですね。少しテーマから外れますが、おそらくどこの職場でも威圧的な人はいます。そういう人に限って、自分が威圧的であることに気がついていないものです。どのようにして自覚してもらうか、いつも考えているのですが、なかなか答えがありません。

Re: Re: Re: 失敗を成功に

じょん さん

 コメント頂き有難うございます。

 他人を変える事は難しいですね。そもそもそんな事はできないと割り切って考え、自分が環境変化に適応していくしかないのかもしれません。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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