サイアミディン

高度な炎症があるとケトン体は産生しにくい

私は脳を専門とする神経内科医なので、

重症の脳梗塞患者さんを診療する機会も多々あります。

脳梗塞で重症になると多くの場合意識が障害されています。

また顔面を含めた重度の半身麻痺を伴っている事が多く、のども含めて半身麻痺となっているため嚥下能力も低下している事が多いです。

そうすると脳梗塞と一緒に起こってくるのが「誤嚥性肺炎」です。口腔内の常在菌を唾液と一緒に飲み込んだ際に嚥下能力が低下しているため一部が気管に入り、

普段見ない菌だという事で肺で異物と認識され、炎症を起こしてしまうのです。
誤嚥性肺炎の治療の鉄則は絶食補液及び抗生剤点滴です。

異物の気管内への入り込みを最小限にするのと、細菌が原因で起こった炎症を収束させる目的で抗生剤を用いるのです。

ここで糖質制限推進派の私は、点滴内の糖をゼロにします。外部から糖を入れない事によって、抗炎症作用のあるケトン体を可能な限り多く産生させるためです。

この時、脂肪製剤は用いません。何度か試みた事はありますが、あまりメリットが感じられないばかりか、むしろ血管炎などのデメリットの方が生じやすいからです。

脂肪を外部から入れること、特に血管からそれを入れようとする事は非常に不自然な事だというのを物語っており、

そうではなくて、体内でいかにケトン体を産生させる代謝を動かすかが重要だという印象を私は持っています。

ところが、重症の脳梗塞+誤嚥性肺炎に対しては、

絶食で点滴内の糖をゼロにしていても、数日経ってもケトン体が上昇して来ないというケースをまれでなく経験するようになりました。

絶食は最強のケトン体産生刺激なのに意外な感じでしたが、どうやら高度の炎症が併存しているとなかなかケトン体は産生されないようです。

この場合、いくら絶食にしていてもなかなかケトン体が産生されないため、生化学的に重要なエネルギーの元の物質であるATPもできないため、先に炎症を抑える必要性が出てきます。

以前パーキンソン病の原因不明の発熱、呼吸不全に少量のステロイド投与がうまくいったというケースを紹介しましたが、

今回は脳梗塞+重症誤嚥性肺炎に、炎症を抑えてケトン体を産生できる状況を人為的に作り出すために、ステロイド点滴(ヒドロコルチゾン100mg+生理食塩水100ml 1時間かけて1日2回実施)を試みてみました。

すると数日間無事に重症の肺炎から離脱でき、少しずつケトン体産生状態を作り出していく事ができました。


話しは飛びますが、漢方の世界に「先表後裏(せんぴょうこうり)」という言葉があります。

漢方では病邪が表にあるか、裏にあるかという事を意識して診療します。

表は身体の表面、具体的には皮膚、筋肉、咽頭などを指し、発熱、悪寒、頭痛、節々の痛み、鼻水、くしゃみ、咽頭通、咳などの症状が、病邪が表にある時の症状です。

逆に裏は身体の深部、具体的には各種臓器や血管、骨髄などを指し、冷えや下痢便秘、顔面蒼白などの慢性化した症状が多いです。

表と裏の同時に病邪が存在しているという場合、「先に表を治して、その後に裏を治しなさい」というのが先表後裏の考え方です。

もちろん漢方の数千年の歴史から導かれた経験論ですし、漢方の中でも逆に先裏後表の方が良いケースもあるという例外も示されているくらいですので絶対的なルールではありませんが、

多くの場合、先表後裏でいくとうまくいくのだという事を漢方医学は教えてくれているわけです。

その事を踏まえて今回のケースを振り返ってみますと、

肺炎は裏熱の状態ですが、熱が激しく燃え盛っているのは表に病邪が及んでいる状況です。

そしてケトン体を出させようと消化管の負担を最小限にする治療は裏に対する治療アプローチです。

しかしこの場合、表を先に治さなければなかなか裏の異常は正常化しないということ、だからステロイドを用いて表に及んだ熱を抑え込むことで、

裏の異常も引き続いて改善していったのではないかと考察する次第です。


現実に起こった現象を重視する漢方医学の歴史で蓄積されてきた貴重な経験則は、

今直面する私達の病気の問題を解決するためのヒントを教えてくれているように思います。

温故知新、漢方は引き続き興味深く学んでいきたいです。


たがしゅう
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの訪問者数
FC2アフィリエイト
メールフォーム
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR