サイアミディン

理屈を説明できないエビデンスは無意味

私はコレステロール低下薬の「スタチン」を基本的に処方しない医師です。

スタチンの本質は言ってみればミトコンドリア機能低下薬であり、平たく言えばエネルギーの産生効率を悪くする薬です。

それゆえスタチンには様々な副作用があります。横紋筋融解症が有名ですが、それ以外にも下痢・腹痛・吐き気、肝障害、間質性肺炎、血小板減少など多岐に渡ります。

また高用量スタチン使用により糖尿病の発症リスクが高まることが明らかになったというのも記憶に新しいところです。

そもそもコレステロールが高いとよくないという話そのものの基盤が揺らいでいるわけです。たいした考えもなく惰性でスタチンを処方し続ける行為は厳に慎むべきと私は考えています。

ただ、そんな考えの私でも例外的にスタチンを処方する状況というのはあります。
①生まれつきの遺伝子の異常で、コレステロールのバランスをとるシステムが破綻し、コレステロールが過剰に産生され続け不利益を被っている状態(例:家族性高コレステロール血症など)
②糖質制限指導をしても遵守することができず、糖質過剰によって①に準じた状態を自ら作り出してしまっている人
③スタチンを中止することが本人へ不安を与えたり、他医との軋轢を生み出したりして本人へストレスを与えてしまう場合(ストレスマネジメントの観点から。この場合は減量で対応する事を検討)


以上のケースでは私でもスタチンを処方していますが、心の中では何とかスタチンを使わなくてもよくなる方法を模索しています。

そんな中、毎度おなじみケアネットニュースから次のような記事が飛び込んできました。

スタチンで糖尿病患者の下肢切断リスクが低下
提供元:ケアネット公開日:2017/04/21


(以下、引用)

主要な心血管イベントに対するスタチンの効果を裏付けるエビデンスはあるが、四肢のアウトカムにおける保護効果をみた研究はほとんどない。

今回、台湾・国立陽明大学のChien-Yi Hsu氏らの観察コホート研究により、末梢動脈疾患(PAD)を有する2型糖尿病(DM)患者において、スタチン使用者では非使用者に比べて、下肢切断および心血管死のリスクが低いことがわかった。The Journal of clinical endocrinology and metabolism誌オンライン版2017年4月7日号に掲載。

本研究では、2000~11年までの台湾における全国DMデータベースを用い、DMとPADを有する20歳以上の患者6万9,332例を同定した。

これらの患者を、スタチン使用者(1万1,409例)、スタチン以外の脂質低下薬使用者(4,430例)、非使用者(5万3,493例)の3群に分けた。

主要アウトカムは下肢切断、副次的アウトカムは院内での心臓血管死および全死因死亡であった。

主な結果は以下のとおり。
・スタチン使用者は非使用者に比べ、下肢切断率の低下(調整ハザード比[aHR]:0.75、95%CI:0.62~0.90)、院内心血管死亡の低下(aHR:0.78、95%CI:0.69~0.87)、全死因死亡の低下(aHR:0.73、95%CI:0.67~0.77)と関連していた
・傾向スコアマッチングによる分析において、下肢切断リスクに対するスタチンの効果は一致していた。
・死亡の競合リスクを考慮した場合、スタチン使用者のみ、下肢切断リスクの低下(HR:0.77、95%CI:0.61~0.97)および心血管死の低下(HR:0.78、95%CI:0.68~0.89)と関連していた。

(引用、ここまで)



糖尿病に下肢の動脈硬化をきたす末梢動脈疾患を合併している患者を69332名も集めて行った壮大な研究です。

観察コホート研究となっていますが、コホート研究には前向きと後ろ向きとがあります。

前向きコホート研究は調べたい仮説があって、その仮説を検証するための計画を綿密に立てて条件に合致する症例を集め、

この場合であればスタチンを使う人とスタチンを使わない人とでヨーイドンで一斉に経過観察を始めて、下肢切断事象が発生したらそれぞれカウントして、

どちらのグループで下肢切断が多かったかを比べて、統計学的に解析して、はたしてスタチンが下肢切断に関わっていたか否かを検証するというものです。

しかし前向きの場合、条件に一致する症例を集めるのが極めて大変な作業になります。
世界に名だたるコホート研究として知られる、久山町研究もで3000名程度、米国のフラミンガム研究でさえ5200名程度の人数集めるのが関の山です。

それに対して後ろ向きコホート研究は、何かの研究のために登録されている大規模なデータベースがあって、

そこからたまたま糖尿病がある人、末梢動脈疾患がある人、下肢切断歴がある人のデータを引っ張ってきて、

その人がスタチンを使っていたか否かを振り返って検討するというやり方です。このやり方だと人数は集まりますが、希望する条件に完全に合致する症例とはなりにくいのと、

他の様々なバイアスがかかる可能性を否定できないので、エビデンスレベルとしては前向きに比べて低くなることになります。

件のニュース内には前向きか、後ろ向きかの記載はありませんが、母集団が70000人近くと膨大である事を考えて、おそらく後ろ向き研究と思われます。

原著を取り寄せればその辺り書かれているのかもしれませんが、はっきり言ってそこまで情熱を持って調べる価値はこの論文にはないと私は判断します。

なぜならば、この論文の結論が極めて信ぴょう性に乏しいからです。

きっと何も考えずにエビデンスを受け入れる人は、「そうか、だったら下肢切断リスクを下げるためにもスタチンは使った方がいいな」と思うのでしょうね。

ミトコンドリア機能を低下させ、エネルギー効率を下げる薬が、どうやったら下肢切断リスクを下げるのか。

どうひっくり返っても私には理解することができません。

それならば研究自体が間違った結論を導いているのではないかと考えるのが妥当ではないでしょうか。

本当にスタチンが下肢切断リスクを減らすのかどうかを検証するためには、スタチン使用の有無以外のすべての条件を揃えて比較するのが理想ですが、

前述のように後ろ向き観察研究ではその条件を揃えることが非常に困難です。極端に言えば、事故で下肢切断となった患者もスタチンを飲んでいなければそのグループでの1例とカウントされてしまいます。

そうした例はきちんと除外していると原著論文には書かれているのかもしれません。しかしそれにしてもきれいにデータが出過ぎている印象です。うがった見方かもしれませんが、こんなデータは逆に不信感を覚えます。

それにもう一つ考慮されなければならないのは利益相反の問題です。

これほど大規模の研究ともなれば多額の研究費が必要になります。それを誰が負担するのかという話です。

2004年以前はその費用を製薬会社が負担することが横行していました。そしてその多くにスタチンが関わっていたということです。

スタチンは製薬会社にとっては一番の稼ぎ頭です。スタチンがよくないという研究結果が出ることは製薬会社にとっては死活問題です。

そのため、製薬会社が資金提供した研究の結果は、まず間違いなくその製薬会社にとって有利な研究結果が出ている時代が長く続いていたのです。

その中でデータの改ざんが行われていたかもしれないと考えるのは自然の流れだと思いますし、実際にそうであったことが分かったのが、2013年発覚のいわゆる「ディオバン事件」です。

これは氷山の一角で、2004年以降も水面下でこうした事象はきっと起こっているであろうと私はにらんでいます。

そうなると研究の信頼性自体が揺らぐわけです。何のエビデンスをどう信じたらいいのかわからなくなるという声も聞こえてきそうです。


私はこうしたエビデンスと呼ばれる情報に向き合う時は次のようにしています。

論文の結論を見て、それが医学的に説明可能な事象かを考える。

説明できる場合はその細部で誤りがないかざっと確認、説明できない場合は真偽判定は一旦保留とします。

逆に真逆の結論が医学的に説明できてしまう場合は、その論文の結論は非常に疑ってかかります。今回の論文がまさにそうです。

要するにエビデンスと呼ばれるものはそのようになる理屈を説明できて初めて完成すると思います。

スタチンが下肢切断リスクを下げるという理由が論理的に説明できない以上、

今回の論文を見て、「やっぱりスタチンを出そうかな」という話には私は決してなりません。


たがしゅう
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エビデンスは言葉の魔術

「エビデンス」という言葉を使われると,まるで何かが証明されたかのように錯覚させられてしまいますが,実際は相関関係を「発見」したにすぎません.そして,相関関係の存在は,因果関係を証明したものではありません.

そういえば何年か前の糖尿病学会で;

(1) 投薬なし,食事・運動療法のみ
(2) (1)+経口糖尿病薬服用中
(3) (1)(2)+インスリン

北里大学病院の山田悟先生は,

『(1)→(3)になるにつれて,糖尿病患者の平均HbA1cは悪化する. つまり明確な相関関係がある. よって,糖尿病薬やインスリンは,糖尿病を悪化させることがエビデンスにより示された』と言えることになってしまう.

と非常にわかりやすく,「エビデンス万能論」を批判していましたね.

Re: エビデンスは言葉の魔術

しらねのぞるば さん

 コメント頂き有難うございます。

 実際問題、医学論文の多くは相関関係を示したもので、
 実際問題、因果関係を示せたものはほとんどないのではないかと思います。

 一般的には因果関係を示すには、縦断的な介入研究を行う必要があるとされています。
 対象集団の条件をできるだけ揃えて、無作為ランダムに2群に分けて、ある介入を行う群とそうでない群とに分けて何年もの期間を追いかけて、差がついた時に因果関係が示されるというのですが、
 そうやって条件を絞って行うせいで結果はごく限られた集団の中での狭い世界の話です。
 喫煙が肺がんの原因になると明確に認知されていても、実際にはヘビースモーカーなのに肺がんにならないという人も確かに存在しています。

 一生懸命頑張って出した因果関係を示したエビデンスも、はたして現実世界でどこまで通用するのかという事に関しては、疑問の念を禁じ得ません。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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