サイアミディン

難治性こむら返りへの対策

糖質制限指導をしていて時々遭遇するトラブルにこむら返りがあります。

こむら返りに関しては以前詳細に考察した事がありますが、メカニズムのすべてがわかっているわけではありません。

しかし大ざっぱに捉えれば「特に血行に問題のある人が、運動や脱水などの誘因を契機に局所でのカルシウムやマグネシウム利用が不十分になるために起こる筋肉の一過性痙攣及びそれに伴う痛み」と言えるのではないかと思います。

糖質制限を実施してこむら返りになってしまう人は、糖質制限で急激に代謝が変わったことで起こる一時的なミネラル利用不全が主因なのではないかと私は考えています。

糖質制限そのものは血流を改善させ、長期的には動脈硬化の改善が期待できる治療法なので、

糖質制限してこむら返りを起こす人にはカルシウムやマグネシウムが多い食品を勧めたり、カルシウム+マグネシウムのサプリメントや芍薬甘草湯という漢方薬での対症療法で急場をしのぎつつ、地道に糖質制限を続けて血行改善を心がけるよう指導する事が私は多いです。

ところがごくまれに年単位で糖質制限しているのに運動する度にこむら返りを起こすという人に出会う事があります。
そういう人はおそらく糖質制限前の負の遺産として残る手先や足先を中心とした動脈硬化性変化があるため、

普段は問題なくとも運動負荷がかかった時だけ、末梢組織への血流需要が増加し、その時だけミネラル利用不全が起こり、こむら返りを起こしてしまうのではないかと私は考えます。

そういう人は地道に糖質制限を続け、動脈硬化が改善していくのを待つより他にないのでしょうか。

そんな中、とある漢方の雑誌でこんな興味深いレポートが報告されていました。

再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討
土倉潤一郎ら (飯塚病院 東洋医学センター漢方診療科)
日本東洋医学会雑誌vol.68 No1 40-46, 2017


(要旨より引用)

「1週間に1階以上の頻度」かつ「2週間以上の持続」で再発するこむら返り33例に対して、疎経活血湯を使用した。

判定は薬剤開始1ヶ月後に行い、薬剤開始直後から症状が消失したものを「著効」、1ヶ月後に症状が消失していたものを「有効」、1ヶ月後に半分未満へ軽減したものを「やや有効」、1ヶ月後に半分以上が残存したものを「無効」とした。

結果は、「著効」12例、「有効」11例、「やや有効」9例、「無効」1例であった。

1ヶ月後までに23/33例(69.6%)でこむら返りが消失し、32/33例(96.9%)において半分未満に改善した。さらには3か月後までに29/33例(87.8%)で消失しており、高い有効性を認めた。

夜間から明け方のこむら返りに対しては、”夕よりも眠前”、”1包より2包”でより効果を認め、眠前2包の”発作前の集中的投与”が最も有効であった。

再発性こむら返りに対して疎経活血湯は有用だと思われる。

(引用、ここまで)


何度も再発を繰り返すようなこむら返りに「疎経活血湯(そけいかっけつとう)」という漢方薬がかなり効いたというレポートです。

要旨の中にはありませんが、本文中にはこの疎経活血湯と芍薬甘草湯の違いについても過去報告と比べて検証されていましたが、

芍薬甘草湯と同等もしくはそれ以上の効果を示していたという事のようなのです。

しかも芍薬甘草湯の場合は、即効性はあるものの予防効果はなく、使い過ぎると偽性アルドステロン症などの副作用を生じることがありますが、

疎経活血湯は眠前に飲んでおけば夜間から明け方のこむら返りを予防することができるし、偽性アルドステロン症を引き起こす主因である甘草の量が芍薬甘草湯の1/5しか入っていないのでリスク軽減にもつながるという事です。

芍薬甘草湯でも制御困難なこむら返りを治す疎経活血湯には、一体どんな秘密が隠されているのでしょうか。

疎経活血湯のことを詳しく調べれば、逆算することでこむら返りがなぜ起こるかということについて考察を深めることができるかもしれません。


ところがこの疎経活血湯、実に複雑な漢方薬です。

芍薬甘草湯はその名の通り、芍薬と甘草という二つの生薬しか含まれていないシンプルな漢方薬でしたが、

疎経活血湯は芍薬、甘草以外にも以下の生薬が含まれています。
当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桃仁(トウニン)、牛膝(ゴシツ)、陳皮(チンピ)、防己(ボウイ)、防風(ボウフウ)、竜胆(リュウタン)、白芷(ビャクシ)、生姜(ショウキョウ)、威霊仙(イレイセン)、羌活(キョウカツ)

なんと全部で17種類も生薬が入っています。

それぞれの生薬の効能を調べれば様々なことが書かれているのですが、

1+1がそのまま2にならない所が漢方薬の不思議なところで、一概にその作用を全部発揮するとは言い切れません。

従って生薬が多くなればなるほど、科学的にシンプルにその漢方薬を捉えることが困難になります。「だいたいこんな感じのことをしてくれる薬」として理解しておくのが無難です。

で、この疎経活血湯はだいたいどんなことをするのかと言いますと、造血促進、血流改善、水分バランス調整、冷え改善、鎮痛・鎮痙などを行います。主には神経痛とか関節痛に使われることが多いです。

逆に言えば、こむら返りには血液不足、血流低下、水分バランス遍在、冷えが関わっているという事はざっくりと言えそうです。

糖質制限実践者でこむら返りがなかなか解消されないという人は一度疎経活血湯を試してもよいかもしれません。


ところでこの疎経活血湯の構成生薬の中で、

当帰、川芎、蒼朮、陳皮、生姜、羌活の6つには主要成分として精油(せいゆ)と呼ばれるものが含まれています。

精油とは植物が産生する揮発性の油で、その成分により特有の香りを放つことでアロマテラピーなどにも利用されているものですが、

この精油、深く学ぶと興味深いものがありそうです。後日改めて記事にしてみたいと思います。


たがしゅう
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

興味深い記事を有難うございました

先日、糖質制限で過食症や、リウマチ様の足の痛み・腫れが治ったとご報告申し上げた者です^^
ちょうど昨日の晩ご飯時に、赤・白のグラスワインを一杯づつ頂いたのですが、そのせいでしょうか、昨晩こむら返りと逆流性食道炎がきました (^-^:
ワインの糖質は少なめとは聞いていたのですけど、今後は赤ワイン一杯だけにしようと思いました

Re: 興味深い記事を有難うございました

美紀 さん

コメント頂き有難うございます。

こむら返りだけでなく、逆流性食道炎の症状も同時に出たのなら糖質摂取との関連が示唆されますが、
もし糖質摂取量を減らして改善がなければ、ミネラルを意識的に多く摂られることをおすすめします。

No title

たがしゅう先生

先日はお世話になりました。とても楽しい時間を有難うございました。もっとお話ししたい事もあったのですが、みなさん先生とのお話しを楽しみにされている様子でしたから少し遠慮もしました。又の機会にお願いします

私もこむら返りに悩まされていました。特に早朝。ところが糖質制限を開始して皆無となりました。以前は月に数回あったのですが、ここ3年間でゼロです

くんだみえ

Re: No title

栗田三江(くんだみえ) さん

コメント頂き有難うございます。
こちらこそ先日は交流させて頂き有難うございました。

糖質制限を続けていれば全身の代謝が整い血流が改善します。こむら返りが出なくなったのはそうした長期的効果が現れてきたためではないかと考えられます。

No title

自分は逆に糖質制限後こむら返りの回数が増えたので考察してみますと。
仕事中疲労をほとんど感じないので座っていることが減って六時間は立っている。
こむら返りが起きるのは効き脚の右足のみ、左足は起きない。
酒に強くなったのか就寝前の酒量が増えた。

ということで右足のマッサージをしてから寝る、なるべく左足を使って生活する、ちなみに腰痛防止策として車の運転中の左足ブレーキは有効だそうです。
酒を減らすのは難しいですね・・・

Re: No title

SLEEP さん

 コメント頂き有難うございます。

 就寝中起こっているので、夜間臥位での血行不良部(狭窄など)の血流不足、同時期のミネラル利用不全の可能性があります。
 ミネラル摂取の観点はいかがでしょうか。

 また飲酒との関連は一時的にでも実験的にでも断酒して症状がどうなるかを見てみない限り、何ともいえないと思います。

わざとコムラ

私も糖質制限をしてコムラ返りが起きた方ですが、
コムラ返りは自分なりの方法で完全克服しました。わざとコムラ返りを起こすというエクササイズを繰り返しました。
わざとのコムラ返りは意外と痛くないのです。
サプリとかも試しましたが改善する気配すら無かったので、何かを摂取して改善するとは思えませんでした。物理的?な方法ですかね?

あと

ちなみに糖質制限をしてコムラ返りになる原因は、糖質制限をして持久力が向上し、より長時間の歩行に耐える事が出来るようになったからだと思っています。

Re: わざとコムラ

ふあっつおー さん

コメント頂き有難うございます。

なるほど、そういうやり方もあるのですね。
物質的な環境は変えずに、少し荒療治ではありますが、身体の適応能力を最大限に発揮させ環境に適応させた合理的な方法だったのではないかと思います。断食を繰り返してケトン体の利用効率を高める試みにも近いかもしれません。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの訪問者数
FC2アフィリエイト
メールフォーム
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR