サイアミディン

必要物質は自分で作れてこそ

前回の「薬は材料を補充しない」という記事では、

材料を補充せずに乏しい生体内資源で無理矢理に神経伝達物質を作り出すような治療戦略には、

病気がよくなる道理はないという事を書かせて頂きました。

この話を糖尿病に当てはめてみるとどうでしょうか。

糖尿病の治療で鍵となる物質はなんといっても「インスリン」です。

インスリンは、21アミノ酸残基のA鎖と、30アミノ酸残基のB鎖が2つのジスルフィド結合で繋がった構造を持ち、やはり合成には蛋白質の存在が不可欠です。

ところがインスリンは、アセチルコリンやセロトニンと違って、現代医学の発展により材料がなくともインスリンそのものを注射で投与することが可能です。
これならば身体に材料がなくても外部から必要物質を補う事が出来るので、好ましい治療戦略となりうるでしょうか。

しかし少し考えてみると、この治療戦略にも大きな落とし穴がある事に気付きます。


インスリンを合成しているのは、皆様御存知の通り、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞です。

インスリンが足りなくなる状況というのは、その供給源である膵臓が弱っている状況が必然的に併存していることになります。

仮に外部からインスリンを投与したとして、確かにインスリンの不足自体は補えても、膵臓の方は弱ったままという状況が生まれます。

なぜ膵臓が弱ったのかという点に着目して、何らかのアプローチを行わなければ、いつまでたっても治るという状態に持っていくことはできません。

だから外部から必要物質を補充するアプローチは対症療法にしかなり得ず、

ここでもまた、膵臓が良い仕事ができるように材料を補充する観点と、膵臓が働きやすいように細胞にかかるストレスを適切にマネジメントする観点とが重要になってきます。

つまり、必要な物質は他者が与えるのではなく、自分で作れるようになってはじめて機能が回復したと言えるのです。


この話は、教育学における「コーチング」の重要性にも通じるものがあります。

魚が釣れなくて困っている人に、魚を釣ってあげるのではなく、魚釣りの仕方を教えてあげるのが「コーチング」の考え方です。

外部からインスリンを投与するが如く魚を釣ってあげるのではなく、なぜ魚が釣れないのかという原因分析をサポートし、

解決策を与えるのではなく自分で会得する手助けをすることが、

教育においても、医療においても、大切なことではないでしょうか。


たがしゅう
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現代版養生の再生

辟穀を生んだ道教の養生の考え方に内丹があります。
道教の修行者は仙人になるため、即効性があり、苦労してせずして効果を得るための達成手段を服用薬=外丹に求めました。様々な外丹の材料を探求する成果が現代の漢方薬の基礎になったことは周知の事実です。
植物や動物だけでなく、鉱物(雲母や石英)や亀の甲羅等、あらゆる薬の材料を貪欲に探求していった結果、彼らは水銀に手を出してしまいます。
水銀を服用した結果、多くの死者が出てしまいます。危機的な状況から、養生に役立つ薬を体内で作れないかという問いが生まれ、内丹という技法が追求するようになりました。余談ながら、中医で糖尿病を指す消渇とは、外丹による副作用を指す言葉でもあります。
内丹とは、たがしゅう先生の文脈で言うと、瞑想や呼吸法を使ってストレスマネジメントを行うこと。と認識しています。
最近、糖質制限で体調が良くなったことで、さらにその効果を増強するため、サプリメントを服用しようとする流れ(ビタミンメガドーズ)が一部の人達で起こりつつあるようです。彼らの行動を見ていると、最後には水銀に手を出した過去の二の舞いになるのでは、という思いで見ています。
内丹という難しい言葉でなく、現代ではストレスマネジメントとして、
マインドフルネスという言葉がポピュラーになって来ました。従って、入口を糖質制限として、これにマインドフルネスをストレスマネジメントのツールとして繋げれば、過去一部の人々だけのものであった養生が、現代に再生出来るかもしれません。

Re: 現代版養生の再生

やまたつ さん

 コメント頂き有難うございます。
 おかげさまで私の中での考えが整理されていきます。

 丹には「薬」という意味があるそうですね。

 外丹=漢方、中医学、食養生→→→糖質制限=身体に不要なものを排除し、必要なものを行き届かせる
 内丹=瞑想、呼吸法→→→ストレスマネジメント=精神に不要なものを排除し、必要なものを行き届かせる

 もし不老不死というものがあるのだとすれば、
 外丹と内丹のバランスを整えることにその可能性があるのかもしれません。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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