友人の彼は10代の頃にはそれこそ何を食べても太らない「やせの大食い」タイプでした。
大人になるにつれて少しずつ体重は増えたとのことですが、
はたから見れば相変わらずやせているとみられるレベルの体型です。
また、だんだんそんなにたくさんの量を食べられなくなってきたとも言っていました。ある意味、食事の害から身を守るような反応が起こっているようにも思えます。
そう言えば、我らが
江部先生も若い頃やせの大食いだと伺いました。彼も同じような体質の持ち主ということなのかもしれません。
さて私の75gブドウ糖試験の時と同様に、
食前、30分後、60分後、120分後、180分後、240分後、300分後、360分後の計8回採血を行って血糖、インスリン、C-ペプチド、ケトン体、グルカゴンの5項目を確認することにしました。
最近の彼の食生活としては朝は少しだけ食べて、昼にたくさん糖質を摂取して、有にごはんは食べないというパターンが多いとのことです。
糖質制限を意識しつつも
高糖質から低糖質への急激な代謝変更という意味では若干注意した方がよい食事パターンだと個人的には思います。
前夜にお子さんの誕生日だったそうで、ケーキをしっかり食べたため糖質をしっかり食べた状態から後に10時間以上絶食した状態で実験開始となりました。
やせ体質の人への普通の75gブドウ糖負荷試験だと2時間までしか観察できませんが、
今回は6時間観察できるので、一般的に糖質摂取後3~5時間後に起こるとされる機能性低血糖症が起こるかどうか、そしてその時のインスリン、グルカゴン動態はどうなっているのかも注目ポイントです。
それでは結果を以下にお示しします。
実測血糖(mg/dL) 実測3ヒドロキシ酪酸値(μmol/L)
食前 89 24.2
30分後 155 19.3
60分後 116 14.9
120分後 110 10.0以下
180分後 59 15.2
240分後 82 45.9
300分後 83 143.0
360分後 82 342.0
(血糖基準値:70~109mg/dL 3-ヒドロキシ酪酸基準値:85μmol/L以下 )
インスリン値(μU/mL) C-ペプチド値(ng/mL)
食前 12.2 2.24
30分後 124 8.99
60分後 87.6 8.46
120分後 92.8 8.63
180分後 7.5 2.49
240分後 3.7 1.33
300分後 5.0 1.32
360分後 7.2 1.63
(インスリン基準値:1.7~10.4μU/mL C-ペプチド基準値:負荷前0.61~2.09ng/mL)
グルカゴン値(pg/mL)
食前 162
30分後 124
60分後 142
120分後 109
180分後 147
240分後 145
300分後 140
360分後 135
(グルカゴン基準値:70~174pg/mL)私はいつも1日1食ベースの生活を送っているので、
朝食べずに昼も食べずに絶食状態を続けることなど容易いことですが、
普段1日3食食べているやせ体質の友人にとっては2食抜くことは辛かったかもしれませんが、
普段私のブログを読んでいて、断食にも一定の理解を示してくれているので快く協力してくれました。
実験後の感想を聞いてみると、飲んでから60分までの時期に吐き気と胃もたれを自覚し、頭痛はないけれど身体全体がもやんとほてるような感じがし、
その後から口がやたらと乾くようになり何度も水分を摂りトイレに行ったとのことでした。
2時間後には普通になり、3時間後からはすっきりとしてきたそうですが、実験終了時の6時間時点では再び口渇を感じたとのことでした。
空腹感が惹起されたかどうか尋ねると、それは特になかったとのことでした。また最初の症状はあれど仕事も何とか普通にできたとのことでした。
場合によっては血糖変動で空腹感を感じる可能性もあるかとは思いましたが、実験をすると決めて仕事に集中している状況であれば血糖乱高下があっても空腹感は誘発されにくいのかもしれません。
さて今回の結果で私が面白いと思ったのは、
まず180分の時点で血糖値が59mg/dLまで下がっています。
それまでの時間インスリンが結構出ていますので、いわゆる
機能性低血糖症の状態と言っていいと思います。
私の75gブドウ糖負荷試験と比べるとわかりますが、むしろ私の時よりも数値上多いインスリンが分泌されている事になります。
私はやせ型体質の方はインスリン分泌不足が背景にあると思っていましたが、必ずしもそうではないという事がまず言えそうです。
むしろ肥満体質の私よりもインスリンは多く分泌され、私よりも血糖値の波が急峻に上がり、急峻に下がるカーブを示しています。
肥満ホルモンと呼ばれるインスリンが肥満体質の私よりも多く出るのに現実にはやせているというのはどういうことなのでしょうか。
インスリン感受性の違いかとも思いましたが、血糖値は私よりもしっかりと下がって、むしろ下がり過ぎているくらいなのでインスリンが効いていないというわけではなさそうです。
まだまだ肥満のメカニズムにはインスリンだけでは語れない様々な要素がたくさん絡んでいそうな気がします。
また友人のインスリン分泌は120分まではしっかりと分泌されていますが、
180分を境に急激に枯渇するパターンを呈しているというのも注目ポイントです。
インスリン分泌させる膵臓への負担がちょっと気になるような分泌量の推移です。
一方で機能性低血糖症の症状としては吐き気や胃もたれ、ほてりが該当したものと思われましたが、
その症状が出たのは60分以内、血糖値が最低値となったのは180分ということで、
機能性低血糖症の場合、症状出現と実際の血糖低値を示す時点とにタイムラグがあるという事がわかりました。
これは低血糖そのものが症状を現しているのではなく、急激な血糖変動、インスリン、グルカゴンをはじめとした血糖に関与する消化管ホルモンの攪乱に機能性低血糖症の症状は起因しているという可能性があります。
そのグルカゴンの動態も興味深く、肥満体質の私の時は75gブドウ糖摂取でもグルカゴンはほとんど変動しなかったにも関わらず、
やせ体質の友人ではグルカゴンはインスリンとは逆に低値を示しています。
この辺りからもやせ体質の人で消化管ホルモンが攪乱されている様子をうかがい知ることができます。
それとケトン体については前日のケーキの影響もあいまって開始時点からすでにケトン体低値です。
実験後も4時間後まではケトン体低値のままで、5時間目からようやくケトン体が上がってくる経過でした。
今回は実験だからというので朝、昼抜いていたものの、これがいつもの調子なら当然朝も昼も食べているわけで、
中途半端な糖質制限でかつ1日3食の食習慣ではケト―シスを維持するのは難しいということもわかります。
ちなみに
私は前日過食してしまっていたにも関わらず、実験直前の採血ではケト―シスを呈しておりました。
以上から、やせ体質の人が大量のブドウ糖を一気に摂取した時に起こる現象をまとめると、
・血糖が乱高下し、消化管ホルモン動態が乱れやすい
・それに伴って機能性低血糖症とおぼしき自覚症状が惹起されやすい
・インスリンは肥満体質人よりもむしろ出やすいが、なぜか太らない。
・インスリンは肥満体質人よりもむしろ多く出るが、急峻に出て急峻に枯渇する傾向がある
・インスリンが肥満体質人よりも多く出るが故か、ケト―シスにはなかなかなりにくいN=1なのでここまで言い切れず、そういう可能性があるという話にとどまりますが、
また一つ、糖質がもたらす人体への影響を考える上で大きな足掛かりができたのではないかと思っています。
皆様からの忌憚のない考察をどしどし募集しております。
たがしゅう