先日は高齢のパーキンソン病患者でほぼ寝たきりの状態となった80代女性の患者さんが、
意識障害をきたした状態で救急搬送されたのを私が入院主治医として診ることになりました。
皮膚は乾燥し、舌の水分もカラカラ、血液検査では高ナトリウム血症や血中尿素窒素とクレアチニン比の上昇など、高度の脱水を示唆する状況でした。
この状況では、ごはんを食べることもままなりなせん。
治療としては何はともあれ脱水を治すために点滴を行うことです。そうすればナトリウムを正常化していき、おのずと意識も改善してきます。
すなわち、「意識が戻るまでは絶食点滴」という治療方針だというわけです。
もちろん意識が戻れば速やかに経口での食事を再開することが前提の上での話です。
私はこの患者さんに与える糖質を最小限に絞りつつ、水分をゆっくり補正していくよう点滴メニューを組み、
意識が改善するまでの絶食期間、この患者さんの尿をよく観察する事にしました。
しかし3日経っても、4日経っても、この患者さんからは尿中ケトン体の産生が確認できないのです。
一方、この患者さんはかなりやせた体型の方でした。
ケトン体の元は脂質ですから、最初はやせているから蓄えられた脂質が少ないからケトンがでないと思っていました。
ただこの方の中性脂肪は基準値より高く、コレステロールも極端に低いような事はありませんでした。
つまりそこに材料があるにも関わらず、なおかつ絶食という強力なケトン体産生刺激を与えているにも関わらず、
それでもケトン体はなかなか産生されないのです。一体なぜでしょうか。
ここから先は完全に私の推論です。
謎を解くヒントは、この患者さんがやせている事以外にパーキンソン病である事だと私は考えます。
私の神経内科医としての経験では、純粋なパーキンソン病の人は全体的にやせている人が多いような気がしています。
太れる人は
太ることによって糖質の害から身を守るという側面がありますが、
太ろうにも太る素質のない人が、糖質頻回過剰摂取の害を受け続けると、
太れない代わりにアレルギーや自己免疫疾患、神経変性疾患などいわゆる治療困難な病態につながる印象があります。
思うにそれは、糖質過剰摂取によって生じた酸化ストレスを、
処理するシステムのキャパシティが小さく、処理しきれない酸化ストレスが免疫異常や神経変性といった不可逆的な病態へとつながっていくためではないかと私は思うわけです。
そういった不可逆的な現象が、ケトン体を産生するという経路にもある程度及んでしまうと、
その状態から絶食をしようが、中鎖脂肪酸を使用しようが、酪酸菌を使おうが、
ケトンを生み出す代謝経路そのものが不可逆的な損傷をきたしているがゆえに、なかなかケトン体を十分に産生させる事がしにくいのかもしれません。
それでも不可逆的な変化が100%でなければ、
多少が時間がかかってでもケトン体はゆっくりと産生されてくるはずです。
それがケトン体の出やすさ、出にくさの個人差につながってくるのではないかと私は推察しています。
ケトン体が急に増えすぎて問題となる病態としては、
アセトン血性嘔吐症や
色素性痒疹などがありますが、
それとは逆で、このようにケトン体がなかなか増えないという病態も世の中にはあるということです。
そしてそれはその方がそれまでの人生で酸化ストレスを受け続け、不可逆的なダメージを蓄積してきたという事を意味しているように思えます。
これらの病態に対しては、いきなり糖質制限よりも徐々に慣らしていく糖質制限の方がより好ましいのかもしれません。
引き続き注意深く観察していきたいと思います。
たがしゅう