ブログ読者のCarmen さんから御質問を頂きました。Carmen さん、有難うございます。
(以下、引用)
【2018-04-20 Carmen
MEC食ドクターの福田先生はスーパー糖質制限や完全MEC食で調子が良くない患者を診て糖質摂取を促し症状が良好に向かうケースをブログで紹介しています。
http://seiichizb4.blog.fc2.com
ただ江部先生は福田先生の症例を紹介されてもエネルギー不足の論を崩されません。糖質摂取で症状が良くなることを認めてなくエネルギー論に終始しています。
がMEC食プラスバター大量摂取を考えてもエネルギーが足りてないとは到底思えなく疑問は残ります。
たがしゅう先生は患者が糖質摂取して良くなること、そして糖質制限での体調不良はエネルギー不足が原因とのことについてどう思われますか?
(引用、ここまで)
確かに江部先生はよく、糖質制限開始後のトラブルに対して、
その
大半が摂取エネルギー不足によるものであるとして警鐘を鳴らしておられます。
ただここで言われている「エネルギー不足」というのは厳密に言えば、
エネルギーの絶対量不足ではなく、「細胞でのエネルギー利用障害」というニュアンスの方が正確だと私は考えています。
つまりただ単にエネルギーが足りないのではなく、そこにエネルギー源があっても代謝障害のために利用できないという状況も含めての「エネルギー不足」だということです。
代謝障害があればいくら摂取エネルギーを増やしてもエネルギー不足が解消されないという状況が起こり得ることになります。
それでは、その代謝障害を起こしている原因とは何なのでしょうか。
人体の代謝は大きく糖代謝と脂質代謝の二種類がありますが、
糖代謝メインに働いている時にいきなり脂質代謝に傾けるような強めの糖質制限や断食のような脂質代謝へ切り替える負荷をかければ、
たとえそこにエネルギー源がたくさんあったとしても、しばらくの間脂質代謝でのエネルギー利用に適応できない時期、すなわち一時的な代謝障害をきたす可能性が出てきます。
エネルギー源があるのにエネルギーとして利用できない状況は細胞にとってはストレスがかかります。
細胞にストレスがかかれば、自律神経が感知して、コルチゾールが分泌され、続いてコルチゾールの材料であるコレステロールも動員され……という形で、このストレス負荷環境を克服しようとする一連の反応が身体からの命令で起こりますが、
その命令が下ってもなおストレスフルな状態が続いて許容範囲を越えれば、細胞機能がオーバーヒートしてしまいかねません。
そのため身体はオーバーヒートを避ける目的で、代謝を高回転にする甲状腺ホルモンの活性を弱めるためにT4からT3への変換を抑制する防御反応を引き起こすことができます。これがいわゆる
Low T3症候群と呼ばれる状態です。
ここでまず誤解してほしくないのは、
Low T3症候群は甲状腺機能低下ではないということです。
むしろ甲状腺機能としては過剰に働き過ぎているので、その過剰回転状態をセーブしようとしている状況です。
その結果、脱力などの症状を出現させて強制的にオーバーヒートするような無理をさせないようにするという、いわば身体が身を守ってくれる防御反応なのです。
摂取エネルギー不足の典型である断食や摂食障害でLow T3症候群をきたすのも、絶食でいきなり急増したケトン体を全部エネルギーとして使ってオーバーヒートさせないために起こっていると考えれば説明がつきます。
このオーバーヒートを避けるための防御的脱力反応は、ストレス適応反応の
第一段階で、
セリエのストレス学説に対応して考えれば
警告反応期と呼ばれる段階です。
このメッセージを無視して無理を続ければ、今度は本当に細胞機能がオーバーヒートしてしまいます。
このオーバーヒートした状態が私が言うところの
「過剰適応」病態、セリエのストレス学説で言うところの
第二段階、抵抗期に当たります。
Low T3症候群からすれば、病期がひとつ進行したことになりますが、
この時期でもまだ甲状腺機能低下にはありません。
さらにオーバーヒートしたままの状態でもさらに無理を続けていれば、セリエのストレス学説における
第三段階、疲憊(ひはい)期となり、私が言うところの
「消耗疲弊」病態です。
ここまで病期が進行して初めて「甲状腺機能低下症」と言えるはずです。
従って、Low T3症候群を甲状腺機能低下症と称するのは、この流れを理解せず一緒くたに扱ってしまっているように私には思えます。
ストレスというのは、私達が一般的にイメージしやすい、いわゆる「ストレス」だけでなく、
細胞にとってのストレスというところまで理解の幅を広げれば、
例えば、高糖質食から断食にいきなり代謝変更をかけることもストレスになりますし、
本当は甘いものを食べたいのに医師が言うからというので仕方なく受身的に糖質制限をやり続けている状況もストレスとなります。
そして基本的にストレスは糖代謝を駆動します。無理して糖質制限を続けている状況は細胞にとってのストレスとなってしまっているのです。
ストレスを感じずに糖質制限を続けていれば、経験上遅くとも3ヶ月以内には脂質代謝に適応して体調がよくなってきます。
ところが、例えば「結局糖質制限は甘いものを我慢し続けるもの」などという認識が頭にあれば、そのストレスによって常にコルチゾールなどを通じて糖代謝メインとなり、
3ヶ月経っても、6ヶ月経っても、いつまで経っても脂質代謝に適応しないということになってしまいます。
あるいは
先日紹介した日比野先生のように、肉をたっぷり食べていても糖質主体のたれをたっぷりかけてしまうような食生活でも同じ現象は起こりうると思います。
これが糖質制限を長く続けていて体調が悪くなっていく人達の実態ではないかと私は考えています。
そういう状況の人が糖質を摂取すればストレスで糖代謝メインの身体にとっては利用しやすいエネルギー源が入ってくることになるので身体に染み渡ります。
そうすると糖質摂取でストレス反応が代償されて体調が良くなり、コルチゾールも出る必要性がなるなり、続いてコレステロールも動員されなくても済むようになり数値も下がります。
一見良いことのように見えるかもしれません。
しかし不安定な糖代謝を使い続けるリスクは引き続き負い続けることになります。
それでも本人が健康で幸せなのであれば、糖質制限しなくてもよいのかもしれませんが、
この問題の本質はどこにあるでしょうか。
つまり糖質制限で体調が悪くなる人には何かしらのストレスがかかり続けているということです。
ストレスマネジメント不足の人もいるでしょうし、体質的に脂質代謝が利用できないという人もいるかもしれません。
しかしいずれにしても、
体調が悪くなるというのに見直しすることなく、それでも糖質制限をし続けるという心の在り方に問題があると私は考えます。
糖質制限に限らず、自分が決定権を持つ主体的治療であれば、
たとえトラブルになったとしても自分で軌道修正できるはずです。
糖質制限制限ありきではなく、自分の体調ありきで糖質制限と付き合っていくべきだと私は思います。
たがしゅう
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