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抑圧された怒りに気づく

category - おすすめ本
2019/ 01/ 01
                 
さぁ、2019年の幕開けです。

毎年、年頭の記事では私のお気に入りの本を紹介するのが恒例ですが、

今回紹介する本は、読者の皆さんに強くおすすめさせて頂きます。

奇しくも私がブログ開始以来、2度目の毎日記事更新中止を決断し、

これからのことを腰を据えてゆっくり考えようとしていた矢先に読み始めた本だったのですが、

結果的に私が昨年末宣言したオンライン診療専門クリニック開業の決断を強く後押ししてくれる本となりました。
            



心はなぜ腰痛を選ぶのか―サーノ博士の心身症治療プログラム
単行本ー2003/10/20
ジョン E. サーノ(著), 浅田仁子(訳), 長谷川淳史(監訳)


著者はニューヨーク医科大学臨床リハビリテーション医学科教授のジョン・E・サーノ博士です。

皆さん、もしもなかなか治らない腰痛を抱えられた場合、誰に相談しようと思いますか。

多くの方は整形外科と答えられるのではないかと思います。

ところがこのサーノ博士は難治性腰痛の原因は整形外科で指摘されるような腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの構造異常にあることはほとんどなく、

難治性疼痛の根本原因は心理的要因、特に抑圧された怒りにあり、腰痛とはその心理的要因から注意をそむけさせるために脳が作りだした身体の反応なのだ、というのです。

実は整形外科の世界でも画像で異常のない腰痛の8割は心因性だというように心理的要因の重要性は認識されています。

しかしながら構造異常がある場合は、通常その構造異常によって腰痛がもたらされていると判断されるのが一般的です。

ところがサーノ博士は、構造異常は健康で腰痛のない人でもレントゲンやCT、MRI写真を取ればそれなりの頻度で一般的に観察される現象であって、

構造異常の有無=腰痛の有無とはならないということが多数の研究で示されているといいます。

サーノ博士いわく、無意識の抑圧された怒りに対して脳がストレスを感じると、

自律神経系の関与を通じて筋肉、特に腱の部分に局所の毛細血管収縮を通じた酸素欠乏をきたし、疼痛を引き起こすとし、これはTMS(Tension Myositis Syndrome;緊張性筋炎症候群)と名付けられています。

そしてTMSによる痛みの部位は腰が一番多いものの、首とか背中、膝、足など実に様々ですが、

どの部位に痛みを生じている患者であっても、両肩の最上部(上部僧帽筋)、腰の両側のくびれ(腰部傍脊柱筋)、両臀部外側(臀筋)に圧痛があることを示し、

このTMSが局所の構造異常によってもたらされているものではなく、脳ひいては自律神経を介してもたらされている症候群であると主張されたのです。

ここで誤解してはいけないのは、これはその腰痛が脳の作り出した虚構であるとか、ストレスからもたらされた詐病であるとかそういう話では決してなくて、

普段意識されていない無意識下の心理的問題によって脳が刺激されて実際に引き起こされている実在の症状であるということです。

また痛みを起こすことによって働かなくて済むようになるだとか、周りから心配されて快適な状況を得るだとか、いわゆる疾病利得によって発生するというような話とも違います。

本人さえ気づいていない無意識下の問題、例えば幼少期に親から虐待を受けたことに対する怒りが無意識に抑圧されていたりですとか、

いい人だ、いい人だと周りから言われ続けるがあまりたまには自由に振る舞いたいのに性格上断れない所に用事を頼んでくる友人に対する怒りが無意識に抑圧されていたりですとか、

とにかく何らかの原因で無意識下に潜り込んでしまった心理的要因、特に怒りが原因で引き起こされる実際の症状がTMSだということなのです。

そして驚くべきはこのTMSの治療方法です。
①痛みの原因が身体の構造異常にあることを否定する
②痛みが発生する根拠となる自分の中にある心理的要因を認識する
③自分の心理状態、およびそれから派生する問題すべてを現代社会に生きる健全な人間にとって当たり前のこととして受け入れる


まず構造異常が見つかると、脳は自律神経を通じて躊躇なくその構造異常がある場所を中心に痛みを引き起こします。

そうすることで意識はますます本当の原因である無意識下の抑圧された怒りから気をそらされてしまうということです。

だから構造は関係ない、誰にでもある白髪やささくれのようなもの。ただそこにある老化現象で痛みには全く関係ないと納得することからすべては始まります。

そのうえで、本当の原因探しが始まります。何か怒りを我慢しているような事はないかをこれまでの人生すべてを振り返ってありうることをじっくりと探していくのです。

多くの場合、自分で思い当たる節があったりするそうですが、見つけるのが難しい場合は心理療法的アプローチで探すのを手伝ったりします。

そして何かしらの原因が見つかったとして、それが対処可能な場合は行動に移し、対処不可能な場合は慰めつつありのままを受容するといいます。

受容するだけでは何も状況は変わらないのではないかと思うかもしれませんが、

「それが原因だったのか」と気づくプロセスを通じて、脳は痛みを発生させて真の原因から意識をそらす必要性がなくなるために痛みが治まるのだというのです。

この治療方法によりTMSと診断された難治性疼痛の患者さんが治った率はなんと90~95%だそうです。

しかも様々な病院を回り、手術を受けても治らず、リハビリ、マッサージ、鍼灸、ヨガなどあらゆる代替療法を受けても治らなかったほどの難治性の痛みが、です。

ただし、こうした成績を出せるには条件がありました。それは、「心理的要因が身体的疾患を引き起こすという考え方が受け入れられる人のみTMS治療プログラムを受けている」ということです。

これがどういうことを意味するのかといいますと、

「先生、治してください」と治療の主導権を他者に依存している人にはこの治療法は効かないけれど、

自分自身で考え方を変え、何とか克服しようという意志のある人は驚くべき治療効果が得られているということです。

これはまさに主体的医療の構造そのものだと感じました。

さらにはサーノ博士はリハビリなどの補助療法を一切行っていません。

正確には開始当初は行っていたそうですが、途中から一切止めたとのことです。なぜならばいくら心理的要因のことを理解している療法士がリハビリを行っても、リハビリを行えばどうしても原因が身体にあることに意識が向いてしまうからだそうです。

ということはつまり指導やカウンセリングのみで難治性疼痛の治療ができるということであって、

これはオンライン診療での治療が成立するではありませんか。

もっと言えば、検査を受けて構造異常を指摘することはむしろTMSの難治化につながるので、そういう意味でもオンライン診療での対応が可能です。

さらにこの本には腰痛、頸部痛、肩部痛などのありふれた痛みのみならず、

いわゆるむち打ち症や神経根圧迫、胸郭出口症候群、反復性ストレス障害、テニス肘、シンスプリント(過労性脛部痛)、ハムストリング筋断裂、尾骨痛などありとあらゆる整形疾患にTMSの病態が関わっていると書かれています。

それだけではなく、TMSの等価疾患として上下部消化器系疾患、循環器系疾患、皮膚疾患、免疫系疾患、三叉神経痛、顔面神経麻痺、めまい症候群から慢性疲労証拠群まで、ほとんどすべての病気にTMS病態が関わっているのではないかと思えるほど多種多様なものが挙げられていました。

これは今後の私の診療スタイルに非常に参考になるばかりではなく、

現在何らかの難治性症状に悩んでいる人にとっても有益な情報なのではないでしょうか。

詳しくは是非一度この本を読んでみて頂ければと思います。私も何度か読み直して定着させようと思います。


なお2019年になったことをきっかけに、

私はもう一つブログを始動させることに致しました。

題してオンライン診療への挑戦です。

興味のある方はのぞいてみて頂けると嬉しいです。

それでは今年もまた宜しくお願い申し上げます。


たがしゅう

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コメント

非公開コメント
        

明けましておめでとうございます。Twitter読ませていただいてます。今年も宜しくお願いいたします。

慰めつつありのままを受容する上で大切な事があります。この時に、どうして「怒り」を感じるのかをみつめ、怒りを発生させる抱え持っている価値観をみつけだしその価値観を手放します。最近感じた怒りを発生させる価値観、そして、その価値観を作り出してしまった、過去にも怒りを感じた出来事をみつけます。感情を発生させる価値観を抱え持っているのは、価値観を作り出してしまった出来事が必ずあります。現在怒りを感じる自分と、過去に怒りを感じ価値観を作り出してしまった自分を分離して考えると価値観は手放しやすくなると思います。感情は価値観を抱え持っているから発生します。その価値観を手放し生き方を変えないと、またストレスを発生させる思考パターンを繰り返してしまいます。

腰痛を作り出す怒りだけでなく、持病をお持ちの方は、幼い頃に傷ついてしまった心が価値観を作り出し、病気を作り出す思考パターンを繰り返しています。怒りだけでなく、悲しみ、恐怖、嫉妬、劣等感、自己卑下、罪悪感、恨み、憎しみ、無力感、絶望感などもそうで、人それぞれです。

幼い頃の傷ついた心は、よくない思考パターンを繰り返し、人生に悪影響を及ぼします。たがしゅう先生の場合は健康面ではなく、恋愛面に大きく悪影響を及ぼしてしまっているのは、ご自身でもお気付きですね。そして、その価値観を手放す事が難しい事もよくご存じですね。
Re: タイトルなし
NM さん

 コメント頂き有難うございます。

 確かに私の中にも抑圧された怒りはあります。
 公開の場ゆえみなまで言うのは自粛しますが、許しているつもりでも相手との関係性の中で怒りが再びこみあげてきたりするのもまた事実です。価値観を手放すというのは口で言うほど簡単ではないのかもしれません。もう少し心理学的なことに精通する必要があると感じています。
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身体は正直
たがしゅう先生
あけましておめでとうございます。
本年も毎度中身の分厚い記事をゆっくりしっかり拝見させていただきます。

「身体の不調は心の不調」

先生が昨今マインドフルネスを強調されるようになり、近い将来オンライン診療の可能性も視野に入れ始めているようで、確かに「心」の診療が重要であることは否定はしませんが、一患者の立場として留意していただきたいことが1点あります。

「身体に触れる」ということも心の診察において重要であるという点です。

「オンライン」という手段はあくまでもテレビの向こう側から「情報のみ」を享受できるだけで、実際には先生の「体温」「言葉の熱量」は伝わりません。

「触れて」「撫でて」もらうことでしか受け取れない「効果」もあると思います。

子供がおなかが痛い時に、おなかをさすってあげて優しく声をかけると良くなるケースを思い起こすと、「触れる」という行為は診療の重要な担務であると思います。

先見性のあるたがしゅう先生ですので、おそらくその点も考慮に入れての新たな挑戦だと思います。

老婆心から出たコメントだとご容赦ください。

今後のご活躍ご期待申し上げます。
Re: 身体は正直
だいきち さん

コメント頂き有難うございます。

> 「身体に触れる」ということも心の診察において重要であるという点です。

重要な点を御指摘頂いていると思います。
確かにその通りで、私も例えば漢方での切診(触診)の重要性は理解しているつもりですし、リハビリ、マッサージ、鍼灸、整膚など触れること自体が治療において重要な意味を持っている治療法のことは認識しています。だから漢方好きの私としては正直最初はオンライン診療には否定的な見解でした。

しかし制約があることを理解した上でオンライン診療にはどのような可能性があるかを考えた時に、オンライン診療は逆にその制約があるが故に「医者に治してもらう」ではなく、「基本的には自分が治す」という気持ちを育てやすい、言うなれば主体的医療を展開しやすい場になる、ということに気づいたのです。
そこにもし私がいれば、私の治療方法に依存して主体的な行動がなかなか取れないという方も多いのではないかと推察します。そう、対面診療は手厚い代わりに患者さんの主体性が育ちにくいと言い換えることもできます。

医師の立場としては、例えば漢方薬を処方するのに触れないから処方できないと諦めるのではなく、
それならば触らなくても漢方薬を適切に処方するためにはどのように問診していけばよいかと、問診だけで成立する新しい漢方処方技術をこれから確立していけばよいと発想を切り替えるのです。

なおオンライン診療をしていて、もしも私に会いたくなった方のために保険診療で展開する非常勤の勤務先も別途確保するつもりで考えています。とにかく新しい試みですので、様々な方々からのご意見を柔軟に取り入れながら取り組んでいきたいと思います。
No title
先生こんにちは。

度々お願いするばかりで申し訳ありません…
オンライン診療のブログを
さくら病院のリンクがあるカテゴリーへのご登録をお願い出来ませんでしょうか。

お時間のございます折に
差し支えなければ
どうぞよろしくお願いいたします。
Re: No title
一読者 さん

 御要望頂き有難うございます。

 諸事情でさくら病院のHPには載せられませんが、
 その代わりたがしゅうブログのリンクに追加とさせて頂きました。御了承下さい。
No title
お忙しいところありがとうございます!