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因果関係の証明は難しい

category - イベント参加
2019/ 06/ 15
                 
先日、かごしまビジネス読書会というイベントに参加して参りました。

月に1回、毎回一冊のビジネス書を取り上げて30分程度その場での読書時間が設けられ、

その感想を参加者どうしで語り合って情報交換するという趣旨の会です。

この会のポイントは課題図書は持ち込み推奨ですが、「事前に読んでいなくても参加可能」だということです。

私なども課題図書を持ってはいるものの、日頃の生活の忙しさに追われて積ん読となり、読み始めるきっかけを失っている本が多々あります。

なので、「事前に読んでいなくても可」というルールがあることで大分参加のハードルが下がりました。
            

この辺りの工夫は参加者目線の配慮ということでイベント開催の折に参考になるところです。興味のある方はFacebook「かごしまビジネス読書会」でフォローしてみて頂ければと思います。

さて、今回の課題図書は経済学者の中室牧子氏、医師で医療政策に詳しい津川友介氏の共著「原因と結果の経済学(ダイヤモンド社)」です。

この本ではまず、世の中にあふれる情報の中に、因果関係を示しているように見えて、相関関係を示しているだけというものがたくさんあることが示されています。

因果関係とは、ある現象と別の現象に原因と結果の関係があることを言い、相関関係とは、ある現象と別の現象に関連がありそうに見えるけれど、原因と結果の関係にはないことを言います。

一見因果関係があるように見えても、実は全くの偶然であったり、両者に関係があるように見せかける第3の因子が見落とされていたり、原因と結果が逆に解釈されていたりすれば、それはただの相関関係です。

例えばある宝石屋が広告を打ってその年の売り上げが上がった場合には、広告のおかげで売上が上がったと因果関係があるように見えますが、

その時たまたま有名芸能人がSNSでその宝石屋の商品を紹介して盛り上がっていただけで、広告の影響はほとんどなかったのだとしたら広告代と売上の関係は相関関係です。

このようにあたかも原因と結果がはっきりしていると世の中に誤解されているけれど、実はそれが全く証明されていないという関係は世の中にたくさんあるということを示し、

本当に因果関係があるかどうかを示すには経済学や統計学に基づく「因果推論」というアプローチで科学的に検証された方法を用いるべきで、いくつかの「因果推論」の方法をなるべく分かりやすく紹介し、その重要性を読者に知ってもらうというのがこの本の要旨でした。

ではその「因果推論」とはどういうものなのかといいますと、

因果関係を証明するためには、「ある現象」が起こった場合に「別の現象」がどうなるかという事実と、

同じ「ある現象」が起こらなかった場合に、同じ「別の事象」がどうなるかという「反事実」と呼ばれる事実とを比較しなければ論理的に検証不可能なわけですが、

現実にはタイムマシンでもない限り、ある現象が起こった場合と起こらなかった場合を比較することはできないはずです。

例えば「メタボ健診が長生きに寄与するか」どうかを調べるためには、

ある人がメタボ健診が受けた場合に何年間生きることができるかという情報と、

全く同じその人が時間を巻き戻してメタボ健診を受けなかった場合に何年生きることができるかという情報とが必要ですが、そんな情報が得られるはずもありません。

それじゃあそんなことは調べようがないじゃないかと思うかもしれませんが、

「因果推論」では、その導き出しようのない「反事実」を、反事実に近似する「もっともらしいデータ」を作り出すことによって克服しようとするのです。

「メタボ健診が長生きに寄与するか」という命題の場合は、「ランダム化比較試験」という「因果推論」の手法が用いられます。この手法は医学の世界でもエビデンスレベルが高いと称される方法なので、ご存知の方も多いかもしれません。

ランダム化比較試験とは、ある大集団をメタボ健診を受けるグループとメタボ健診を受けないグループとにランダムに分けて、

それぞれのグループを何年も追いかけてデータを取り続け、一定の調査期間の間に何名が死亡したかとか病気の状態を知る検査結果などの情報を比較して、

メタボ健診が健康への寄与があるかどうかを検証するという手法です。

ポイントの一つは「ランダムに分ける」ことです。例えば健診受ける派と受けない派を参加者へ自由に選ばせてしまうと、もともと健康意識が高いグループと、そうでないグループとで比較することになってしまい、

得られた結果が「メタボ健診を受けたかどうか」によるのか、「健康への意識が高いかどうか」によるのかがわからなくなってしまうので、それを防ぐために「ランダムに分ける」という作業を行います。

もう一つのポイントは「大集団」で行うということです。いくらランダムに分けたところで、例えば健診を受けるグループ5名と健診を受けないグループ5名は、全く同じ性質のグループとは言えないだろうと思われます。中には胃腸が丈夫だとか、逆に極端に虚弱体質だとか、個性的な身体特徴を持つ方も混ざっているかもしれません。

しかしこれを健診を受けるグループ5万人、健康を受けないグループ5万人とかに増やしたら、それは中に多少は個性的な人も混ざっているかもしれませんが、大多数は平均的な身体特徴の方々になるということで、

統計学では対象者の数を増やせば増やすほど、「正規分布」と呼ばれる平均的な特徴を示す集団の特徴へ近似してくるという事実が観察されていますので、

ランダム化比較試験で対象者の数が十分に多ければ、まるで同じ人物のメタボ健診を受けた場合と受けなかった場合とを、即ち先程タイムマシンでもない限り検証不可能という「事実」と「反事実」を比較するような状況を導くことが可能となる、というわけです。

ちなみに「メタボ健診が健康に寄与するかどうか」のランダム化比較試験はすでにデンマークで行われていて、30〜60歳の成人男女を、健診を受ける約1万2000人と、健診を受けない約4万8000人とを10年にわたって追跡されています。

その結果、「メタボ健診を受けるかどうかは10年後の死亡率に統計学的に有意な差はなかった」、即ち「メタボ健診を受けても受けなくても関係なかった」と、

「メタボ健診を受けること」と「死亡率が低下する」との間は「因果関係」ではなく、「相関関係」であったという結論でした。

実は2008年から始まった日本のメタボ健診は、こうした研究結果があるにも関わらず、さりとて日本でのメタボ健診についてのランダム化比較試験が行われたわけでもなく、

明確な根拠もなく、「おそらくメタボ健診すれば病気を予防できるであろう」と言わんばかりの発想で、2014年までに1200億円の税金が投じられているのだそうです。

だから著者らはこうした因果関係の有無を示した科学的に信頼度の高いデータが医療政策に積極的に投じられるべきだと主張されていました。

それはもっともな意見に感じられるかもしれませんが、私の意見は少しそれとは違います。

一言で言えば、こうした「因果推論」のアプローチ、「科学的に正しい」という言葉のイメージが一人歩きしていて、その不完全さが過小評価されてしまっているので、

その不完全さをわきまえた上で取り入れられるべきだというのが私の主張です。

実際に糖質制限関連ではこの因果推論で導き出されたエビデンスが現実世界での事実を歪めようとする動きにまで発展してしまっている現象が起こっています。

長くなってしまったので、続きは次回の記事で語りたいと思います。


たがしゅう

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