ブログ読者の方より次のような御質問を頂きました.
最近では、悪性腫瘍に対しても、ケトン体食の勧めをしておられる先生方がたくさんおられます。(福田一典先生など。)
http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4883929035/ref=pd_aw_sims_6?pi=SL500_SY115&simLd=1
甲田療法でも、ブドウ糖に変換されない生玄米を勧めています。
しかし、一方で、体の酸性状態は悪性腫瘍にはよくないと、超高濃度ビタミンC点滴療法や、ジクロロ酢酸点滴療法、クエン酸療法などを、勧める先生方もおられます。
私は糖尿病ではなく、こちらの疾患と、リウマチ様症状があり、糖質制限食を始めたのですが、糖質は抜きたい、けれども、酸性にはしたくない、今はそんな不安の中におります。
先生のお考えを少しお伺いさせていただきたい気がいたします。
この方は少し糖質制限を誤解しておられる節がありますので,
少し踏み込んで解説したいと思います.
まず糖質制限は大原則として身体が酸性になる食事療法ではありません.
医師でも勘違いしている人が多いことなのですが,糖質制限を学ぶ上で
「生理的ケトーシス」と「ケトアシドーシス」の区別は確実につけておく必要があります.
糖質制限というのは付け焼刃的エネルギーである糖質の利用を最小限に抑える事によって,
本来使うべき燃費の良いエネルギーである脂質から生み出される「ケトン体」を主たるエネルギーとして用いるために,高脂質,高蛋白食を基本とする食事療法です.
よって,
糖質制限の本質は,「ケトン体」をうまく利用する事にあると思います.
ケトン体そのものは酸性ですが,基本的には基礎インスリンの複雑な働きでその酸性は緩衝され,酸性とはなりません.
つまり「ケトン体が高いこと=酸性状態(アシドーシス)」ではないのです.
1型糖尿病やペットボトル症候群のように,基礎インスリンも含めて絶対的なインスリン枯渇状態にない限りは,ケトン体が多少高くなっても酸性状態にはならないのです.
ただ例外として,いきなり絶食をした場合などは急激にケトン体が上昇するので,
そのスピードにインスリンの作用が追い付けず,一時的に軽い酸性状態になるということはありますが,
それもせいぜい数日間の話で,速やかにインスリンの働きによって代償されるので問題ありません.
もっと言えば,一時的な酸性状態は身体にとって意味のある事だと思っています.その理由については
以前も考察しましたが,
基本的な状態は酸性ではないけど,いざという時だけ酸性物質を取り出して使える,という状況は身体を守る上で有利に働いてくれていると考えています.
ケトン体に抗炎症作用がある事や,尿酸に抗酸化作用がある事がその考えを支持します.
一方で身体がずっと酸性状態であり続けることは問題です.
インスリンの絶対的欠乏状態でケトン体が上がり続ければ,これは緩衝作用が働きませんので,体は常時酸性の状態になります.これを「ケトアシドーシス」といいます.
これは身体にとって危険な状態です.悪性腫瘍に悪い云々というより命に関わるので直ちにインスリンを補充し補正しなければなりません.
この「ケトアシドーシス」と「生理的ケトーシス」を明確に区別しておかないと,しばしば議論が成り立たなくなるので,何はともあれこの点をよく理解しておく必要があると思います.
一方で,質問文の骨子部分を考えてみますと,
「〇〇先生はこう言っている.でも△△先生はああ言っている.どれを信じていいのかわからない.だから□□先生の意見を聞きたい」
という内容になっているのではないかと思います.
私がまずいと思うのは,そこに自分の意見がないという事です.
なぜ自分の意見がないかと言うと,「
なぜそうなるのか」という事にこだわっていないからです.
ある人は「私は医療の素人だから難しいことはわからない」と言うかもしれませんが,それは怠慢だと思います.
他ならぬ自分の身の事なのだから,それはやっぱりしっかり考えて自分の意見を持つべきなのです.
自分の意見を持とうとしなければ,質に関わらず情報は蓄積し,その知識はつながらず断片化します.そしてその結果,自分の中で矛盾を生じ,不安になります.
それに,複雑な医療知識がなくても,糖質制限にまつわる問題の多くは自分の頭で考える事はそんなに難しい事ではありません.
例えば,「体の酸性状態は悪性腫瘍にはよくないと,超高濃度ビタミンC点滴療法や、ジクロロ酢酸点滴療法、クエン酸療法などを、勧める先生方もおられます」と書かれていますが,
踏み込んで考えてみましょう.
本当に「酸性状態は悪性腫瘍によくないから高濃度ビタミンC点滴療法」なのでしょうか?
逆に言えば,高濃度ビタミンC点滴療法は酸性状態を改善させる治療法なのでしょうか?
もっと言えば,高濃度ビタミンC点滴療法はどうして効くのでしょうか?
このインターネットの時代,それを調べるのは難しい事ではないはずです.早速「ビタミンC点滴療法 なぜ」で検索します.
するとすぐにそれを説明しているサイトが見つかります,例えば次のような文章です.
「ビタミンCは自身が酸化されることで強力な抗酸化作用を発揮しますが、その際に大量の過酸化水素を発生させます」
「正常な細胞は過酸化水素を中和できますが、癌や悪性腫瘍はこれを中和出来ず消滅します」
ここには酸性状態をどうこうするとは書かれていません.ビタミンC療法の肝は抗酸化作用だと思います.
逆に言えば酸化という現象が悪性腫瘍にとってはよくない事だとわかります.
つまり自分の頭で考える事を怠った事によって,いつのまにか「酸化ストレス」が「酸性状態」と置き換わってしまっていたという事ではないかと思います.
同様に,ジクロロ酢酸点滴療法、クエン酸療法についても,
なぜ効くのかについて,自分で納得するまで調べるべきでしょう.
きちんと考え続けていれば,今までの知識とつながっていく感覚を得る事ができます.
真に正しい理論には穴がないはずです.
私に言わせれば質問者された方の不安は杞憂に過ぎません.
私なら迷わず糖質制限です.
たがしゅう
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